マキュニシェの戦い⑮
そこは、ゼルバの言った通りにそれほど遠くなく、敵軍にもあわずに、半日も行軍すれば着いた。
ただ、それはつまり、エルエ国内ということである。
そこは、街であり、城であった。
しかし、荒廃しており、長らく人が住んでいないようであった。
「ここは?」
ギヨウはゼルバへ聞く。
「ここは、シセナという土地です」
(シセナ?)
どこかで聞いたような気がするが、ギヨウには思い出せない。
「ゼルバ様!」
しかし、シルルは何かに気が付いたようで、驚いたように声を上げた。
「はい、ここは、昔私の父が治めていた領土です」
シセナと言うのは、ゼルバの名前である。
そして、ゼルバの生まれ故郷と言うわけだ。
「なんでこんなに荒廃してるんだ」
エルエ軍が占領したというのはわかる。だが、それなら人が住んでいるはずである。
「人が住めないからですよ」
それに対するゼルバの答えがそれだった。
「私の父は名将でした。そして、その父はエルエ国から見ると非常に邪魔だったわけです」
そして、ゼルバは懐かしそうに城を眺めながら語りだした。
「ですが、正攻法ではゼルバ様の父上に勝利するのは難しかった」
ベルベンがゼルバに続いて答える。
ゼルバの出身地という事は、かつてゼルバの父に仕えていたベルベンからしても、思い入れのある地なのだろう。
「そして、エルエ国は汚い手に出たのです。それは、水源を毒で侵すと言う愚かな策でした」
「しかし、その効力は抜群でした。町民や兵の多くは苦しみ、一部の将にも影響が出ました」
それを語るベルベンとゼルバは、とても苦しく、悲しそうな顔をしていた。
「そこに、エルエ軍が攻め込んできたのです。まだ子供だった私は逃げ、父は最後まで戦いました」
「私はゼルバ様を逃がすために、共に逃げたのです」
「そしてエルエ軍は勝利しましたが、水源が毒に汚染されていては人は住めません。そのまま放棄したのでしょう」
とても自分勝手な話である。
「20年以上前の話ですけど、まだ使えるようになっているかどうか……」
それだけ長く影響のある話なのである。
そのため、普通は使われない卑怯な策なのである。
「帰ってこられただけいいでしょう。ベルベン、中央の広場に旗を立ててきてください」
「はっ!」
ベルベンが、いつも以上に嬉しそうな顔で、その命令を受けた。
そして、広場まで向かうと、ゼルバ軍の旗を立てる。
「長かった。本当に……」
ゼルバが空を見上げる。
「ゼルバ様……」
「うっ、うう……」
ゼルバの父に仕えていた古い家臣達は、歓喜し、あふれるほどの涙を流していた。
「さて、帰りますよ」
しかし、ゼルバはあっさりと言った。
「いいのかよ?」
ギヨウは聞く。
20年ぶりに生まれ故郷に戻って来たと言うのなら、もっとなにかあるだろうと思う。
「ええ」
だが、ゼルバはすっきりとした顔で言ったのだ。
「もう、いつでも来れますからね」




