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女達の想い①

 戦が終わると、ギヨウ達は家へと帰って来ていた。

 ゼルバに言われた通り、先の戦に参加したものは休息を取り、代わりにガエロオ将軍とマチェバナン将軍がエルエ国を攻めていた。

 ただ、ギヨウもたんなる休息と言うわけでもなく、アカツキ隊は五千兵隊に昇格したのだから、軍の再編成をしなければならず、ギヨウはそれに頭を悩ませていたのだ。


 まず差し当っていうのであれば、オグルブの投降した兵の問題があった。

 ギヨウは、捕虜にした兵達を集める。

 その数は多く、数百名ほどであった。

 その中でも、自分が代表だと言う男が一歩前に出て、ギヨウの近くに来る。


「おう、えっと……」


 その男は、若い男であった。といっても、見るからにギヨウよりは年上だが。

 投降した兵の中には、もっと老兵も多かったと思う。

 ただ、なんにせよ名前がわからないので、ギヨウは言い淀んだ。


「ルベオダです。オグルブの八番目の息子となります」

「そうか。今日お前達を呼んだのは、少し話がしたいからだ」

「話を聞いていただけるだけ、ありがたいです」


 ルベオダが跪いて答える。本来であれば、殺されても文句は言えない立場である。


「そうだな……まず、お前ら俺を恨んでないのか?」


 ギヨウは回りくどい話し方はしない。すぐさま本題に入る。


「そうですね……恨んでいないと言えば嘘になります。父を殺されたのは事実ですし、私よりも上の兄や姉達は全員戦死しました。それに、弟や妹達、母達も」


 オグルブの兵は、ギヨウの言葉にざわつくことなく、ルベオダだけが答える。

 全てをルベオダに任せているという感じである。

 それだけ統率がとれているのだ。


「ですが、戦死した者は皆、戦いの中で満足して死んでいったはずです。本人達も恨んではいないでしょう。何より父も、満足そうな顔をして死んでいました」


 ギヨウは黙って次の言葉を待つ。

 そもそも、オグルブの兵からは、ギヨウに対する敵意をまるで感じなかった。


「それに、これは父の教えでもあります。強きものに従え。そう父は言ってました。ここにいる者達は、その命令に従ってここにいるのです」


 ギヨウは頬を掻く。答えているようで、答えていないからである。

 さらに言うなら、ギヨウは回りくどい言い方をしないが、ルベオダの言葉は回りくどい言葉なのだろう。


「つまり、俺に従って、アカツキ隊に入りたいってことでいいのか?」


 そしてギヨウは、やはりざっくりと答えだけを求めるのだ。


「その通りです。出来れば、残った母や妹達を全員妻として娶って欲しいのですが……断られてしまったようですね。何故でしょうか?」


 それも、オグルブの教えなのだろう。

 実際オグルブも、敵の妻を略奪してきたのだ。

 だが、そんな事を言われても、ギヨウは困ってしまうのだ。


「何故って言われても……そもそも俺には妻もいないしな」


 言ってから、ギヨウはしまったと思う。

 いないのなら丁度いいと言われかねない状況である。


「なるほど。そうだったのですか……では、この話は保留ということで」


 だが、何故かルベオダはあっさりと引き下がった。

 その理由はわからないが、ギヨウはこれ幸いにと話を進める。


「アカツキ隊は、元々問題ある奴ばかりがいる部隊だ。敵だろうが、仲間に入れるのには抵抗はねえ」


 それを聞いて、ルベオダが嬉しそうな顔をする。


「でもよ」


 しかし、ギヨウは断りをいれたため、ルベオダは緊張した顔になった。


「お前達エルエ国の人間だろ?エルエ国と戦えるのか?」

「もちろん。覚悟の上です」


 ルベオダは即答した。

 それすなわち、本当に覚悟は完了しているのだろう。


「駄目だ」


 だが、ギヨウはそう言った。

 それを聞いて、ルベオダは悲しそうな顔をする。


「お前達をアカツキ隊に入れるのはいい。だけど、仲間で戦うのは駄目だ。エルエ国を攻めている間は、お前達はここで農業でもやってろ」


 しかし、それは拒否をしたわけではなかった。

 そのため、ルベオダは一転して嬉しそうな顔をする。


「あなたは父のように強く、父のように優しいのですね」


(優しい?あれがか?)


 ギヨウはオグルブの鬼のような顔しか見ていない。


「我ら一同、あなたの命令に従います」


 ルベオダがそう言うと、オグルブ兵達は深く頭を下げたのだ。


「お、おう」


 実の所、ギヨウはもっと反発されると思っていた。

 オグルブの兵は、戦いを生業にしている者達ばかりであろう。

 そのため、否が応でも戦わせろと言い出すものだとばかり思っていたのである。

 それが、こんなにあっさりと話が終わってしまい、ギヨウは戸惑うばかりであった。


「じゃあ、そういうことで、これからよろしくな」

「「「「はっ!」」」」


 全員が勢いよく返事をし、やはりギヨウは調子を狂わされてしまう。


 しかし、とりあえず話がまとまったと言う事で、ギヨウはその場を去ろうとした。


「ギヨウ、ちょっといいかい?」


 そして、少し歩いたところで、レシヘストとジェスに呼び止められてしまう。


「ん?」


 何か問題があったかと、ギヨウは身構える。


「こんな大事な時に悪いんだけどさ。私もしばらく戦に出ないで残っていいかい?」


 しかし、予想外の言葉を聞かされて、ギヨウは困惑した。


「え?なんでだ?怪我でもしたのか?」


 ギヨウはレシヘストの体を見る。

 しかし、怪我をしているようには見えなかった。


「いや、そうじゃないけど……ていうか、あたしの体を見て何か気付かないのかい?」

「んん?」


 ギヨウはやはりわからず、再びレシヘストの体を見て気が付いた。

 レシヘストは、女性とは思えない程、筋肉質な体をしている。

 当然、腹筋もばきばきに割れていたのだ。

 しかし、今見たレシヘスト腹筋は、まるでない。むしろ柔らかそうですらあった。

 それは、つまり――


「もしかして太ったか?」


 という事になる。

 しかし、その言葉を言われて、レシヘストは大きくため息をついた。


「はぁ~、鈍い男だね……妊娠したんだよ」

「ええ!」


 レシヘストがはっきりと答えを言い、ギヨウは凄く驚いた。


「お、おめでとう!」


 動揺したまま出た言葉はそれだけであった。


「ま、まあ妊娠したんなら仕方ないな。しばらく休んでてくれ。って――」


 そこまで来て、やっとギヨウは気が付く。


「誰の子だよ!?」


 妊娠するのには、相手がいる事に。

 そして、やはりレシヘストはため息をつくのだ。


「はぁ~、わからないのはあんたくらいだね。ここにいるじゃないか」


 ここにいると言われれば、ここにいるのはさっきからずっと居づらそうにしながら黙っているジェスである。


「え、ジェスか?」

「まあ、そうなるね」


 ギヨウからすれば意外であった。

 レシヘストは、強い男が好みだったはずだ。


「あたしも、あんなに弱い男の子を孕むとは思わなかったよ。もっと強い男の子を孕むのかと。でも、まっ!しょうがないね!」


 まるでギヨウの心を読んだかのように補足したレシヘストであったが、少し膨らんだ腹を撫でるその顔は、心の底から幸せそうであったのだ。


「まあ、そういうことならいいんじゃねえか」


 ただでさえ、そんな顔をしていては断れないし、どちらにせよ身籠ってしまったのなら仕方がないとしか言いようがない。


「ありがとう、ギヨウ!」


 ギヨウが承諾して、大喜びしたのは、何故だかジェスであった。

 ジェスは、副長でありながら、アカツキ隊の戦力が落ちるような事をしてしまったことを気にしていたのである。


「男の子だといいねえ」


 喜ぶジェスを横目に、レシヘストは生まれてくる我が子に思いを馳せるのであった。

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