part41 devote2
「ようこそ俺たちの隠れ家へ」
ディランは悠然と構えて俺とアロンソを迎える。そして一番驚いたことは。
「サラさま……」
あのオットー家の末娘である少女がシュタット家の別宅に暮らしていたことだ。確かに彼女はウェルズ家を出ていく覚悟だとはいっていたが。まさかこんなかたちで再会するとは思いもしなかった。
「お久しぶりです。事情は聞いています。困ったことがあれば私に聞いてください」
「安心してよおにーさん。俺は年下には興味ないから」
ディランがまだ年若い少女を囲っていると疑いかけたが二人の言葉に俺は納得した。サラさまはかつて抱えていた屈託もなくなったようで自然な表情だった。対するディランも年下の少女を妹くらいの感覚で扱っている。ひどい目にあわせるわけでもないのでよかった。
「私はここでお給金をいただいてディランさまのお目付け役をしています」
「そうそう見張りって訳」
確かにしっかり者のサラさまの手にかかればこの男も子供のようなものなのかもしれない。ディランは先程見せた冷たい表情とは一変して落ち着いた様子だ。俺が詮索しなければ彼も暗い気持ちにならないですむのかもしれない。
「おにーさんもかつては社交界を賑わせた男だろう。だったら宮中の晩餐会もつつがなく進めることができるよね」
「ディランさまそれはどういう意味ですか? 」
サラさまはなにも聞いていないのだろう。彼女に知られたらあとでウェルズ家のマリー夫人や息子のチャールズに何を言われるかと苦笑する。
「ここだけの話だよ」
俺とディランは示し会わせたように笑顔を浮かべる。こういうときだけ嘘ばかりつく点で俺たちは似た者同士なのかもしれないと感じた。
「深くは詮索しません。でもウェルズ家の皆さんが心配しているようですから彼らに連絡させていただきます」
勝手に辞めたことになっているので俺はてっきり完全に縁が切れたとばかり思っていた。しかしサラさまと再会したことでそう簡単に忘れられるものでもないと実感した。
「ありがとうサラさま。チャールズとは連絡取っていますか? 」
「ええ。彼は一生懸命で弟のミルさまの騎士修道会試験の勉強会を開いています」
どうやら俺がいなくなっても彼らは勉強を続けているらしい。心配していたからよかった。もし仮に俺がいなくなって彼らになにかあればと責任を感じていた。
「おうおうお嬢ちゃん、彼氏とは仲良くやってるのか? 」
「失礼な口を利くな」
アロンソのぶしつけな質問にすかさず冷たく返すと周囲がおかしそうに笑う。三人よれば文殊の知恵とか言っていたが本当にそうかはあやしい。実際仲間割れするほうが早いのではないかと想うほどだ。
「界は相変わらず女の子のことになると顔つきが変わるな」
「あんたが失礼すぎるだけだ」
年若い少女にそういうことを聞くのはセクハラに近いことを知らないのだろうか。アロンソは細かいことは気にしないだろうが。
「ってかおにーさんさっきからサラにデレデレだよね。妹がいたりアリサ姫がいたり選り取りみどりなのに手を出さない辺り紳士っていうかただの奥手なんじゃないの? 」
「あれか本命には一歩引くタイプ」
ディランとアロンソが茶々をいれる。そこで本気になっても子供扱いされるだけだ。
「あんたたち本題に早く入らないか? 」
二人のからかいを受けながら自分のすべきことを尋ねる。本当はサラさまと再会させるのが目的だったのではないかと思ったがあからさまに聞くのも面倒だ。
「そうそう。アリサ姫とダンスしてうまいことやってくれれば俺も頑張らなくて済むし。でもその前に」
ディランとアロンソはニタニタ笑う。
「俺たちの借金をシルバーオックスの連中に一括でまとめられているのは知ってるだろ」
シュタット家にまとめられたアリサ姫への借金はともかく、どうしてそこで二人の借金の話も出てくる。
「それでおにーさんには借金返済のためにギルドに所属してほしいんだ。最初はしょぼい仕事だらけだろうけどとりあえず参加することに意義があるから」
なんだかもっともらしい言葉を使っているが体よく利用されているだけだ。
「それって本格的にシュタット家の内部に入るってことじゃないか」
「そういう覚悟で来ていたんだと思ったけど」
人のことを囲うといっておいて結局いいように使っているだけだろうと言い返すが相手はまったく動じない。
「いいよ。全部俺のもとに金が届くシステムだから」
それともと嫌な笑みを浮かべて話しかけられる。
「俺たちで借金を続けるという手もあるけど」
「あとが怖いからいい」
借金を返すための借金はしたくない。それにそれはディランにとっては父親へのいやがらせに他ならないだろう。
「わかった。ギルドで働いて借金返せばいいんだろう」
「理解が早くてよろしい」
ディランは相変わらずの調子でつかみどころがない。それを気遣わしげに見つめるサラさまだったが。
「本当に大丈夫なのですか」
「サラさまこそこんなやつがいるところで本当にいいのですか」
俺が質問すると彼女はふふっと笑う。
「いえ。確かに仕事に疑問を抱くときもありますが今は自分の力で生きていけるので前よりも自信が持てるようになりました。兄や父とは関係のないところにいますから」
かつて利用され続けてきた彼女の立場からすれば一人で生きていくというのは自分を強くするための覚悟を作るためのものだったのだろう。それが理解でき少しだけ安心した。
「何かあったら俺だけじゃなくてチャールズにも相談にのってもらってください」
「界は相変わらず女たらしだな」
一人蚊帳の外だったのが気にくわないのかアロンソがぼそりと呟く。続くディランも愉快そうにからかってくる。
「シスコンだけじゃなくて若い女の子ならなんでもいいのおにーさん? 」
「……そっちこそ人のこと言ってられないだろ」
アリサ姫をその気にさせて捨てると事前に予告するだけあって性格は悪い。
しかし彼の容貌は端正で女性が放っておかないタイプの華やかさがある。
アリサ姫が彼の毒牙にかかる前に自分が守る必要があると感じた。
だがその前に。
「ディランの坊や。貸した金、どうなってやがる」
「アロンソのくそ野郎、ネタはあがってるんだぞ」
別宅にもギルドの連中が集まってくる。
「悪い悪い。全部こいつが窓口になってくれる手はずだから」
そして二人が俺を差し出すととっとと逃げていった。
「おう兄ちゃん。覚悟はできているか? 」
そして男たちにひきつられて小高い丘の飛竜たちがいる荒れ地へ向かうことになった。
「ご武運を」
見送るサラさまの言葉を遠くに感じながら俺は腹を括った。
絶対にこの苦境から抜け出し、アリサ姫や紗々を守って見せると。
裏切った自分を軽蔑するかもしれない。だが本当は違うのだと。
そう信じてもらえるならばそれだけでいい。
ウェルズ家のみんなもサラさまを通じて知ってくれれば。
彼らの思いに恥じない自分でありたかった。




