四国同盟⑪
ギヨウが闘技場の中へと着くのと同時に、相手のブアチャガニスも闘技場の中へと入って来る。
前回に会った、女王の前では、ブアチャガニスは上半身裸で武器だけを背中に携えた状態の、一般的なギラグの戦士の恰好をしていた。
しかし、闘技場へと入って来たブアチャガニスは、巨大な斧を右手に、軽装ではあるが甲冑も身にまとっていた。その装備は傷だらけであり、使い込まれたものだと言う事が一目でわかった。
それでも、ギヨウは物怖じせずに堂々と歩いて行く。
そして、広い闘技場の中で、互いに間合いの中と言えるほどの距離まで近づいた。
片腕のない、かつて王と呼ばれていた戦士は巨大であった。
ギヨウからすると、見上げない程である。
「小さく、若い戦士よ」
そんなギヨウを見下ろしながら、ブアチャガニスは話しかける。
老人らしく、しゃがれており、しかし重厚感のある声色であった。
「私は全力で戦う。そなたも全力で来るといい」
手加減はしないという事だろうが、
(なんか変だな)
ギヨウはそう感じる。
「当たり前だ」
だが、もちろんギヨウとて全力で戦うつもりであるため、そう答えたのだ。
「皆の者!聞け!」
その時、一際目立つ席に座っていた女王が立ち上がり、驚くほど大きい声を出した。
「今回の決闘は、異国の者と、前王ブアチャガニスの決闘である!」
女王は周囲を見渡しながら、話を続けた。
「異国の者が勝てば、その者達の戦を助ける事となっている!」
それを聞いて、ギラグの戦士達は声を出して沸きだした。
彼らは相手が誰であれ、戦が出来るのならなんでもいいのである。
つまり、負けても楽しめると聞いて喜んでいるのだ。
「それでは、双方準備をせい。鐘がなれば開始だ」
それを聞いて、ギヨウは剣を構える。
同じように、ブアチャガニスも一つしかない腕で斧を振りかぶった。
そして、鐘の音が鳴る。
「ふんっ」
「せいっ!」
掛け声とともに、二人は交錯する。
上から振り下ろされたブアチャガニスの斧をギヨウが躱し、剣を一太刀浴びせたのだ。
(受けられた!)
実のところ、ギヨウは斧を受けるつもりだった。
しかし、直前で受けれないと感じたため、躱したのだ。
体勢を崩しながら振るった剣は、しかし、確かにブアチャガニスの体を捉えた。
だが、ブアチャガニスは体の甲冑でわざと剣を受けた。ギヨウはそう感じたのだ。
実際に、ブアチャガニスはすぐさまギヨウへと二度目の攻撃を繰り出してきた。
振り向きざまに、予想以上に速い攻撃をされて、ギヨウはそれを受けるしかなかった。
下から繰り出されたそれを受けたギヨウは、剣でこそ受けたが、剣ごと体が吹き飛ばされてしまったのだ。
♦
それを観客席で見ていたレシヘストは、隣のゼルバに対して呟いた。
「あいつが吹き飛ばされるのは始めて見るね。あたしの攻撃も正面から受けきったのに」
「それだけ強敵と言うことですね」
レシヘストが少し焦っているのに対して、ゼルバは冷静であった。
「本当にギヨウが勝つと思ってるのかい?」
余りに冷静であるため、レシヘストはそう問いかける。
「もちろんです。あなたはそうではないのですか?」
逆に問いかけられて、レシヘストは少し考え込んでしまう。
「わからない。あたしはギラグの戦士だからね。前王の強さはわかっているよ。歳老いて、片腕をなくしたとしても、そうそう負けるとは思えない」
それでも、レシヘストはわからないと言ったのだった。
「私とギヨウが初めて会った時、ギヨウは天から降ってきました」
「え?」
突然よくわからない事を言い出したゼルバに、レシヘストは困惑する。
そんなレシヘストを置いて、ゼルバは語り続ける。
「私はその時思ったのです。彼はきっと天の使いだと」
「ぷっ」
それを聞いて、レシヘストは噴き出した。
「信じられませんか?」
「いや、違うよ。天の使いなら、もう少し頭を良くしてくれれば良かったのにと思ってね」
「ははっ!そうですね」
ゼルバはひとしきり笑った後、更に話を続ける。
「つまり、私はギヨウは特別な存在だと思っているのですよ。ギヨウなら本気で天下無双と呼ばれる存在になれる。私は本気でそう思っています。例え――」
ゼルバは真剣な表情のまま言った。
「私がいなくとも」
その言葉に、レシヘストがなんと返そうか困ってしまったのだが、すぐにゼルバは真剣な顔を崩して、いつもの飄々とした笑顔へと戻った。
「ほら、見てください。決着がつきますよ」
「なんだって」
話に気を取られていたレシヘストは、いつの間にそんな事になっていたのかと驚いて決闘へと目を移した――。




