エルエ国包囲網⑧
朝になると、連合軍とエルエ軍。互いが、せわしなく兵の配置をしていく。
互いに、いつ攻めてもいいのだが、まるで示し合わせたかのように陣形を整えていくと、いつしかその動きは止まった。
もちろん、互いに示し合わせたわけでもなく、初動の大事さを理解し、互いに様子見をしながら慎重に動いた結果、そうなっただけである。
「さて、始めますよ」
その本陣で、ゼルバは大戦の前だとは思えぬ笑みでそう言った。
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「そろそろ始まる頃ですね」
それに相対するズェガェ将軍も、その瞬間に戦が始まるのを完璧に予測していた。
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「ベルベン!第一陣を前へ!」
「はっ!」
そして、ゼルバが一つ目の指示を出して、戦が始まったのである。
本陣と言うのは、高い場所に設置する者である。
何故なら、それは至極簡単な話で、自軍と敵軍の状況を把握するためである。
例に漏れず、ゼルバは高い丘に本陣を築いていた。
ゼルバの見下ろすその先で、命令が浸透し、連合軍の第一陣が前進を始める。
対するエルエ軍は、柵や落とし穴など、事前に迎撃する準備をしており、連合軍を待ち受ける形となるため、微動だにしなかった。
そして、連合軍とエルエ軍が今、ぶつかり合ったのである。
その結果を見て、ゼルバは呟いた。
「やはり、こうなりましたか」
その視線の先では、連合軍が、エルエ軍を押していたのだ。
ただし、右翼を覗いてである。
しかし、中央と左翼では勢いのままに、エルエ軍が戦線を押して、前へと進んで行っているのだった。
「おお!」
「我が軍が押しているぞ!」
「圧倒的ではないか!」
その状況を見て、本陣に残っている参謀や軍師達は喜ぶ。
そんな中で、ゼルバは次の指示を出す。
「ベルベン、第二陣を進めてください」
「はっ!」
それは、予想通りの局面だからである。
そして続いて、それを口にした。
「このままでは、第一陣は全滅します」
ゼルバの衝撃的な発言に、その場がざわめいた。
「なんですと!」
「どういうことですか、ゼルバ様!」
一部の者が驚き、ゼルバへと答えを求める。
(わかっている者もいるようですね)
そんな中で、ゼルバはちらりと何人かを流し見する。
例えば、補佐のベルベンである。
ベルベンは、軍略よりも政務に長けたものではあるが、それでも並み居る軍師よりも有能であった。
そして、ベザ国の宰相だというデソウズもである。
彼は全く動じておらず、ただ静かに戦場を見下ろしていた。恐らく、彼はこの戦場を理解しているのだろうとゼルバは考える。
「相手は守の将ズェガェです。受けの達人です。彼は、わざと我々の軍を自陣に引き入れているのですよ。気が付いたころには第一陣は囲まれてしまいますよ」
だが、ゼルバが早めに第二陣を投入したことによって、それは防がれたという事になる。
(そちらは問題ないのです。私が間違いさえしなければ。そして、私が策を間違える事などありえません。しかし――)
ゼルバは、視線を唯一押せていない右翼へと移す。
(武の将オグルブは、同じ武で押し返すしかありません。頼みましたよ、ギヨウ)
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そのアカツキ隊は、まだ出撃をしていなかった。
右翼の第三陣に組み込まれたからである。
「まだ行っちゃいけねえのか!前の奴は行ったぞ!」
「落ち着け、命令が来るまで待機だ」
今にも出そうなギヨウを、シルルが引き留める。
「ははは、相変わらずだな、お前は」
そんなギヨウの元を訪れる者が現れる。
「セニオガネス、それにセロガもか」
それは、ギヨウと同じ五百兵隊長のセニオガネスとセロガであった。
「久しぶり」
「どこに連れて行くのかと思えば、こいつのところか、帰るぞ」
友好的なセニオガネスと、敵対的なセロガ、それぞれ対照的な態度を取る。
「まあまあ、出陣までは暇だろ」
「だからと言って、ここにいる必要はないだろう」
そう言いながらも、セロガは去る様子を見せなかった。
(セニオガネスは友好的なやつだけど、いったいどうやって連れて来たんだよ)
謎である。
「お前らもガエロオ将軍の軍か?」
「それはそうだ。俺はともかく、セロガはガエロオ将軍の息子だからな」
「なにっ!」
ギヨウは驚いてセロガの方を見る。
言われてみれば、最初に会った時に、そんな事を言っていたかもしれない。
「それは関係ない。父上がわざわざ俺を自分の軍にいれることはない。偶然だ」
「そうなのか?」
セロガに睨まれても、セニオガネスはとぼけたような顔で、とぼけたような答えを出しただけであった。
「それより、お前はいつも女を後ろに乗せているのか?」
セロガが話を変えて、ギヨウの馬に一緒に乗っているミュエネを見ながら言った。
初めてセロガに会った時にも、ミュエネを後ろに乗せていたからである。
「悪いかよ」
理由で言うのであれば、ミュエネが馬を選り好みするからであり、加えて言うのであれば、一緒に住んでいるため、このくらいの距離感は気にもしないからである。
しかし、そんな説明は面倒なので、ギヨウは短い言葉で返した。
「別に……」
その迷いのない言葉に、セロガはつい目を逸らしてしまう。
元々、自分の話題を変えるためだけに口にした言葉だった。
「喧嘩するなよ。俺は同じ五百兵隊同士、頑張ろうぜって言いに来ただけなんだ」
その時、鐘の音が鳴りだす。
出撃の合図である。
「そろそろ出撃だな。お互い頑張ろうな」
「ああ」
「ふんっ」
二人は自分の隊へと戻っていった。
そして、ガエロオ軍の第三陣の出撃、つまりアカツキ隊の出撃となる。




