新天地⑤
「うわあああ!」
大きな声が聞こえて、ギヨウは目を覚ました。
声自体は、ギヨウには聞き覚えのある声である。
弟の方の、ダククガの声だ。
一体何事かと思いながら、ギヨウは念のため剣を持ちながら家を出て行く。
「どうしたんだよ?」
家の外には、やはりダククガとシンザがおり、外の死体の前で驚いて震えていた。
(やべ、そういえば死体忘れてた)
いつもは、ギヨウは二人が来る前には起きているのだが、昨日は変な時間に起きてしまったこともあったからか、遅くに起きてしまった。
そのせいか、自分が殺した賊の死体があるのも、すっかり忘れていた。
「どうしたってお前……それはこっちの台詞だよ」
ダククガの方は、死体にビビッて声も出ないようで、シンザの方が比較的冷静にギヨウに問いかけて来た。
「昨日、俺の馬を盗みに来た一味の一人だよ。襲われそうになったから斬ったんだ」
実際には襲われたわけではないが、嘘は言っていない、説明するのが面倒そうなので省いただけである。
「ギヨウお前、剣なんて使えたんだな」
言われてみれば、この兄妹の前では鍬しか持った事がない事にギヨウは気付く。
「まあ、それなりにな」
やはり説明が面倒なので、ギヨウは適当にはぐらかしておく。
「それより、この辺りは盗賊とかよく出るのか?」
ギヨウが来てから一か月で、早速襲われてしまった事になる。
ギヨウ自身は大丈夫でも、馬が襲われてしまったらどうしようもない。
「いや、いつもは平和だよ。親父が言ってたけど、最近出没しだした野盗だと思う。盗みを働くのはもちろん、何人か殺された奴もいたみたいで、困っててさ」
実際に、ギヨウ相手に賊は剣を抜いてきた。
これが老人とか相手なら、見つかった瞬間に殺されていたのかもしれない。
困っていると軽く言ってはいるが、そんなに簡単な問題ではないだろう。
「でも困ってるって言ったって、どうするんだ?」
「村長が領主様に対処できないか、嘆願書を送ったって言ってたぞ」
(領主様ってのはゼルバの事だよな)
ゼルバの事だから、手早く対処するのだろうとは思う。
(だけど、ゼルバだって忙しいんだろうな)
「なあ、そいつらの根城とかってのはわかってるのか?」
「ああ、あっちの方に森があるだろ?あの森の中に逃げ込むのを何度か目撃されてるな。だから、あの森には近づくなよって言われてる」
シンザが指さした方角は、昨夜、盗賊たちが逃げ出したのと同じ方角である。
「来てもらって悪いんだけどよ、今日は……その……死体もあるし、帰ってもらっていいか?」
意味の分からない理由をつけて、ギヨウは二人を帰らせようとする。
「あ、ああ。死体というか……ダククガが腰を抜かしてるからな」
「に、兄ちゃん!そういうわけじゃねえよ!」
シンザの言葉に、ダククガは抗議の声を上げた。
だが、情けなく尻もちをついているその姿は、どう見ても死体を見て腰を抜かしているのであった。
「わかってるよ。立てるか?」
それでも、シンザは兄らしく、弟に手を差し伸べる。
「う、うん」
ダククガは、兄の手を取ると、なんとか立ち上がって、死体に背を向けて歩き出した。
「じゃあ!また明日来るよ!」
この時、シンザはギヨウの様子がおかしい事には気づいたものの、何を考えているかまでは予想もできなかったのである。
ギヨウは、しばらく二人の背中を眺めていたが、その背中が街へと消えていったのを確認すると、馬へと飛び乗った。
「さて、行くか」
そして、馬を走らせ出す。
向かう先は言うまでもない。
野盗の根城である。
別にギヨウは、自分の実力を隠しているわけではない。
ただ、面倒な事は避けたいと思っているだけである。




