エルエ国包囲網⑥
ベザ、フェズ軍は、長い時間をかけてエルエ国内を進行し、ついには最後の難関とされている守の将ズェガェの主城、タハルニオ城へと辿り着いた。
タハルニオ城の前の平原では、既にエルエ軍が防衛の為に陣を築いており、フェズ軍も陣を築き始めた。
いち早く築かれた本陣内に将軍達は集まっていた。
そして、その中でゼルバは早くも勝利宣言をしたのだった。
「――勝ちましたね」
それを聞いて、その場に集まった将軍達はそれぞれ別の反応をした。
驚く者、深く考え込む者、喜ぶ者、笑う者。
「まだ戦も始まっていないが、ゼルバ殿が言われると、なんだか説得力があるな」
そう言った者は、ゼルバの隣に座っていた。
エルエ国包囲網の総大将はゼルバである。
その隣に座るような人間、それは彼と同じ立場にある者である。
つまり、発言したのはベザ王であった。
「単純な話です。戦いは数です。5万と11万の兵差。これを覆すことは出来ません。我々の勝利は揺るぎようがない」
ゼルバは、改めて勝利を強調した。
「だが、その5万が俺の軍なら覆せるぞ」
一人の将軍が言い返した。
「そうかもしれませんね。あなた個人の武は凄いですし、あなたの軍もお強いですからね」
ゼルバはその将軍を持ち上げる。
それは本心であった。
彼こそが、フェズ国一の猛将ガエロオ将軍だからである。
「ふんっ」
ゼルバのおべっかを受けて、ガエロオ将軍はさも当然と言わんばかりに鼻を鳴らした。
「ほっほっほっ、申し訳ない。この男は不器用でしてな。数で勝っていても油断はするなと言いたいのですよ」
老将、マチェバナン将軍がベザ国の王、それに将軍達に向かって頭を下げる。
「いや、別に俺は――」
それに抗議を上げようとしたガエロオだが、マチェバナンが背中を叩くと途中で黙った。
「流石はフェズ国の猛将と名高いガエロオ将軍だな。我々も気を引き締めて行こう」
「「「おおっ!」」」
ベザ王は色々と察しているようであったが、マチェバナンの話に上手く乗っかっていく。
おかげで、和やかな空気になりつつも、士気は上がったのだ。
話が一段落着くと、再びゼルバは話を続けた。
「ここまでは予定通り進みましたので、ここからも予定通りに陣を築いてから、翌日に戦闘を開始します」
「しかし、実際に大軍を目の辺りにすると、陣を設置中に攻めてこないか心配ですな」
一人の将軍が言う。
「確かに、私が守る側なら、今すぐにでも攻めるでしょう。陣を作っている最中ですし、兵の遠征の疲れも深い。しかし、攻めては来ないでしょうね」
ゼルバは自信満々に言い切る。
「何故、そう言えるのです?」
「相手が、守の将ズェガェだからです。彼の戦の記録は研究しました。彼の行った戦は、どれも時間をかけて行われています。そして、被害が格段に少ないのです。だからこそ、彼は守の将と呼ばれるようになりました」
「ふむ、ゼルバ殿がそう言われるのなら、そうなのでしょうな」
そう言ったのは、ベザ国の将軍の一人である。
既にゼルバは、他国の将軍からも全幅の信頼を寄せられるほどの存在となっていた。
「戦略は事前に話し合った通りです。長い戦いになります。休めるうちに休んでおきましょう。それでは、また明日に」
敵を目の前にして休めという、ゼルバの作戦に、不安を抱く者はいても意義がある者はなく、その日の本陣で行われた軍議はあっさりと終了したのであった。
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そして、連合軍と相対するエルエ国の本陣は、タハルニオ城そのものである。
その本丸で、同じように軍議が、
「ぬう!ズェガェはどこにおる!」
行われていなかった。
怒りに満ちた顔で、武の将オグルブがそこへと乗り込んだのだが、軍議は行われていなどころか、総大将であるズェガェさえもいなかったのである。
「は、はい!ズェガェ様は、その……」
残されていた家臣の一人が、怒り狂うオグルブに恐れおののきながらも、言いづらそうに口をもごもごとさせる。
「どこだ!」
そんな相手に対して、オグルブは更に凄んで見せた。
すると、その迫力だけで、家臣はすっころんでしまったのである。
「ひゃあ、風呂でございます」
「風呂だと、あやつめ、まさか……」
「い、行かれるのですか?」
家臣は、一応は止める。
ズェガェが風呂で何をしているのか、全員がわかっているからである。
「当然だ!」
だが、それでもオグルブは風呂へと向かうのだった。
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「おうっ!」
風呂が近づいてくると、そんな声が聞こえて来る。
オグルブは嫌そうに顔をしかめながらも、風呂の扉を開け放った。
「おふっ!」
そこには、四つん這いになって、攻めを受けているズェガェがいた。
それも一人ではなく、何人もの裸の男が、ズェガェへと群がっていた。
その誰もが、線の細い美形の少年である。
「ん?」
しかし、オグルブが現れたことにより、その攻めは止まってしまう。
そして、ズェガェは四つん這いのまま、首だけを動かしてオグルブの方を見た。
「なんだ、オグルブさんですか。風呂には裸で入るものですよ」
当然、オグルブは風呂に入りに来たわけでもないし、こんな汚そうな風呂に入る気もないので、甲冑を着こんだままである。
「大事な戦の前に何をしているのだ、貴様」
オグルブは苦情を出す。
「ふっ、あなただって女性を抱くでしょう。私の場合は、それが男性というだけですよ」
「流石の俺も、戦の直前には女は抱かん」
あまり気は進まないが、オグルブは裸の少年達を押しのけて、四つん這いのズェガェを見下ろす位置まで近づいた。
「なら、問題はありませんね。まだ戦の直前ではありませんから」
怒るオグルブに対して、ズェガェは不敵な笑みで答える。
「それを言いに来たのだ!今こそ絶好の攻め時だ。何故、待機の命令を出したのだ!」
オグルブの怒りは、ただそこにのみ集まっていたのである。
「ふふっ、それが私の策だからですよ」
「ここでこうしてるのも策か?このっ!」
ばしーん、とオグルブがズェガェの剥き出しの尻を叩いた。
「おうっ!」
ズェガェは、体を震わせて喘いでしまう。
「流石は武の将ですね。良い攻めです」
更にそんな事を言ったため、オグルブは無言で引くしかなかった。
「ですが、申し訳ありませんが私は美少年が好みなのです。オグルブさんの攻めに負けるわけにはいきませんね。守の将として!」
ズェガェは恰好の言い台詞を言うが、四つん這いのままなのであまりにも恰好がつかなかった。
そして、オグルブは急に饒舌になったズェガェに対して、ただただ引くばかりであった。
「こほん」
その何とも言えない空気を変える為に、ズェガェは咳払いをして、更に言葉を続けた。
「確かに、待機の命令を下したのは私ですが、これは知の将ロヤの策でもあります」
「ロヤの?」
オグルブは、その名を聞いて興味深そうな顔をする。
「正確には、私が作戦を話したら、ロヤはそうして欲しかったと言った。それだけですがね」
それはつまり、ズェガェとロヤの作戦は本質的には一致していたという事である。
「そうか、わかった」
それだけで、オグルブはあっさりと引き下がる。
別にズェガェを信頼していないというわけではない。
ただ、四傑将の二人の意見が一致した策であるというのであれば、オグルブから言えることはないのだ。
「ですので、戦が始まるのは明日からです。明日になったらオグルブさんは好きに暴れていいですよ。だから、今日は好きなだけ女性を抱いていいですよ。私のようにね」
ズェガェは、明らかに余計な事を言ったが、オグルブはそれを聞き流すと、黙ってその場を去って行った。
「さて、皆さん。続きを始めましょうか」
そして、再び守の将の受けが始まるのだった。




