四国同盟⑤
それは、ゼルバがベザ国王都ソエラを、同盟の為に訪れた時のことであった。
「ふむ、ここはどこでしょう?」
ゼルバは迷っていた。
そこは、庭園であることはわかる。
そして、ゼルバは焦ってはいなかった。
「まだ時間はありますからね」
だから、ゼルバはその庭園を散策することにする。
少し歩くと、庭園の中にある雅な東屋が見えた。
そこでは、精悍な若い男と、美しい若い女性が、仲睦まじく話していた。
その姿は、まさに恋人のようである。
だからこそ、割って入るのには躊躇ったのだが、ゼルバは話しかける事にする。
「あのう」
ゼルバが話しかけると、見つめ合っていた二人は驚き、ゼルバの方を見た。互いに話すことに夢中で、ゼルバの存在に気が付いていなかったようである。
「お邪魔してしまって、申し訳ありません」
二人の顔は赤かった。
「い、いや、いいのだ。失礼かもしれないが、貴殿はこの城の者ではないようだが……」
男の方が、ゼルバが他国の者とすぐさま見抜く。
「そうですね。私は――あちらの方から来ました」
ゼルバが、とある方向を遠く指さす。
「フェズ国から……?」
女の方が呟き、男の方は何かに気づいたように、ハッとした。
「お名前を窺ってもよろしいですか?」
男の質問に、ゼルバはにやりと笑うと、
「私は、ゼルバと申します」
自分の名前を言った。
「なっ……!」
男も女も、その名前を聞いて同様に驚く。
(やはり、この男がゼルバか……だが、私はどうするべきか……)
身分を偽って、ゼルバの人となりを見る絶好の機会である。
そんな事を考えたため、男は一瞬黙ってしまう。
「もしかしてですけど、そちらの方はメナ国の美姫と呼ばれる方ではありませんか?」
その一瞬で、ゼルバは次の言葉を言い放ってしまう。
それは、男の退路を断つものであった。
「はい、その通りです。リフォンと申します。何故分かったのですか?」
「誰だって見ればわかります。ユガルア大陸にあなたほど美しい方はいないでしょう」
ゼルバは気障ったらしい言葉を、にこやかな顔で口にする。
「それでは、そちらの方は――」
更にゼルバはとぼけたように男の名を口にしようとしたが、男はその言葉を遮って立ち上がった。
「私はこの国の王、リガズムと申す」
そして、軽く頭を下げる。
(最初から、我々だという事はわかっていたのだろうな)
リガズムはそう考える。
もちろんゼルバは、二人を見てすぐに二人が何者かを見抜いていた。
「早速だがゼルバ殿。こちらからの要求を聞いてもらってもよいだろうか?」
更に、リガズムは言葉を続けた。
「はい?それは外交の話でしょうか?」
ゼルバは変な顔をして、頬をかく。
「もちろん、そうだ」
ゼルバに反して、リガズムは真剣な顔である。
「ふむ……それは後でにしませんか」
「なっ、何故だ?」
リガズムは困惑する。
「今、私は美しい庭園と、美しい姫を偶然見つけて、少し寄り道をしているだけです。おっと凛々しい王もですね。話し合いは後ですればいいでしょう」
そう言うと、ゼルバは辺りを見回す。
「私も一緒に座って、飲み物でもいただいてゆっくり話をさせてもらってもよろしいですかね?もちろん、話す内容はなんの話でもいいです。例えば、そこに咲いている花の話とか……」
そして少し離れた場所で椅子を見つけると、勝手に椅子を持ってきて二人と同じ机を囲って座ってしまう。
当然、リガズムはまだゼルバが座る許可を与えてはいない。
だが、それに言及することなく、リガズムも椅子へと座った。
「ふふっ……」
その時、リフォンが突然笑った。
「どうかしましたか?」
リガズムが問いかける。
「いえ、今リガズム様がとても面白い顔をしていましたので、つい」
「私がですか?」
リガズムはリフォンを見た後に、ゼルバの方を見る。
「してましたね」
その顔と言うのは、面白いというより間抜けな顔である。
リガズムはゼルバに対しての言葉が肩透かしで終わり、気を抜いてそんな顔をしてしまったのだ。
「リガズム様のそんな顔、始めて見ました。ふふっ」
リガズムは恥ずかしくなって、少し顔を赤くした。
「ですが、私はそういう顔は嫌いではありませんよ。ギヨウがそういう顔をよくしますしね」
リガズムはギヨウと言うのが誰かは知らない。
だが、そんな事はどうでもよく、ばつが悪そうに頭をかいたあと、
「誰ぞ!ゼルバ殿に飲み物を!」
大声でそう言った。
それはつまり、ゼルバとの政治的な話し合いを諦め、相席を許したのである。
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「そうして、私は運よく偶然にも、ベザ王とメナ国の美姫と少しの間だけ談笑することが出来ました」
「それ本当に偶然か?」
ギヨウが鋭いツッコミをいれる。
「ふふっ、どうでしょう?」
ゼルバは笑って誤魔化した。
「で、それからどうなったんだよ?」
これ以上言及しても仕方がなさそうなので、ギヨウは話を進める。
「ここからは面白い話はありません。ベザ国が同盟を受けて終わりです。メナ国の王家を抱えているベザ国は、エルエ国を滅ぼす事に反対はしませんし、手を貸すことには積極的です」
「でも、同盟を結ぶのに条件を出されたんだろ?」
「ああ、そのことですか。それは彼女にでも聞くといいでしょう」
ゼルバはレシヘストの方を見る。
「え?わかるのか?レシヘスト」
「そりゃあね」
レシヘストは答えをゼルバから聞いたわけではないが、当然のように言う。
「フェズ国とベザ国の同盟の条件は、ギラグ国との同盟だろう?」
「そうなりますね」
「ん?」
やはり当然のように言うが、ギヨウには理解できない。
「ギラグ国とベザ国は争ってるのさ。そんな中で、ベザ国だけエルエ国に戦力を割いたらどうなるかわかるだろう?」
「ああ、確かにそれは出来ないな」
そこまで言われれば、ギヨウにだってわかる。
「だからこの同盟にギラグ国が加わることは、ベザ国からすれば絶対なのさ」
「なるほど」
ギヨウは納得する。
「さて、ギラグ国まではまだ長いですよ。少し急ぎましょうか」
話が一段落ついたところで、ゼルバは馬を早く走らせだしたのだった。




