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エルエ国包囲網⑩

 出鼻こそくじかれたが、アカツキ隊と敵軍との交戦が始まる。

 だが――


「隊長!こっちに来てくれ!」

「今行く!」

「隊長、こっちもだ!」

「なに!」


 ギヨウの耳に聞こえて来るのは、助けを求める声ばかりであった。


「私が行くわ」


 返事も待たずに、ミュエネは馬から飛び降りて助けに向かう。


「頼んだ!シルルも、ここは頼む」

「任せろ」


 シルルの返事に頷くと、


「待ってろ!すぐに行く!」


 ギヨウが叫びながら、敵を蹴散らしに行く。


「行かせるか!」


 しかし、そこに敵兵が立ちはだかる。


「邪魔だ!」


 ギヨウは、その敵兵に対して剣を振るった。


「ぬう!」

「なにっ!」


 だが、その一撃を耐えられてしまう。


「こいつが敵の部隊の隊長だ!討ち取れい!」


 更に大きな声を上げられ、敵兵がギヨウへと群がって来る。


「くそっ!」


 ギヨウは押されながらも、敵兵をなんとか斬っていく。

 だが、その一人一人にかかる時間は、いつもより明らかに長かった。


「ギヨウ!一旦下がれ!」


 そんな声が聞こえて来て、ギヨウは言われた通りに下がる。


「なんでこんなところにいるんだ、ローゼオロメメア」


 ギヨウはその声の主に驚く。

 その声の主は、ローゼオロメメアであった。

 軍師であるローゼオロメメアは戦えないため、最後尾にいるはずだからだ。


 ローゼオロメメアは、少しだけ地面が盛り上がって高くなっている場所で戦場を見渡していた。

 ギヨウも、その隣に来て戦場を見る。


「私が前に来たんじゃない。お前達が押されてるんだ」

「どうしてそんなに押されてるんだ!敵が多いのか?」


 ギヨウは驚く、今までそんな事は起きたことがないのだ。


「そんな事はない。ざっと見た限り、敵も五百ほどだ。単純に敵兵が強いんだ。おそらく、武の将オグルブが連れて来た兵なんだろう」


 だからこそ、ギヨウが簡単に敵兵を蹴散らせることができなかったし、戦線が押されているのである。


「どうすればいいんだ。何か策はないのか?」


 話しているこの間にも、アカツキ隊の仲間は死んでいっているのである。

 そのため、ギヨウは焦っていた。


「平地の戦いに策はない。別の部隊に助けを求めるくらいだな。だが、それも」


 ローゼオロメメアは、右に左に顔を動かして、ギヨウを促す。

 ギヨウも同じように周囲を見渡した。


「隣は、セロガ隊とオルファ隊か」


 オグルブが襲来した時に、セロガ隊とオルファ隊は近くへと来ていた。

 オグルブが帰り、二人はすぐさま自分の部隊へと戻ったようだが、アカツキ隊が相手をしているのとは、また別の敵の部隊を相手にしているようであった。


「両方とも苦戦しているのか……?」


 ギヨウはそれに驚く。


(相手の部隊長は両方とも女か)


 そして、それにも気が付いた。

 アカツキ隊にもシルルやミュエネやレシヘストがいるため、それを不思議とは言わない。

 だが、戦場にいる兵の大半は男であるため、珍しいものは珍しいのである。


「どうすりゃいいんだ?」


 ギヨウが再び問いかける。

 色々と問答はしたが、ローゼオロメメアが理由もなくギヨウを呼んだとは思っていないからである。


「隊の立て直しは私がする。お前は敵の部隊長を討ってこい」


 ローゼオロメメアは簡単に言うが、そもそも敵が強くてギヨウですら進むのは難しいのである。


「よしっ!行ってくる!」


 だがギヨウは、文句の一つも言わずに馬を走らせた。

 


     ♦



 一方敵方でも、そのギヨウの動きを確認していた。


「ユレナ様!こちらへ単騎で向かってくる敵がおります!恐らく敵の大将かと」


 それを聞いて、ユレナの部下の一人が笑い出す。


「ガハハ!たまにいるのだ。ユレナ様が女だからと侮る奴が。この部隊で一番強いのはユレナ様だというのに」

「ハハハ!」


 釣られて、他の部下達も笑い出す。

 だが、ユレナは厳しい顔をしていた。


「油断はするな。ここに来るまでに叩き潰すのだ」


 ユレナは、ギヨウが自分を侮っているとは思っていなかった。


(オグルブ様が楽しそうにしていたという事は、強い者を見つけたからだ。とても侮れん)


「は、はい!」


 ユレナの様子に、部下達も身を引き締め直す。

 

「近づけさせるな!」


 部下が叫び、ギヨウを止めに行く。

 だが、ユレナはじきにギヨウがここまでたどり着く予感を感じていた。


(奴に勝って、オグルブ様からの寵愛を……いや、余計な事は考えるな)


 ユレナは顔を少し赤らめ、しかし、すぐに顔を振って考え直す。

 

 オグルブには、現在妻が97人いる。

 ユレナは、その中で56人目の妻であった。

 ユレナは、元はただの農民である。

 だが、ある日、村を襲った賊に攫われてしまう。

 それから、ユレナがどんな仕打ちを受けたのかは言うまでもない事だろう。

 ユレナが攫われ、酷い仕打ちを受けてから一週間ほどで、オグルブが賊を討ちにやって来た。

 そして、一瞬で賊のほとんどを討ってしまったのだ。

 残ったのは賊の長だけであった。

 裸であったユレナに、オグルブは剣を渡した。

 ユレナは、死にかけであった賊の長を自分の手で殺したのである。

 その日からユレナはオグルブの妻となった。

 妻が沢山いる事も、30歳以上の歳の差も気にはならなかった。

 ただ、自分が無力であることだけを気にし、ユレナは自分を鍛え続け、ついにはオグルブの軍で部隊を与えられたのだ。


 オグルブの妻には色々な者がいる。

 戦えない者もいる。

 しかし戦える者は、ユレナのように、部隊を持ち、軍に参戦している者も多かった。


「来たか」


 そんなユレナの元に、ついにギヨウは辿り着いた。


「お前が隊長だな。悪いが俺は、男も女も気にしないぞ」


 ユレナから見て、相手の部隊に女がいることには気付いていた。


(それに、単騎でここまで突っ込んでくる豪胆さ)


 まるでオグルブ様のようだと、ユレナは思う。

 

「行くぞ!」


 ギヨウは、馬鹿正直に声をかけた後に剣を振るう。


「くっ!」


 ユレナはそれを受け止めたが、余りに攻撃の重さに吹き飛ばされてしまう。


「ユレナ様!」


 部下が間に入り、ギヨウを阻み、そこにユレナが更に攻撃を加える。

 前後左右からくる攻撃に、ギヨウはそれをなんとか防ぐしかなく、防戦一方になってしまう。


「多勢に無勢だが、これが戦だ。悪く思うなよ!」


 ユレナに武人の心などない。だから、一騎討ちなどという考えはなかった。


「ぐっ、くそっ、これは、まずい」


 ギヨウは勢いよくここまで来たものの、ユレナを含めた複数の敵兵の猛攻に耐えきれずに、かすり傷程度だが何度か攻撃を受け、後退し続けるしかなかった。


「くらえ!」


 ユレナが大きく構えて、剣を振り下ろそうとする。


「ユレナ様!」


 だが、その声に気づき、すぐさま体を翻した。

 その顔があった場所に、矢が飛んできて、ユレナの顔に大きく傷をつけた。

 しかし、直前で避けたからこそ命を奪われることはなかったのである。


「ミュエネか!」


 見るまでもなくギヨウは気付く。


「ユレナ様!手当を!」

「構うな。顔が抉れただけだ」


 すぐさま寄り添って来た部下を、ユレナは振り払う。


「ユレナ様!敵軍が押し返してきております!」


 そこに、更なる報告が入る。

 ユレナが見ると、実際に敵が押し返してきているのを確認できる。


「隊長自ら囮になったという事か」

「え?」


 ユレナが言い、ギヨウはとぼけた顔をした。

 とぼけたわけではなく、実際にわかっていないだけではある。


「一度引いて態勢を立て直すぞ!」


 ユレナが号令をかけ、ユレナの部隊は下がって行く。


「逃がすかよ!」


 追おうとするギヨウであったが、向かってくる敵と違い、下がって来る強兵を追いかけるのは難しかった。

 結局、仕切り直しのような形となってしまう。


 それからも戦は続いたが、互いに決定的な被害を出すことはなく夜となり、兵を引かせたのであった。

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