エルエ国包囲網③
フェズ、ベザ国の合同軍は侵攻を続け、ついにエルエ国の領土内へと入る。
「この辺りからエルエ国の領土だな」
軍師ローゼオロメメアが言う。
結局、ギヨウの後ろはミュエネで落ち着いてしまっているため、ローゼオロメメアは、世話係のシキゼという戦士の馬の後ろに乗って移動していた。
「そうですね」
百兵隊長ルイグメもそれに頷いた。
「わかるのか?」
ギヨウには違いがわからない。
ただの荒野である。
「軍の進軍速度と景色を見れば、頭の中にある地図で予測は着く」
(頭の中の地図って……)
そんなものがある事に、ギヨウは驚くしかなかった。
「ルイグメじいは、なんでわかったの?」
ミュエネが不思議そうに聞く。
「私は長く生きてますからね。フェズ国内ならわかるところも多いのです。ほら、あそこの山が見えるでしょう。あれは、シガラ山という山です。かつてはフェズ国の山でしたが、今はエルエ国の山です」
「ふーん」
何気なく返事をしたギヨウだったが、少し経ってから騒ぎ出した。
「って、こんなに呑気に進軍していて大丈夫なのか!?もう敵国ってことは、敵が待ち受けているかもしれないだろ!」
「いや、それはない」
ローゼオロメメアはきっぱりと否定する。
「なんでだ?」
ギヨウはまるでわからずに、問い直した。
「まず、既にア国がエルエ国に攻め入っているはずだからだ。戦力をそちらに割いているから、こんなところまで兵を送る余裕はない」
ローゼオロメメアは更に畳みかける。
「例え万全であっても、これだけの大軍を相手にするなら、出来るだけ有利な状況に持ち込むしかない。だから、まともに戦局を見れるものなら、自国の最も有利に戦える場所まで、我々を引き入れるだろう」
「なるほど……」
ギヨウは神妙な顔で頷くが、ローゼオロメメアはそのギヨウの顔を、横からジト目で見つめる。
「な、なんだよ」
ローゼオロメメアの無言の視線に、ギヨウは抗議した。
「いや、ちゃんと理解してるかと思って」
「わかってるよ。どっかで俺達を待ち受けてるってことだろ?」
「まあ、ざっくりと言えばそうだな」
ローゼオロメメアは微妙に不満そうではあった。
伝わっていると言えば伝わっているし、伝わっていないと言えば伝わっていないからである。
「でも、途中に村や街、城はあるわよね?そこは見捨てるの?」
ミュエネが心配そうに聞く。
エルエ国に憎しなミュエネではあるが、流石に無関係な民まで憎いと思ってはいない。
「それは、実際に行けばわかるだろう」
ローゼオロメメアがそう答え。
それからも、長い行軍は続いた。
♦
そして、数時間の行軍の後、ギヨウは村を発見する。
「あれはエルエ国の村だよな?」
「そうだな」
その村は、ギヨウ達から見れば、少し遠い場所にあった。
「もしかして……」
軍の行進は村から少し離れたところを進んでいるし、村の様子に変化があるようには見えない。
こうなると、ギヨウにも察しはついた。
「ああ、小さい村は無視だ。普段の戦争であれば、略奪が行われる事もあるだろう。だが、今回の進軍は複数の国が関わっている。ギラグ国以外は、自国の体裁をきにするのは当たり前だろう」
略奪と聞いて、ミュエネが少し反応する。
ミュエネのいた村は、略奪にあったわけではないが、それに近い状況であったのは間違いないのだ。
「うちの部隊は、略奪は禁止にしとくよ」
ミュエネの様子を見て、ギヨウはすぐさまそう言った。
今までの戦いは、自国の領土を取り戻す戦いであったため、略奪がされることはなかった。
ニトの領土は、領内の人間が逃げ出したので、残されたものだけをそのまま頂いた形であり、略奪ではあるが、かなり穏やかに済んだものだっただろう。
だから、これまで、その辺りはうやむやになっていたのだが、ギヨウは今回はっきりと決めて口に出したのだ。
「ありがとう」
それを聞いて、ミュエネは安心したような眩しい笑顔をギヨウに向けたのだった。
前ではなく、後ろのミュエネの方を見ていたギヨウだったが、なんだか気恥ずかしくて前を向き直したのだが、その耳は少し赤かった。




