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新天地⑥

 荒野の馬の足跡は、たとえ昨夜のものでも目立っていた。


(これなら別に場所を聞かなくても平気だったな)


 しかし、荒野は森が近づけば次第に草原へとなり、一気に馬の足跡を辿れなくなる。


「雨が降って来た……」


 更に、タイミングの悪い事に雨まで降って来る。

 しかし、ギヨウは今更歩みを止める気はない。

 森はすぐそこなのだから。


 それからしばらくして森へと入るが、ギヨウは馬を走らせるのをやめなかった。

 というよりも、馬が勝手に走るのだ。

 森の民からもらったこの馬は、ただ森の中を久しぶりに走るのが嬉しいのか、もしくは馬にしか見えない敵の痕跡を追っているのか。


「ん?」


 そして、ギヨウを乗せた馬は、いつしか走るのをやめて歩き出した。

 森に入ってから、それほど深い場所ではなく、それほど長い時間は走っていない。

 そこに開けた場所があり、一つの小屋があったのだ。

 しかも、都合のいい事にギヨウが来たのは小屋の裏手である。


「よくやったな」


 ギヨウは馬を褒めながら、馬から降りた。


(俺より賢いかもしれない)


 森の民に、よくよく調教された名馬なのだろう。そんな事すら考えてしまう。

 

「ちょっと待っててくれな。俺が帰れなくなっちまうからな」


 実のところ、ギヨウは帰りの事など何も考えていなかった。

 今、やっと思いついたのである。

 しかし、馬を木に繋いだりはしなかった。

 自分より頭の良い馬だからである。


 野盗の小屋は、裏から見る分にはただのボロ小屋であった。ギヨウの小屋と良い勝負である。

 ただ、窓からランタンの光が見えており、中に人がいるのは間違いない。

 

(まさに隠れ家って感じだ)


 ギヨウは、雨が降って来たのは運がないと思ったが、むしろ雨が降ることによってギヨウが近づく音が聞こえなくなり、ギヨウの味方になった。

 おかげで、簡単に小屋への接近をすることが出来る。

 

 裏手には窓があるが、覗き込もうか悩んだ後に、ギヨウはやめることにする。

 裏手の壁に張り付くと、そのまま前へと向かう。

 ギヨウは、そのまま小屋の前まで行くが、雨のせいか、見張りも何もいなかった。

 

(たいして大きい小屋じゃない。多くても10人はいない)


 いくら天下無双を目指すギヨウでも、未だ経験不足である。

 10人はおろか、5人すら同時に相手にしたことはない。

 やはり不安はある。


 それでも、ギヨウは深呼吸をすると、一気に扉を蹴り破ると、小屋の中へと押し入った。


「うわ!」

「な、なんだ!?」


 小屋の中へと入ると、ギヨウはすぐさま一番近くの敵を斬ってしまう。


「え?」


 不運にも扉の近くにいた野盗は、悲鳴を上げる間もなく、首を飛ばされて死んでしまう。


(六人か)


 正確には、もう一人斬ったので五人である。

 そして、返しの刃ですでにもう一人斬ってしまい四人となる。

 なんにせよ、ギヨウの予想よりも少ない。


「こ、こいつ!ザモウを殺したや――」


 剣も抜かずに、ギヨウを指さしてきた奴を、ギヨウは斬り飛ばす。


(これで残り三人)


「くそっ!やるぞ!」


 ここまでくれば相手も、それぞれ武器を手に持ってギヨウを迎え撃つ体制に入る。

 だが、ギヨウが焦ることはなかった。


(たったの三人だ)


 ギヨウと賊たちは、互いにじりじりと距離を詰め合っていたが、相手の一人が痺れを切らしたようで、それにつられて、賊は三人同時にギヨウへと襲い掛かってくる。


「うわああ!」


(遅い!)


 はっきりと言えば、どう見ても戦い慣れている人間の動きではなかった。

 野盗と言っても、街を直接的に襲っているわけではなく、ただ盗みを働いているだけという風な言われ方であった。

 だが、なんにせよギヨウは手加減をする気はなかった。

 実際に、居合わせてしまった村人は何人か殺されているようだし、今まさに相手はギヨウを殺すために武器を手に取っているのだから。


「ふっ!ふっ!ふっ!」


 完璧に相手の動きを見切り、ギヨウは三人全員を一瞬で斬り殺してしまう。

 

「ふぅ……」


 小屋の中は血まみれであった。

 そしてもちろん、ギヨウも返り血まみれである。

 やはり、雨が降っていて良かったのだ。

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