エルエ国包囲網②
「進めぇぇぇ!」
そして、エルエ軍への侵攻が始まる。
その為に集まった兵力は、ユガルアの歴史の中でも最大の者であった。
その数、フェズ軍8万、ベザ軍3万、ギラグ軍未知数、ア軍10万だと推定された。
当然、アカツキ隊500の兵も、その中へと組み込まれたが、全体で見れば微小な部隊でしかなかった。
「見ろよ、後ろが見えないほどだぜ」
ギヨウは馬を歩かせて、その列からはみ出して後ろを眺める。
「はしゃぐな、隊長がそんなだと恥ずかしい、ミュエネもギヨウを止めろ」
シルルが二人に注意をする。
ギヨウの馬の後ろには、ミュエネが乗っていたが、彼女もギヨウと同じように後ろを眺めていた。
「こらっ!そこ、隊を乱すな!」
そして実際に、横で隊を調整している兵に怒られてしまう。
「おっと、悪いな」
ギヨウは軽く謝ると、列へと戻った。
「なんだか上機嫌だな」
ギヨウの様子を見て、隣を歩いているシンザが言う。
「そりゃ久しぶりの戦だからな。てか、俺よりミュエネの方が上機嫌だぞ」
「べ、別にそんなことはないわ」
そう言ったミュエネだったが、明らかに普段と様子が違かった。
ミュエネの望みはエルエ国への復讐である。
場合によっては今回の戦でそれが果たされる事になるのだから、機嫌が良くなるのも当たり前の事である。
「お前達が羨ましいよ」
二人の様子を見て、ダククガが言った。
「俺達は怖くて仕方ねえよ。せっかくワウメちゃんと結婚出来るって言うのによ。こんな大きい戦で生き残れるかどうか……」
ダククガの言葉に、ギヨウとミュエネは驚く。
「えっ!お前、ワウメちゃんにOKもらったのかよ?」
それは、どこかズレた驚きであった。
「おーけー?」
「ああ、了承がもらえたってことだ」
「ま、まあな」
ダククガは顔を赤くする。
「お前がいない間に、散々弄られたんだよ」
「なるほどね」
ギヨウは納得したように空を見上げる。
「ん?」
その時、ある事に気が付く。
どこからか地鳴りが聞こえて来るのだ。
更に、段々と、それは大きくなり続けた。
「おい、ギヨウ!また怒られるぞ」
ギヨウは再び列から外れて、その音がする後ろを見る。
「おい!そこ!また……ん?」
ギヨウを注意しようとした兵もそれに気が付いたようで、音のする後ろを見る。
少しの間の後に、フェズ軍の横を大量の騎兵隊が走って行く。
その数は多く、いつ途切れるともわからない程であった。
フェズ軍はその勢いに圧倒されるばかりである。
そして、ギヨウはその先頭を走る男をしっかりと目に収めていた。
しばらくしても、まだ騎兵の列は途切れないため、ギヨウは自分の列へと戻っていく。
「あれは、ベザ軍だな。うちより遠い分、騎兵だけ先に急いで先頭に合流するそうだ」
戻って来たギヨウに、シルルが言った。
「あの……先頭を走っていた男は誰だ?」
そんなことよりも、ギヨウはその事が気になる。
それは、驚くほど顔の整った若い男であった。その自信満々で軍を率いる姿は、かなり目立っていた。
「私は見てないからわからないが、それは恐らくベザ王だろう。王でありながら、勇敢にも自ら先陣を切る美丈夫だと聞いている」
「なるほど……うちとは大違いだな」
それを聞いて、シルルは小さく笑った。
「ふっ、それは言わない約束だ」
♦
一方、エルエ国王都ルトは混乱を極めていた。
「ついに侵攻してきたぞ!」
「どうすればいいんだ……」
「王よ……」
流石のエルエ王も渋い顔をしていた。
「落ち着け、既に配置は済んでいる。そうだな、ロヤよ」
エルエ王の言葉に、ロヤは頷く。
「南のア国には、ジアヒス様を筆頭とした部隊を。北の合同軍は、タハルニオ城に既にズェガェ様と、オグルブ様が待機しております」
「ロヤ様は?」
政官の一人が心配そうに聞いてくる。
「挟み撃ちである以上、両軍の動きに対抗しないといけないため、私はここから動けません」
「そんな……」
それで大丈夫かと、心配の声が上がる。
「ですが、必ずなんとかしてみせます」
焦る臣下に、渋い顔をする王。そんな中で、ロヤは笑って見せた。
「私がエルエ国を勝利へと導きます」
「おお……」
「ロヤ様!」
絶望的な状況ではある。
しかし、ロヤのその顔に、その場にいる誰もが希望を見出したのであった。




