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エルエ国包囲網⑨

「第三陣!進め!」


 号令がかかり、連合軍の第三陣が出撃する。


「行くぞ!」


 それはすなわち、アカツキ隊の出撃でもあった。

 そのアカツキ隊の先頭を走るのは、当然ギヨウである。


(乱戦だな)


 戦闘を走るギヨウから見て、戦場はそうとしか言い表せない状況であった。

 実際には、しっかりとゼルバが手綱を握って指揮をしているのだが、大軍同士がぶつかり合っている以上、中から見たらそうとしか見えないのは仕方がないものである。


「よしっ!俺達も中に入るぞ!」


 しばらく進軍し、敵軍が近くなってきた頃にギヨウは後ろを見て仲間を鼓舞する。


「ギヨウ!」


 その時、ギヨウの真後ろにいるミュエネが大きな声を上げた。


「あ?」


 ギヨウはその声に反応して、前を見る。

 その先に、驚くべき光景が広がっていたのである。

 敵が――たった一騎の敵が――戦場を抜けて来たのである。


「なにっ!」


 そして、その敵は先頭を走るギヨウへと迷うことなく向かってくる


 その敵は、巨大な男であった。

 そして、その敵が何者なのかを、ギヨウは瞬時に理解する。

 そこで、ギヨウと敵は交錯する。


「ぬ?」

「くっ!」


 交錯した結果、ギヨウは馬ごと吹き飛んだ。

 そして、敵は立ち止まり、不思議そうに自分の獲物である巨大な矛を見る。


「なんだこいつは!」

「たった一騎で、しかも立ち止まりやがって!」


 後から続くアカツキ隊が、その敵へと攻撃をする。


「やめろ!俺が相手をする!」


 ギヨウの叫び声も虚しく、アカツキ隊の隊員は敵へと攻撃をする。


「え?」

「あ……」


 そして、一瞬で殺されてしまったのである。

 

「な、なんだ!」

「何をしたんだ!」


 アカツキ隊は驚き、その敵の前でたたらを踏んでしまう。


(間違いねえ、こいつは――)


「武の将オグルブだ!」


 ギヨウが大声で叫び、その声はアカツキ隊だけでなく、第三陣の兵達へと響き渡った。


「なにい!」

「そんな馬鹿な!」

「たった一人で乗り込んできたというのか!」


 兵達に動揺が走るが、そんな中で、


「囲め!」


 アカツキ隊副長のジェスは、冷静に命令を下した。

 その命令の通りに、アカツキ隊はオグルブを囲み、ギヨウはその中心でオグルブと対峙する。

 なんと声を出そうか迷うギヨウより先に、オグルブが口を開く。


「俺の一撃を受けるとは、やるではないか小僧」


 敵陣の中にただ一人斬り込んできたというのに、オグルブには随分と余裕があった。


「これから、いくらでも受けてやるよ」


 ギヨウは剣を構える。

 当然、このまま戦う気である。


「ふっ、威勢のいいことだ。それより、後ろの女はお前の女か?」


 余りにも突然の意味の分からない言葉に、ギヨウは驚く。


「ち、ちげーよ!」


 焦った末に、ギヨウは慌てながらそう言った。

 その様子に、オグルブは楽しそうに笑う。

 

「そうか。そうだとしても、俺と――」


 オグルブが喋っている途中で、オグルブの後ろに、どこからともなくセロガが剣を振りかぶった状態で現れる。

 そして、その剣が振り下ろされたのだが、オグルブの巨大な矛が、その重さなどないかの如く速度で動き、セロガの剣を簡単に弾き飛ばしてしまう。

 更に、そのままセロガの体を両断しようと、オグルブは矛を振るった。

 全ての動きが驚くほどの速度であり、今まさにセロガの体が両断されようというところで、セニオガネスがその間へと割って入る。

 セニオガネスはオグルブの矛を受け止め、しかし、二人まとめて落馬してしまったのである。


「邪魔をするな!」

 

 そう言ったのはセロガである。


「助けたんだけど……」


 セニオガネスは抗議の声を上げる。


「邪魔すんな!」


 同じ台詞であるが、今度言ったのはギヨウである。


「ええ……助けに来たんだけど……」


 やはり、セニオガネスは悲しそうにそう言ったのだった。


 その様子を、オグルブはやはり余裕を持って眺めているだけであった。


「邪魔が入ったが――」


 機会を見て、オグルブが口を開いたが、


「オグルブ様!」


 そこに、更なる邪魔が入って来る。

 オグルブの部下の部隊が、第二陣を抜けて、第三陣へと向かってきたのである。


「ギヨウ!敵が来たぞ、どうするんだ!」

「どうするって、応戦するしかないだろ!」


 なんだかよくわからないままではあったが、戦闘が始まってしまう。

 

 そしてオグルブはと言うと、深くため息を吐いた。


「興が削がれたな」


 そう言うと、軽々しくギヨウに背を見せたのだ。


「あ、おい!」


 ギヨウは声を上げて制止するが、後ろから襲い掛かる事はしない。


「小僧!貴様との戦いは、また今度とする!」


 オグルブは一方的にそう言うと、馬を走らせただけでアカツキ隊の包囲を蹴散らして行ってしまう。

 ギヨウは、その背中を追いかけるか迷ってしまい、追いかけることは出来なかった。


 そして、オグルブは、追いかけて来た自分の味方の部隊と合流する。


「オグルブ様!また無茶をして!」


 その部隊に部隊長であり、オグルブの56番目の妻である、ユレナが戻って来たオグルブに対して言った。


「はははっ!ガエロオの奴の顔を見に行ってやろうかと思ったが、思わぬところで手間取ったわ。少し遊んでやれ。勝って帰ってくれば、今晩はお前を抱いてやる」

「はい!」


 ユレナはその言葉を聞いて、嬉しそうに顔を紅潮させて、元気よく答えた。


 そして、オグルブは来た道を戻って行ってしまった。その道に、大量のフェズ軍の死者を作りながら。

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