森の脱出戦⑫
敵の親玉であるベギニを倒し、二人は荒野へと戻ろうとする。
そこに、ちょうど、族長とゼルバが乗る馬がやってきた。
「むっ、なんだもう終わってたか」
一足遅れて登場した族長は残念そうな顔をする。
「向こうも終わりましたよ」
ゼルバが馬から降りながら言った。
「小僧がやったのか?」
族長が場の状態から推測して聞いた。
「ああ」
ギヨウが頷くと、族長は愉しそうに大笑いしだす。
「カカカ!ようやったわ!行くところがないと聞いたが、うちに来るか?皆、強い戦士は歓迎する。ミュエネと仲も良いみたいだしの」
「別に仲が良いわけじゃないわ」
すぐにミュエネは否定した。その顔は少し赤い。
そして、ギヨウはと言うと、そっちの方の話は無視して、ゼルバの方を見る。
「何を選ぶかは、あなたの自由ですよ」
冷たく、突き放しているともとれる態度ではあるが、ゼルバは単純にギヨウの好きにするべきだと考えただけである。
(どちらでも、最終的な結果は同じになるでしょう。ですが……私の所に来た方が面白そうではあります)
しかし、その心の中では、実のところギヨウを欲していた。
「いや……」
その想いが届いたというわけでもないが、ギヨウは族長の誘いを断る。
「俺はゼルバと行くよ」
「そうかそうか!」
族長は、断られたことを気にもしなかった。残念ではあるのだろうが、そんな細かい事を気にするような人間でもない。
そして、ゼルバは、ギヨウのその選択に密かに笑みを浮かべた。
「では、戻りましょうか」
少しだけベギニの死体を確認していたゼルバだったが、それが終わると、再び族長の馬へと乗った。
「死体はどうするんだ?」
「念のため、私を殺すように依頼した者の証拠がないか確認したのですがなさそうですね。戦場であれば首を取りますが、これはただの野盗ですしね」
「ならば、放っておくといい、森の獣の餌になる」
「早く乗りなさい」
最後にミュエネに促されて、ギヨウは素直にミュエネの後ろに乗る。
そして、荒野へと戻っていった。
♦
荒野での戦いは、とっくに終わり、近くにあった敵の野営地へと森の民達は集まっていた。
当然、ギヨウ達もそこへ行くこととなる。
「ゼルバ様!」
ゼルバを見つけたシルルが、尻尾があるなら振り回していそうな勢いで、ゼルバの元へと走って来る。
「心配したのですよ!いつの間にかいなくなっておられて!」
実のところ、ゼルバはそれが面倒であるから早めに戦場を抜け出したのであった。
「ははっ、すいません。シルルは怪我はありませんでしたか?」
その言葉に、シルルは顔を赤くする。ゼルバに心配されたのが嬉しいのだ。
「もちろんです!傷一つありません!」
「それは良かった」
「わたしなどを心配いただき、ありがとうございます」
その茶番を横で、ミュエネとギヨウは冷めた目で見ていた。
「いつもこんなことをしているの?」
「知らねーよ」
二人は小声でひそひそと話す。
「聞こえてるぞ」
それを耳ざとく聞き逃さなかったシルルは注意をした。
そして、咳払いをしてから報告をする。
「ここに囚われていた女性達は解放しておきました。色々と調べもしたのですが、特には何もありませんでした」
「そうですか。やはり、痕跡を残すようなことはしませんね。まあいいでしょう。これで危機は去ったのです。帰るとしましょう」
ゼルバはあっさりと言う。
「え?もうか?」
なんだかあっさりしすぎていて、ギヨウはそんなことを言ってしまう。
「なんだ、その女と別れたくないのか?別にいいんだぞ着いて来なくても」
シルルは、そんなギヨウに厳しい言葉を浴びせた。
「いや、そういうわけではないが……」
ただ、ギヨウの中には戦いの余韻のようなものが残っているのだ。こうもあっさりだと、何かが引っかかってしまう。
「今生の別れというわけではないでしょう。また会う日もあるかもしれないわ」
ミュエネは、わざわざフォローしてくれる。
「そうだな。後ろに乗せてくれてありがとう」
「次は、あなたが前に乗れるようになっていなさい」
ギヨウは今度こそ納得し、一番長く一緒にいたミュエネと別れの挨拶を交わした。
それと同時に、族長とゼルバも別れの挨拶を交わす。
「おお!帰るかゼルバよ」
「ええ、手助けいただきありがとうございました」
「なぁに、容易い事よ」
「この礼は、また今度、改めてさせていただきます」
「ふっ、また襲われるなよ!」
それらが終わると、シルルが馬に乗ってやってくる。
「お乗りくださいゼルバ様」
「ええ」
ゼルバはシルルの後ろに馬に乗る。
「おい!俺はどうすればいいんだ」
「お前は歩いて帰れ」
いくら身体能力に自信のあるギヨウであっても、馬の速度には全くついていけるわけがないし、もちろんシルルだって本気では言っていなかった。
「もう一人くらい後ろに乗れますよ」
言いながら、ゼルバが馬上からギヨウに手を差し伸べる。
ギヨウはその手を取ったのだ。
「それじゃあ、またな!」
そして、三人を乗せた馬は走り出した。




