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エルエ国包囲網①

 フェズ国へと戻ったゼルバは、早速軍議を開く。


「どうなったんだ、ゼルバ?」


 いつものように女から奉仕を受けながら、フェズ王が問いかけた。


「はっ!ア国、ベザ国、ギラグ国との一時的な同盟を結ぶことに成功致しました」


 ゼルバの報告に、軍議に参加している者達は騒ぐ。


「なんと」

「まさか本当に成功させてしまうとは」

「これで勝利は目前ですな!」


 誰もが半信半疑だったのだ。

 もはや五国しかない内の四国が手を取り合うなど。


「それで?」


 フェズ王は再び、短い言葉でゼルバへと問いかけた。


「四国の力を持って、エルエ国の王都へと侵攻します。ア国には後ろから、我が国とベザ国が合同の軍で正面から、ギラグ国には横から奇襲をさせます」


 フェズ王はにやりと笑う。

 フェズ王は戦自体には興味がない。

 ただ、エルエ国が苦しむという事実が楽しくて仕方がないのである。


「三方向からの攻撃というわけだな」

「その通りです。私はこれを――」


 ゼルバは少しもったいぶり、周囲を見渡してから言った。


「エルエ国包囲網と呼ぶことにしました」


 それを聞いて、周囲から感嘆の声が漏れる。


「おおっ」

「まさしく袋の鼠というわけですな」

「流石はゼルバ様ですじゃ」


 そんな中で、フェズ王は静かな目でゼルバを見下ろしていた。


「大層な名前に、大層な戦略だが、失敗は許されぬぞ、ゼルバよ」

「その時は、いかような罰も受けましょう」


 ゼルバは頭を下げる。

 そんなゼルバの様子に、フェズ王は笑う。


「ふっ、では、あとは好きにするが良い」

「はっ!」


 それは、短い言葉ではあったが、実質的にゼルバへと戦の全権を渡したということはその場にいる誰もが理解する。


「おい、運べ」

「きゃっ」


 そして、べしりと、自分に奉仕をしている女に鞭を振るう。

 当然それは容赦がなく、裸の女にはかなりの痛みであるはずだが、体中に鞭で叩かれた跡が残っており、痛みに慣れてしまっているのか、女は小さく悲鳴をあげただけだった。


「はい」


 そして、女達はフェズ王を担いでその場を去って行ってしまう。まだ、軍議は終わっていないというのに。

 だが、当然それを止める者はいなかった。


 フェズ王が去ってからも、しばらく沈黙は続いたが、その沈黙をゼルバが破る。


「さて、それでは具体的な話をするとしましょう」


 ゼルバが合図をすると、机と地図が運ばれてくる。

 それほど大きくもないその地図に、主要な将軍や武官、政官が群がった。


「我々が目指すのは、エルエ国王都ルト、そしてエルエ王の首です」


 ゼルバがルトを指し示す。


「だが、そう簡単な道ではないぞ」


 将軍ビルガンが、横から口を出した。


「私は、王都ルトに攻め入るまでに、三つの城を取らないといけないと思っています」

「何故ですか?」


 若い政官の一人が尋ねた。


「小さな城は、圧倒的な兵力差で呑み込める。もしくは抑え込めますが、大きい城を残してしまっては、城に残されていた大軍に挟み撃ちにされかねません。私が決めた進路では、どうしても取らなければいけない三つの城があります」

「それはどこかな?」


 マチェバナン将軍が尋ねると、ゼルバはフェズ国王都キエラを指さし、それを動かしていく。

 それが、侵攻する進路というわけである。


「まず一つ目に城は、セイルハ城です。そして二つ目は、ネテゼン城」


 ゼルバはどんどんと進めて行ってしまう。

 地図上で指を動かすだけなら簡単なことではあるが、実際に行うには簡単なことではないというのに。


「ここまでは良いのです」


 しかし、ゼルバは明るく、簡単にそう言った。


「問題は……この最後の城です」


 ゼルバは最後にそこを指差す。


「むぅ」

「ここは……」


 その場にいる者は、その城を見て唸る。


「はい。皆さんご存じでしょうが、この城の名はタハルニオ城。守の将ズェガェの主城です」

「この城以外を通る道はないのですか?」

「軍の行軍には速さが重要です。敵国の奥深くまで入って行くのであれば尚更です。この進路が最適だと私は判断しました」


 ゼルバにそう言いきられてしまっては、誰も反論出来るものなどいなかった。


「恐らく、私の予想では、この城の外での野戦が、この戦の要となるでしょう」

「野戦になると?」

「はい、間違いなく。ここを抜ければ王都に手が届きます。城に籠れば、我々の軍が王都へと抜けていきかねませんからね」


 地図上では、王都ルトは、タハルニオ城のすぐ近くである。


「なので、この地でギラグ国に奇襲をかけてもらいます」


 ゼルバが、指でギラグ国の侵攻する道を指し示していく。


「あの野蛮な連中が言う事を聞くのか?」

「正直に言うと、それがこの戦で二番目に心配な事ですね。しかし、我々と共に戦ってくれるのは間違いありません」

「二番目?一番目は?」

「それは……まあ、今考えても仕方がない事ですので、やめておきましょう」


 ゼルバは言葉を濁した。

 それは、その場にいる誰もが心配になることであった。


「さて、それでは始めましょうか」


 だが、ゼルバはそれ以上その事を言及せずに、話を進めてしまう。


「なにをだ?」


 そして、ゼルバの、始める、という言葉が何かわからずに、ビルガンが懸念の声を上げた。

 ゼルバはそれに対して、にっこりと笑ったのだ。


「もちろん、エルエ国包囲網をですよ」

「なっ!」


 ビルガンは驚き、開いた口がふさがらない。


「私はこの半年間、外交だけをしていたわけではありません。戦の準備は既に終わっています。後は各国へ早馬を送るだけです」


 実のところ、ゼルバは軍議が始まる前に、既に各国へ早馬を送っていた。

 加えて言うのであれば、最後に交渉したギラグ国は、常に戦の準備がされていると言っても良い国であったのも幸いであった。


「それでは、エルエ国包囲網の開始です!」


 ゼルバは高々と宣言したのであった。

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