part40 devote
「つーことでおにーさんには一仕事やってもらわないといけないんだよね」
ディランはあの能天気な笑顔で憎らしいことをいってくる。
「シルバーオックスの連中には黙っててもらう代わりに俺たちの借金を返す方法思い付いちゃった」
ディランの父であるシュタット家の当主は去った。その代わりに俺が呼び寄せたディランとアロンソの二人は悪巧みをしているようで逃がさないぞと笑っている。
「おいディラン、結局この新入もどきは何がしたかったんだ」
「ああこいつも俺に借りがあるから心配はいらないよ」
ディランは調子のいい返事しかしない。それをギルドの連中が訝るのも不思議ではない。
「ディランの顔に免じて許してやってもいいが、貸しというならお前たち三人には大きな貸しができたことを忘れるな」
「何で俺も入れられているんだ? 王都のソフィア紙の専属記者だぞ俺は」
「あんたが絡むと色々面倒だから黙っててくんない? 」
文句をいうアロンソにたいしてディランは冷淡だ。完全に一枚岩とはいかない俺たち三人はシルバーオックスのメンバーから白い目で見られながら酒場をあとにする。
「それでたのみたい仕事についてだけど」
「俺が了承することは決まっているんだな」
そりゃ当然でしょうとディランは笑う。ついでに借用書をヒラヒラと見せびらかして俺の勝ち目がないことを暗に示している。
「残念だったな記者志願くん。お前の出る幕はないってこと」
「ええ親父は講演会なら開くって言っていたよ」
二人の話は完全に噛み合っていない。酒場であんなに意気投合していたのにこんなに噛み合わないとは。俺は自分の見極めの甘さにふがいなさを感じた。
「妹さんの育成方法を知らしめるとともにおにーさんが完全に俺たちの陣営に入ったことを国王陛下に見せびらかすって魂胆」
「ほうほう。シュタット家の考えは立派だな」
アロンソも納得したようにうなずいている。俺にはさっぱりわからない。それが自分の思いに反することだということは理解しているが。
「俺は中立でいたいんだ」
「オットー家のお家騒動を引き起こした原因のおにーさんが言うねえ」
それに対しては半分は事実なので返す言葉がない。オットー家の内部崩壊は起こるべくして起きたものだがそれに関与したのは俺だ。
「まるでファムファタルだよね。おにーさんは」
「どういう意味だ」
運命の女なんて悪趣味な名前に例えられても嬉しくない。それに破滅を呼んだ覚えはない。
「まあおにーさんがかたくなに俺たちとの関係を拒否してももうごまかしきれないよ」
そして広い屋敷の前につれていかれる。
「今日付けでおにーさんはシュタット家の別宅に囲われることになったから。本当は女を連れ込むために使っているんだけど俺の趣味と実益のために頑張ってくれるよね? 」
そう笑う姿は悪魔のようにも思えた。おれ自身が招いたこととはいえ妹の紗々の足を引っ張るわけにはいかない。
「それでおにーさんにやってもらうことは二つ」
「一仕事って言ってなかったか? 」
「そこは乗り掛かった船ってことで」
正式には乗り掛かった泥船だ。沈むとわかっていて乗るバカはいない。
「もう難しい話はよしてさ。まず頼みたいのはギルドの連中のしたについて借金返済に勤めること。これは俺の分もいれて」
「最悪だな」
アロンソは面白いものを見るようにからかってくる。この二人仲がいいんだか悪いんだかわからない。
「それとこれが本命だけど。宮中で晩餐会がある。そこでおにーさんがアリサ姫とダンスを踊ること」
「……それのどこに旨味があるんだ? 」
完全に敬語を使う気をなくした俺はあきれ顔になっていた。俺がアリサ姫の気を引いてどうなるというのだ。
「ははっ。わかってないな」
ディランは愉快そうに笑う。
「俺の親父がシュタット家と王族の縁組みをたくらんでいるのは知っているでしょ」
確かに俺はシュタット家当主からその話は聞いた。それを阻止したいというのはディランの意思なのだろうか。
「でもさ、全部親父の思い通りになるのは癪でさ。俺とおにーさんとでゲームをしよう」
その言葉に嫌な予感がする。
「俺が勝ったらアリサ姫は俺のものになって捨てるつもり。だって俺の幸せを踏みにじる女だよ。あの人は」
失礼はいつものことだがこの言葉には怨念のようなものを感じた。ディランは何に憎しみを抱いているというのか。
「おにーさんが勝ったらそりゃ面白いことになるよ。でも負けるのも癪だからな」
「あんたは何がしたい」
「強いていうなら暇潰しかな」
世の中に辟易しているようなそんな冷たい声でそう呟く。この男ただのバカではないようだ。
自分が父に使い物にされることを見越して逆らうつもりだろうか。
だとしたら悲しい人間だと思った。
自分の意思を真っ向からいうこともできず誰かの足を引っ張ることでしか本心を伝えることができないとしたら。
「おにーさん俺に同情した? 俺が可哀想な人間に見える? それは誤解だよ」
そしてアロンソに向かって吐き捨てる。
「やっぱりあんたを誘ったのは間違いだったかもな。おにーさんは利用価値があるのは知ってたけどこんな面倒なやつだとは思わなかった」
「俺はただうまい飯が食えるだけでそれ以外のことは聞いていない」
本当か嘘かはわからないがアロンソにも彼なりの思惑があったようだ。
「お互いうまいことやろうや」
「おにーさんとは仲良くできそうなんだけどね」
わざとおちゃらけた態度でそう返すディランに俺は違和感を抱く。
まるで自分にうそをついているようで見ていられなかった。
「三人よれば文殊の知恵ともいうし三本の矢は簡単に折れないだろう」
そして無理矢理俺は二人に屋敷へ引きずり込まれた。そこに何があるとも知らずに。




