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エルエ国包囲網⑧

 朝になると、連合軍とエルエ軍。互いが、せわしなく兵の配置をしていく。

 互いに、いつ攻めてもいいのだが、まるで示し合わせたかのように陣形を整えていくと、いつしかその動きは止まった。

 もちろん、互いに示し合わせたわけでもなく、初動の大事さを理解し、互いに様子見をしながら慎重に動いた結果、そうなっただけである。


「さて、始めますよ」


 その本陣で、ゼルバは大戦の前だとは思えぬ笑みでそう言った。

 


     ♦




「そろそろ始まる頃ですね」


 それに相対するズェガェ将軍も、その瞬間に戦が始まるのを完璧に予測していた。

 


     ♦



「ベルベン!第一陣を前へ!」

「はっ!」


 そして、ゼルバが一つ目の指示を出して、戦が始まったのである。


 本陣と言うのは、高い場所に設置する者である。

 何故なら、それは至極簡単な話で、自軍と敵軍の状況を把握するためである。

 例に漏れず、ゼルバは高い丘に本陣を築いていた。


 ゼルバの見下ろすその先で、命令が浸透し、連合軍の第一陣が前進を始める。

 対するエルエ軍は、柵や落とし穴など、事前に迎撃する準備をしており、連合軍を待ち受ける形となるため、微動だにしなかった。


 そして、連合軍とエルエ軍が今、ぶつかり合ったのである。


 その結果を見て、ゼルバは呟いた。


「やはり、こうなりましたか」


 その視線の先では、連合軍が、エルエ軍を押していたのだ。

 ただし、右翼を覗いてである。

 しかし、中央と左翼では勢いのままに、エルエ軍が戦線を押して、前へと進んで行っているのだった。


「おお!」

「我が軍が押しているぞ!」

「圧倒的ではないか!」


 その状況を見て、本陣に残っている参謀や軍師達は喜ぶ。

 そんな中で、ゼルバは次の指示を出す。


「ベルベン、第二陣を進めてください」

「はっ!」


 それは、予想通りの局面だからである。


 そして続いて、それを口にした。


「このままでは、第一陣は全滅します」


 ゼルバの衝撃的な発言に、その場がざわめいた。


「なんですと!」

「どういうことですか、ゼルバ様!」


 一部の者が驚き、ゼルバへと答えを求める。


(わかっている者もいるようですね)


 そんな中で、ゼルバはちらりと何人かを流し見する。

 例えば、補佐のベルベンである。

 ベルベンは、軍略よりも政務に長けたものではあるが、それでも並み居る軍師よりも有能であった。

 そして、ベザ国の宰相だというデソウズもである。

 彼は全く動じておらず、ただ静かに戦場を見下ろしていた。恐らく、彼はこの戦場を理解しているのだろうとゼルバは考える。


「相手は守の将ズェガェです。受けの達人です。彼は、わざと我々の軍を自陣に引き入れているのですよ。気が付いたころには第一陣は囲まれてしまいますよ」


 だが、ゼルバが早めに第二陣を投入したことによって、それは防がれたという事になる。


(そちらは問題ないのです。私が間違いさえしなければ。そして、私が策を間違える事などありえません。しかし――)


 ゼルバは、視線を唯一押せていない右翼へと移す。


(武の将オグルブは、同じ武で押し返すしかありません。頼みましたよ、ギヨウ)

 


     ♦



 そのアカツキ隊は、まだ出撃をしていなかった。

 右翼の第三陣に組み込まれたからである。


「まだ行っちゃいけねえのか!前の奴は行ったぞ!」

「落ち着け、命令が来るまで待機だ」


 今にも出そうなギヨウを、シルルが引き留める。


「ははは、相変わらずだな、お前は」


 そんなギヨウの元を訪れる者が現れる。


「セニオガネス、それにセロガもか」


 それは、ギヨウと同じ五百兵隊長のセニオガネスとセロガであった。


「久しぶり」

「どこに連れて行くのかと思えば、こいつのところか、帰るぞ」


 友好的なセニオガネスと、敵対的なセロガ、それぞれ対照的な態度を取る。


「まあまあ、出陣までは暇だろ」

「だからと言って、ここにいる必要はないだろう」


 そう言いながらも、セロガは去る様子を見せなかった。


(セニオガネスは友好的なやつだけど、いったいどうやって連れて来たんだよ)


 謎である。


「お前らもガエロオ将軍の軍か?」

「それはそうだ。俺はともかく、セロガはガエロオ将軍の息子だからな」

「なにっ!」


 ギヨウは驚いてセロガの方を見る。

 言われてみれば、最初に会った時に、そんな事を言っていたかもしれない。


「それは関係ない。父上がわざわざ俺を自分の軍にいれることはない。偶然だ」

「そうなのか?」


 セロガに睨まれても、セニオガネスはとぼけたような顔で、とぼけたような答えを出しただけであった。


「それより、お前はいつも女を後ろに乗せているのか?」


 セロガが話を変えて、ギヨウの馬に一緒に乗っているミュエネを見ながら言った。

 初めてセロガに会った時にも、ミュエネを後ろに乗せていたからである。


「悪いかよ」


 理由で言うのであれば、ミュエネが馬を選り好みするからであり、加えて言うのであれば、一緒に住んでいるため、このくらいの距離感は気にもしないからである。

 しかし、そんな説明は面倒なので、ギヨウは短い言葉で返した。


「別に……」


 その迷いのない言葉に、セロガはつい目を逸らしてしまう。

 元々、自分の話題を変えるためだけに口にした言葉だった。


「喧嘩するなよ。俺は同じ五百兵隊同士、頑張ろうぜって言いに来ただけなんだ」


 その時、鐘の音が鳴りだす。

 出撃の合図である。


「そろそろ出撃だな。お互い頑張ろうな」

「ああ」

「ふんっ」


 二人は自分の隊へと戻っていった。

 そして、ガエロオ軍の第三陣の出撃、つまりアカツキ隊の出撃となる。

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