part38 sanction2
「よっ坊主今日は何の用だ? 」
いかつい男共が朝になり集まり出す。そこに俺がいるのは完全に場違いであったがアロンソとディランに嵌められたので仕方がない。
「俺たちはシュタット家の援助を正式に受けているギルドだ。またの名をシルバーオックスという」
俺が初心者だと思ったのか男は豪快に笑って説明してくれる。
「さて、今日は酒場にシュタット家のご当主がお出ましらしいぜ。息子のディランはよく顔を出しているが。……そういやあいつどこいったんだ? 」
当主の一人息子であるディランはアロンソと一緒に酒場を出た。だが彼が勝手に振る舞うのはいつものことらしく誰も気に留めていなかった。
「お前も見ない顔だな」
「たまに酒場にお邪魔させてもらっているだけですから」
暗にたまたま出くわしてしまった風を装う。これで冒険者志願だと思われたらと不安になったがその誤解は周囲に伝わる。
「おいおい。はじめてだからってそんな萎縮する必要はないぜ」
「そうそう今日はスポンサーからのありがたいお話があるってだけの話」
男だらけの酒場はむせかえるような暑さだ。なんというか信頼した自分が悪かったとはいえ複雑な気分になる。この先のスポンサーの話とやらに俺がどう関わっていくのだろう。
「坊主もどうせ根無し草みたいな暮らしに辟易しているところだろう。安心してほしい。ここは三食宿つきのギルドだ。お前みたいな初心者も大歓迎さ」
そして誤解を解こうとする間もなく男たちは親切にも解説を続けてくれる。ここまで来ると否定するのも悪い気がしてくる。
「なにせシュタット家は現在国王の次に権力を握っているからな」
騎士修道会が国の下につき、有力貴族だったオットー家も破滅した。だから権力にもっとも近い存在として今冒険者たちが集まってきてるのだ。
「お前ら。おしゃべりが過ぎるぞ」
目の前にいた品のいい衣服を纏った中年の男が注意する。その鶴の一声で男たちは一斉に頭を下げる。彼はいったい何者だろう。そう疑問に思ったところ男は不敵な笑みを浮かべる。
「おっと失礼」
「下のものに親切にするのはシルバーオックスの美点であるがそれも過ぎればただのお節介だ」
男の言葉に冒険者たちは神妙な顔つきでうなずく。俺も彼らに合わせて慎重な対応をする。ここで俺が何者かばれたら立場が危うい。そう思ったからだ。
「まったくお前らのバカなところはいとおしいが時々見苦しいとさえ思うな。そうだろう、界」
「……っ」
どうしてこの男は俺のことを知っているのだろう。そう思った時には目の前の男に手をさしのべられた。
「愚息が面倒をかけた。どうしてもお近づきになりたかったからな」
言葉が出なかった。つまり彼はディランの父であり、このギルドの支援をしているシュタット家の当主であるのだ。
「お前ら、彼がかのアリサ姫の騎士である紗々さまの兄上だ」
その言葉に男たちが騒ぎ出す。幸か不幸か、彼らにはすでにしれわたっていたらしい。
「おおっついに俺たちも打倒国王に動き出すんだな」
「まずは敵の身内を引き抜くところからか」
打倒国王の話は寝耳に水だった。国王は愚かな政治をしているわけでもなかったし、民に不満はないと思っていたから。
「お前らは本当にバカだな……。まあいい。界には悪い話じゃない。少し手を煩わせることになるが報酬は弾むさ」
手の内がばれてしまったのに男は堂々としていた。まるで外堀から埋められていくような状況に俺は苦い
思いをしていた。
「申し訳ありませんが俺は紗々と袂を分かつわけにはいきません」
「かわいい妹に手をかけろとは言わないさ」
男にとっては想定の範囲だったらしくぺらぺらと喋り出す。
「私が考えているのはもっと平和的な解決法だ。私の息子をアリサ姫と結婚させる。そうして二人の間に生まれた子供を次期国王として育てるのだ」
つまり間接的に国の権力を奪うつもりらしい。しかし聡明なアリサ姫が納得するだろうか。
「私が恐れているのは国王陛下がそれを拒んだときだけだ」
つまり本格的に国を乗っ取ろうとしているのだ。そこにどうして俺が絡んでくるのかと疑問に思っていると。
「界は自分の価値というものに気がついていない。元は有名なお貴族さま。その血を羨むものが多いというのも知らないとは」
俺は自分が紗々の足を引っ張らないようにとひっそりと彼女をサポートすると決めていたが。現在はその逆の展開になっている。
「私たちが持っているのは金、武力。足りないのは高貴な血筋だけだ」
「……どうしてそこまでするのですか」
「それは今がチャンスであり、一番の危機だからだ」
ライバルは次々にいなくなり国の権力を握る好機。だが一方では騎士修道会を手中に納めた国王が次に出るのは一大勢力の一掃だと考えられる。
「何より私にはこのギルドと愚息ぐらいしか頼りになるものはいないからな」
「しかし今の俺はただのウェルズ家の家庭教師です。確かに国王陛下にはお世話になりましたが今は赤の他人です」
「それは嘘だな。そう嘘をついているのが界にとって楽だからだろう。君は逃げているだけだ」
男は辛辣だった。それは俺の心を見透かしているようで背筋がぞくりとする。
「今度宮中に招待する時に界の様子も教えてくれと頼まれたんだよ」
国王陛下も心を痛めておいでだからと笑う。
「君はまだ若い。どちら側につくのがいいか目先のことだけでなく考えてほしい」
それはまるで俺のためのように嘯いているが、実際は逆らわせないという宣戦布告のようなものだった。
まったくアロンソにしろディランにしろ彼らがこの男を好いていないのはなんとなくわかった。だから集会
が始まる前に去ったのだろう。
「挨拶がすんだところで依頼をひとつ受けてほしい」
男は先ほどの尊大な態度とはうってかわって落ち着いた口調で話しかける。
「いやだと言ったら」
「ただで帰れなくなるだけだ」
ギルドの連中が冷たい視線を浴びせてくる。先ほどの気さくな様子とは裏腹で自分達の上にいる人間の指示には従わざるをえないらしい。
「なに別に難しい仕事じゃない」
男はフッと笑うと俺の手をつかんだまま力をいれる。冗談じゃない。かなりいたい。
「宿はこちらが提供する。君は身支度を済ませたらウェルズ家を出て我々ギルドのなかで生活してほしい」
その間に専属記者として契約するからと言われる。
「仕事がなくなって困るのは君のほうじゃないか」
先ほどマリー夫人にはすでに俺がやめることを伝えたらしい。どういうことだ。
「子供達との別れは辛いと思うがなにも一生会えなくなるわけじゃない」
ウェルズ家のチャールズとミルのことを知っているのか。彼らに手出ししたら許さないと睨み付けると。
「君はずいぶんと情にあついんだな。私もそこは気に入っている」
だからこそ仲間にいれたいのだと笑う。
「何でもかんでも人が思い通りに動くと思わないでください」
「私はあくまで条件を提示しただけだ。気にくわないならそれなりの対応を見せてもらおうか」
百戦錬磨のシュタット家の当主とただのガキの俺とでは計り知れない実力差がある。
だが。
俺は素直に従う気にはなれなかった。
「まあいいさ。現実を見せてやるだけの話だ」
男は指を鳴らすと周囲の冒険者たちが一斉に襲いかかってくる。
戦いの始まりだった。




