エルエ国包囲網⑦
連合軍とエルエ軍。
その両軍が相まみえておきながら、それぞれの都合で一日目は戦が始まらないという事態が起きる。
それは、ただでさえ有利な連合軍に、更に有利に働いた。
陽が静まりだした頃には、連合軍側は陣を築き上げたのである。
そして、夜となった。
「ん?誰だ?」
アカツキ隊に与えられた陣に、一人の男が入って来る。
その男は頭に被り者をしていて、顔が見えないため不審がられた。
「すいません。この部隊の隊長である、ギヨウを呼んできていただけませんか?」
その男はそう言うが、
「お前みたいに怪しい奴に、呼べと言われて呼べるわけがないだろうが」
当然のように門前払いをされてしまった。
「騒ぎにならない様に顔を隠してきましたが、仕方がありません」
そして男は被り者を取って顔を晒す。
その男は、軍の大将ゼルバであった。
「ん~、もったいぶって顔出しやがって。誰だてめえは?」
しかし、そんな事を言われてしまう。
(まあ、ギヨウの部隊はこの国の者ではないも者も多いですからね)
ゼルバはこの程度で怒ることはない。
だが、困りはする。
「ゼ、ゼルバ様!」
そこに偶然通りかかった、シンザとダククガが驚いて声を上げた。
「え?ゼルバって、総大将の?し、失礼いたしました!」
最初に取り次いだ男が驚いて、急いで頭を下げた。
「別に構いませんよ。それより、ギヨウを呼んできてもらっていいですか?」
「は、はい!」
男は、走ってギヨウを呼びに行った。
ゼルバは、騒ぎにならないように再び顔を隠すと、シンザとダククガの方を見る。
「ありがとうござます」
そして、感謝をした。
「い、いえ!そんな!」
「私達はあなた様の領民なので!」
二人は、焦って首を振る。
「そうでしたか。お名前を伺ってもよいでしょうか?」
聞かれて、二人は少し迷ったが、少しの間の後に答える。
「シンザです」
「ダククガです」
その名を聞いて、ゼルバはひどく驚いた顔をした。
その顔を見て、シンザとダククガは不安になる。
「これは偶然ですね、ギヨウから聞いたことがある名です。ギヨウが世話になっているそうで、ありがとうございます」
再びゼルバに感謝の言葉を言われ、二人は急いで首を振った。
「い、いえ、そんな大したことは」
「あの馬鹿が迷惑をかけてませんか?」
「誰が馬鹿だって」
そこに、ギヨウが到着する。
「ギヨウ!」
シンザとダククガは驚いて飛び上がる。
「何か用か、ゼルバ?」
「お、おい!失礼だぞ」
余りにも馴れ馴れしいギヨウの態度に、ダククガが肘でギヨウの腹を突く。
「良いですよ。いつもこうです。ギヨウ、ついてきてください」
「ああ」
ギヨウは軽く返事をして、ゼルバへと着いて行ってしまう。
残されたシンザとダククガは、驚いた顔を合わせた。
「話には聞いてたけどよ」
「実際に見ると驚くよな」
ギヨウがゼルバの知り合いだということが、である。
♦
ゼルバは歩いて行き、いつしか周りから人気がなくなっていた。
「どこに行くんだ?」
「あなたに会わせたい人がいましてね」
「てか、忙しいんじゃないのか?」
なにせ、この大軍の総大将である。
それも、決戦が始まる前ともなれば、忙しいと考えるのは当然だろう。
「今、この状況で忙しかったら、我々は敗北してますよ」
「どういうことだ?」
「作戦などは、全て事前に時間をかけて練ってあるものです。このギリギリで忙しくしているということは、予想外の事が起きて、かなり危険な状態ということですよ」
「宿題を夏休みギリギリでやってるみたいなもんか」
ギヨウの言葉は、ゼルバには理解できなかったが、なんとなく何が言いたいのかはわかる。
「……まあ、そんなところです」
それからも二人は歩き、少ししたところで目的地へと着く。
「ここですよ」
そこには、一人の大きな男がいた。
「ゼルバよ。こんなところに俺を呼びだして何の用だ?なんだ、そのわっぱは」
その男は、怪訝な顔つきでギヨウを睨みつける。
「そう言わないでください。こちら、私の部下のギヨウです。あなたの息子と同じ五百兵隊長ですよ」
いきなり紹介されても、ギヨウは困るばかりだが、紹介された以上は挨拶くらいはしておくことにする。
「ギヨウだ。よろしく頼む」
ギヨウが軽く挨拶をしたが、男は返してこなかった。
「こちら、ガエロオ将軍です」
代わりにゼルバが紹介したが、ギヨウはその名に聞き覚えがあるものの、どこで聞いたかは思い出せなかった。
「ふんっ、まさか本当に、このわっぱに俺を紹介しに来ただけではあるまいな?」
ガエロオ将軍はゼルバに凄む。
「そのまさかですよ」
しかし、ゼルバは呑気にそう答えたのだった。
「貴様!」
怒るガエロオだったが、ゼルバはにこにこするばかりであり、その態度を見たガエロオは背中を向ける。
「なら用事は済んだだろう。帰るぞ」
「待ってください。この、ギヨウは明日、あなたの軍に預けますから、上手く使ってください。と言いに来たのですよ」
ガエロオは一度背中を向けたが、再び回転して、ギヨウの方を見る。
「ただのわっぱではないか」
しかし、改めてそう言ったのだ。
「それでもとても強い」
ゼルバは一瞬だけ真面目な顔をして、
「なので、上手く使ってあげてください」
すぐににこにこと笑い直した。
それを聞いて、ガエロオは再び背中を向けて歩き出してしまう。
「ふんっ、考えて置いてやる」
しかし、そう言葉を残したのだ。
その背中を見送ると、やっとギヨウが口を開く。
蚊帳の外だったのだ。
「行っちまったけど、いいのか?」
「まあ、こんなものでしょう。気難しい方ですからね」
ゼルバ的にはいいらしい。
「てか、また俺は、ゼルバとは別の隊かよ」
「そもそも、私は総大将ですからね。中央にベザ軍。右翼にマチェバナン将軍。左翼にガエロオ将軍と分けて、あなたには左翼に入ってもらうという話です」
「なるほど」
「そして、左翼の相手である、相手の右翼は、武の将オグルブの軍となります。覚悟してかかってくださいね」
ゼルバが、さらりととんでもない事を言う。
「なにっ!」
(あいつが……)
ギヨウは一度だけ、オグルブを見ている。
その時の事を思い出して、ギヨウは体を震わせた。
「怖いですか?」
その様子を見て、ゼルバが煽る。
「まさか、嬉しいのさ」
だが、それは武者震いであった。
ギヨウは体を震わせながら、嬉しそうに笑っていたのである。
「頼もしい限りですね。明日は頼みますよ」
「ああ、任せとけ!」
そして、翌日となる。
その日、ユガルア大陸最大の戦が始まったのである。




