四国同盟⑫
ギヨウとブアチャガニスは何度も交錯する。
しかし、互いに決定打となる攻撃はないまま、時間ばかりが過ぎていた。
そして、ある時に、互いに足を止め、鋭い眼光のままに止まって対峙する。
(つええな)
ギヨウは素直にそんな感想を抱いた。
(こっちに来てから、戦った誰よりも強い)
そして、それと同時に悲しみを感じた。
それは、女王が感じていたものと同じものであった。
(動きでわかる。あいつは、失くした左手に大盾を持っていたんだ)
そして、今は代わりに体の甲冑で相手の攻撃を受けているのである。
(それでも、大抵の奴なら相手は出来た)
腕を失くした弱点を、それを感じさせない戦い方に昇華したのである。
(だが……)
ギヨウは考えるのをやめて、構えに力を入れた。
ブアチャガニスも、それに気が付き、ギヨウの攻撃を待つ。
「うおおおお!」
ギヨウが吠えながら、ブアチャガニスへと斬りかかる。
それにブアチャガニスは、大斧を振り下ろすことで答えた。
「ふっ!」
だが、ギヨウは剣で斬りかかるのをやめ、ブアチャガニスの、その斧の一撃をいなしたのだ。受け流したのだ。
達人同士の戦いにおいて、片腕がないというのは残酷なまでの弱点となる。
斧を受け流されたブアチャガニスの正面が、一瞬だけ、がら空きになってしまう。
そこにギヨウは斬り込んだ。
釣られて、ブアチャガニスの左腕が上がるが、そこにあるはずの大盾はなかった。肘から先がないのだから当たり前である。
その時ギヨウは見た。
迫りくるギヨウと、自分のない腕を見て、ブアチャガニスが穏やかに笑ったのを。
「おおおおおお!」
それでも、ギヨウは止まることなく剣を振り抜いた。
剣は、甲冑をも破壊して、ブアチャガニスの体を斬り割く。
おびただしい血を流しながら、その巨体は倒れたのだ。
「「「うおおおおお!!!」」」
決闘を見ていた戦士達が沸き上がる。
誰が見ても勝敗は明らかだった。
そんな中でギヨウは、穏やかな顔で倒れているブアチャガニスを見下ろした。
まだ息はあるようではあるが、すぐにそれもなくなるのは明らかである。
「少年よ。ありがとう」
ブアチャガニスが最後の力を振り絞ってギヨウへと語り掛ける。
「二度死に損ねた。最後に戦士として死ねて……良かった……」
「俺も、あんたみたいな強い戦士と戦えて良かったよ」
ギヨウが言った後には、もうブアチャガニスはこと切れていた。
(手加減できるほど、弱くはなかった)
ギヨウは間違いなく全力で戦ったのだ。
(両腕がある時に勝った奴。それに、命を奪わずに勝った女王はどれだけ強いんだろうな)
だが、それは同時にかつてブアチャガニスと戦った強者たちの、強さを感じさせるものでもあった。
怖気づいたわけではない。
それに自分が勝てるのか、それをギヨウは試したいのである。
女王であれば、今決闘を挑めば受けられるかもしれない。
(だけど……)
ギヨウはアカツキ隊の仲間達を思い出す。
仲間を放って置いて、勝手な事は出来ない。
ギヨウの考えは、もはやそう言う風になってしまっているのだった。
「いつまでそうしている」
いつの間にか近づいてきていた女王が、いつまでもブアチャガニスを眺めているギヨウに話しかけた。
「よくやりましたね、ギヨウ」
「まさか本当に勝っちまうとはね」
女王だけではなく、ゼルバやレシヘストも闘技場の中へと降りてきていた。
「良い戦いであった」
女王が褒める。
「では」
ゼルバが女王を促した。
「ああ、約束通りフェズ国の戦の手助けをすることにしよう」
「その間、ア国やベザ国への侵攻も控えてくださいね」
「約束は出来んが、言う事を聞く部族には命令を出して置く」
制御が出来ない者が多いという事である。
「それで構いません。よろしくお願いします」
「ああ」
そして、ゼルバと女王は握手をした。
この瞬間、ここに、四国同盟が結ばれたのである。
「さて、祝いの宴を開くぞ。当然、お主らも出るよな?」
「もちろん、参加させていただきます」
ゼルバは即答する。
「いいのかよ?これから忙しくなるんじゃないのか?」
ギヨウはこっそりとゼルバへと聞いた。
「相手の機嫌を取るのも外交のうちですよ。急がないといけないのはその通りですが、せっかくなので楽しんでいきましょう」
それから、ギヨウ達は三日ほどギラグ国に滞在した後、フェズ国へと帰ることとなる。
そして、ユガルア大陸を揺るがす、大戦が始まるのであった。




