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エルエ国包囲網④

 フェズ軍の進軍は続く。

 しかし、エルエ国の抵抗はなく、アカツキ隊はエルエ国内に入って一日が経っても、戦闘のないまま進み続けるだけであった。


「城だ!」


 そんな中で、ギヨウはそれを見つけた。

 エルエ国の小さい城である。


「おい、ローゼオロメメア。城は流石に攻撃するよな?」


 ギヨウは嬉々として、ローゼオロメメアに尋ねる。


「いや、よく見ろ」


 ローゼオロメメアは、城を指さす。

 城は変わった様子はないが、見えている場所にある門はいずれも開いている。

 いや、壊されているのだ。

 それはつまり、


「もう落ちている」

「なにっ!」


 そういうことであった。


「進行上にある小さい城は落としてしまうか、無視するかのどちらかだろう」


 ローゼオロメメアがサラリと言うが、ギヨウは前回の城攻めで苦労したことを思い出す。


「だからって城攻めがそんなに簡単に……」


 確かに小さい城ではあるが、それでも城は城。攻略は難しいはずである。


「ここまで巨大な軍であるなら、あれくらいの城を落とすのは容易い事だ」

「そうなのか」


 ギヨウは残念そうに言う。

 自分が何もしない内に、戦が終わってしまっていたからである。

 進軍には慣れている。

 だが、これだけの大軍を目にし、気持ちが流行るのは仕方がないというものであろう。


 そして、それは五日間も続いた。

 


     ♦



 進軍が始まって、五日が過ぎる。


「いつまで歩き続ければいいんだろうねぇ」

「そうだねぇ」


 レシヘストが退屈そうに言った。その隣でジェスが同意する。

 彼女は馬には乗れないわけではないが、歩兵に混じって歩いている事が多かった。

 曰く、「体を動かしていたいのさ」という事である。

 いかにギヨウでも、そこまで脳筋ではない。


「ああ、もう五日だぜ」

「文句を言うな」


 ギヨウもうんざりと言ったが、シルルは毅然とした態度を崩していなかった。

 シルルは、元々いつでもこうである。真面目であり、手を抜くことはない。


「でもよ、いくらなんでも長いぜ」


 ここまでに村や街、城はあったが、アカツキ隊が戦う場面はなかった。

 つまり、ただ進軍しているだけである。

 今までも、戦場に向かうのに何日もかかることはあった。

 しかし、ここは敵国内なのである。


「そろそろだ」

「そろそろ?」


 ローゼオロメメアが言い、ミュエネが反応した。


「ああ、この進路なら、三つの攻略しなければならない大きな城がある。その一つ目のセイルハ城に既に先頭はついているはずだ。だが、恐らく半分の軍はセイルハ城を無視して進軍するだろう」

「なんでだ?」

「進軍速度を速めるためだ。半分の軍は進行し、半分の軍を残してセイルハ城を攻略すれば、後ろから攻撃されることもない」

「ふーん。で、俺達はどっちなんだ?」


 ギヨウの素朴な疑問に、ローゼオロメメアは黙った。


「どうしたんだ?」

「それが私に分かるわけがないだろう」


 その答えに、ギヨウは驚く。


(珍しいな。なんでも答えてくれるローゼオロメメアが)


 だが、それは当たり前のことである。

 知識があっても、予測がつかない事はあるのだから。

 そして、例えそうであったとしても、ローゼオロメメアが一度黙ったのは知らないと言いたくなかったと予想できるため、ギヨウはそれを口にしなかった。


「城が見えて来たね」


 その時、レシヘストがちょうどよく、その大きな城を遠くに見つける。

 その城へと、軍の列は続いているのである。

 城が見えても、列を乱すわけには行かない。

 ギヨウは、はやる気持ちを抑えながら、アカツキ隊と共に、着実にその城へと向かって行くのであった。

 


     ♦



 セイルハ城にアカツキ隊が着いた頃には、既に陣は敷かれ、攻城戦は開始されていた。

 そして、アカツキ隊も城への攻撃を命じられたのである。


「やっとだ!よしっ!行くぞ、アカツキ隊!」

「「「おおっ!」」」


 ギヨウは喜び、仲間もそれに呼応した。

 やっと、戦いが始まったのだ。


「ボズル!こないだと同じ作戦で行くぞ!」


 それは、ボズルがギヨウを投げ飛ばし、城壁の上へと一気に登るという作戦である。


「おう!」


 ボズルは気合を入れて頷く。


「あ、ミュエネは無理そうなら置いて行っていいぞ。いてっ!」


 ギヨウが余計な一言を言い、ミュエネが、その後頭部をすかさず叩いた。


「大丈夫だ、隊長!あの日から、鍛え直したんだ!」


 ボズルは両腕を上げて、力こぶを作りながら言う。


「いてっ!なんでだ!」


 ミュエネは、同じようにその後頭部を叩いておいた。

 鍛えないと、投げ飛ばせないと言われているようで嫌だったからである。


 その様子を横で見ていたシルルは、自分の胸を見下ろして溜息をついたのだった。


 既に戦いは始まっているため、敵は既存の部隊の相手をするばかりであり、アカツキ隊は楽に城壁の下へと張り付けた。


「よしっ!行くぞ!」


 ボズルは、まずはギヨウを持ち上げて、投げ飛ばすために構える。

 しかし――


(た、たけえ。前の城の二倍くらいあるんでないか?)


 その城壁の高さに、ボズルは怯んでしまう。

 

「構わねえ、ボズル。投げろ!」


 ギヨウも同じことを考えたが、そう叫んだ。


「わかった!ふんっ!」


 ボズルは、思い切ってギヨウを、その怪力をもってぶん投げる。

 ギヨウは飛んでいき――

 だが、しかし、


「あっ、やっべ」


 その高い城壁を登り切れることはできなく、途中で真っ逆さまに落ちてしまう。


「「ギヨウ!」」


 下で待機していたシルルとミュエネだが、珍しく焦って、落下地点へと二人で入って、ギヨウを受け止める。


「うお!」


 ギヨウは天を仰いだまま、二人に覗き込まれるような形で受け止められた。


「やわらか……ありがとうな。うわっ!」


 ついつい素直な感想を言ったギヨウを、シルルがひっくり返して地面に落とした。


「硬くて悪かったな」

「そんな事言ってないだろ!」


 反論したギヨウを、シルルは踏みつける。


「それより、どうするんだい、ギヨウ」


 そのギヨウの上から、ジェスが尋ねる。


「とりあえず、普通に攻めるしかないな」


 作戦が失敗した時のことなど考えていなかったのである。

 それから、夜になるまで攻城戦は続いたが、たいした成果も得られずにその日の戦は終わりとなる。

 そして二日目、アカツキ隊は前日と同じように戦っていたが、


「撤退!撤退だ!」


 鐘を叩く音と同時に、そんな命令が下った。


「あ?」


 ギヨウは、その命令に戸惑う。


「なんでだよ!」


 そして、訳も分からず騒ぐが、


「命令だ。下がるぞ」


 シルルに連れられて、下がるしかなかった。

 その命令は全軍に下されたようで、城に張り付いていた兵の全てが本陣まで下がって行った。

 


     ♦



「なんで下がらされたんだ?」


 ギヨウは陣へ帰るなり、ローゼオロメメアに聞く。


「それは見ていればわかる」


 ローゼオロメメアはそう言って、城の方を指さした。


 そして、それから少しの時が経ち、ある物が姿を現す。


「なんだいありゃ?」


 レシヘストがローゼオロメメアに聞いた。

 

「投石機か?」


 その問いに、ギヨウの方が先に答える。

 それに、ローゼオロメメアは驚いた。


「よくわかったな」

「あ、ああ」


 現代を生きたギヨウからすれば、流石にそれくらいは簡単にわかった。


「だが、それだけじゃないぞ」


 投石機に加え、更に衝車、梯子車など、大型の兵器が次々に姿を現したのだ。


「わお、どこに隠してたんだろうね」


 ジェスが大袈裟に驚いて見せる。


「大軍だから、行軍自体はゆっくりだったからな。私達の後ろからついてきてたんだろう」


 話をしている間にも、投石機が大きな石を放ち、城壁を崩していく。


「これは……」

「俺達の出る幕じゃねえな」


 シンザやダククガが呟く。何人かは既に座り込んでいた。


 それから、投石が終わると、他の兵器と共に軍が突撃し、驚くほどあっさりと戦はおわったのである。

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