part27 monster2
翌日は騎士修道会の捜査が行われることになった。
「お邪魔させていただきます」
「あらいらっしゃい」
マリー夫人は警戒心もなくすんなりと修道会の人間を屋敷の中にいれた。
「先日の件でうかがいました。お時間はとらせません。昨日の事件のことを詳しくお話しください」
「まあ単刀直入なのは感心しないわね。お茶でもどう?」
すると侍女たちが修道会の捜査員をテーブル前につれていき座るように促す。
「……恐れ入ります」
あまりに悠長なマリー夫人に面食らったのか捜査員はぼそりとつぶやく。
「これは捜査なのですが……」
「わかっていますよ」
ふふっと笑う姿はいつもの余裕な彼女でなぜだかほっとさせられる。
「サミー伯のエマ夫人からおおむね話はうかがっています。本日はウェルズ家の担当は私がさせていただきます」
そして分から名乗る。
「ジョン・ストーンと申します」
「あらストーンさんとお呼びしてもよろしくて」
どこか緊張感のある捜査員とは別にマリー夫人は優雅に受け答える。
「昨日の魔物襲撃の件ですが当日あなたとご家族はどこに?」
「夫は仕事で。末弟のミルは自宅におりましたがあとは家庭教師の界先生も含めてパーティーにおりました」
ふむふむとうなずくとストーンは続きを促す。
「その日は長男のチャールズのお披露目会でした。私は遠くから彼を見守っていましたしそばには界先生が常に付き添っていました」
「そうですか。では次にお伺いします。事件があったときあなた方はどこにいましたか」
「私たちはホールにいました」
ん?俺はテラス付近に待機していたがマリー夫人はなにかを隠すつもりらしい。
「それで皆が避難しはじめて馬車が停めてあるところまで戻りました」
そういうとストーンは納得したらしく再び深くうなずく。
「わかりました。最後にオットー家の末娘のサラさまがいらっしゃると聞いているのですが」
彼女と直接話をしたいらしい。
「今彼女は臥せっています。気分がよくないようで長男のチャールズが看病しているところです」
そこをすかさずかわすマリー夫人。彼女を敵にしたら大変だろうな、と俺は苦笑する。
「そこをなんとか」
「まあレディに無茶をさせるのは紳士のすることではありませんよ」
そうしてストーンは肝心のことを聞き出すこともできず本部に戻ることにする。
「ふう。なんとかなったわね」
マリー夫人は額の汗をぬぐう。どうやら彼女も多少は緊張していたらしい。それを気づかせないのだからなかなかだ。
「母上、捜査員は戻りましたか」
隣の部屋で聞き耳をたてていたチャールズとサラさまが出てくる。
「ええ。しかしサラさまのことを聞かれたときは冷や汗が出てきたわね」
「マリー夫人でも緊張することがあるんですね」
「それは私だって人の子よ」
なぜだか自信ありげに返される。
「でもこれからサラさまをどうしましょう」
「私は事態が収拾したら実家に帰ろうかと思っています」
「でも君の家族は……」
これ以上長く居座るわけにはいかないと彼女は思っているのだろう。
だが実家に戻ることで彼女が不当な扱いを受けなければいいが。
あの兄が逃げたのだ。父親だって守ってくれるとも限らない。
この娘を実家に戻すのが正しい選択ともわからない。
「サラさまならしばらく家に泊まっていけばいいわ」
「えっ」
マリー夫人の提言に彼女は驚いたようだ。
当然俺も驚いている。
「私が決めたのだからいいのよ。オットー家には連絡は入れたのだから」
「ええっ」
それにも驚きだ。彼女にオットー家の伝があるとは。
「私の情報網をなめてはいけないわよ」
ふふっと笑う姿は柔軟というか頑固というか。
どちらにせよサラさまはしばらくこの場にいられるということだ。
「ありがとうございますマリーさま」
「よかったです。サラさまを泊めることができて」
チャールズとサラさまは嬉しそうに手を握り会う。
「僕からもありがとうございます」
チャールズは改まって感謝の意を示す。
彼がマリー夫人に素直になるとは珍しい。
「兄上ー。なになにー」
間に弟のミルが入ってくる。
「ミルは部屋でお勉強って言っただろう」
「うー。だってお姉ちゃんがいるのが気になって……」
どうやらサラさまのことが気になっていたらしい。
「このお姉ちゃんは僕の大切な人だよ」
さらりと答えるチャールズにサラさまは小さく笑う。
「じゃあけっこんするのー?」
「それはまだ秘密」
「えー最近兄上は秘密が多いよー」
不満を言うミルを窘める兄のチャールズとサラさまだった。
とりあえずウェルズ家のことはどうにかなったようだ。
「じゃあ聞き取り調査も終わったことだし俺外出してきますね」
「えっ先生出掛けるんですか」
チャールズは少し不安げな顔をする。
「大丈夫。すぐに戻るから」
それまでは君が家族を守るんだぞと念を押す。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
彼に手を振ると俺は屋敷のそとに出た。
やってきたのは町中の酒場だった。
俺はかつて紹介された新聞記者のアロンソに呼び出されたのだった。おそらく俺の持っている情報目当てだろうが。
「よっ記者志願者くん。ついに自分が事件の当事者になるとはな」
「その言い方やめてください」
男はにたりと笑いながら俺の返事を無視する。
「まあいいじゃないか。しかし驚いたな。サミー伯の邸宅に魔物が襲ってきたというのは。しかも容疑者にオットー家の人間が絡んでいる」
「その情報をどこで仕入れたんですか」
聞き捨てならない台詞が耳にはいる。オットー家の事情は俺たちが隠していたはずだが。
「おうおう俺のブンヤ魂を侮るといけないぜ」
男はなぜだか胸を張り懐からソフィア誌を取り出す。
「あんたのお陰で俺はこいつと契約することができたんだ」
「それはおめでとうございます」
心を込めていうはずもなく棒読み口調で俺は誉める。
誉めたというよりはその先のことに興味を持っていただけだが。
「おやおや俺の実力にようやく気がついたってところか」
一応誉められると悪い気はしないのかアロンソの口がどんどん滑っていく。
「噂によるとだな。かねてよりオットー家には特殊な能力をもって生まれる子供がいるそうだ。しかもそれが魔物を引き寄せる力があるとかないとか」
「なんだか曖昧な説明ですね」
「俺も詳しくは知らないんだ。ただ稀人というやつだな。そういう話は古今東西よくある話だ」
彼はこほんと咳払いをして声を潜める。
「ここから先は極秘情報だ。聞くのならそれ相応の対価が必要だぞ」
でも相手がお前だから特別だと告げられる。
「お前のお陰で俺はそれなりの収入が得られるようになったからな」
どうやらハインリヒたちと東方に向かったときのことを指しているらしい。
俺が得た情報でかなり懐が潤ったようだ。
「オットー家の長男のハミルのことだが……」
彼は名乗らなかったので本名を初めて聞いた。俺が情報に疎いのだということだろうが。
「彼は恋人のリリィの邸宅に泊まってお楽しみだったようだ」
「その表現いやらしいですね」
問題はそこじゃないけどなと彼は笑う。
「肝心なのは事件のときに現場にはいなかったということだがな」
「それはおかしい。俺は確かに中庭で二人を見かけたんだから」
俺が指摘するとアロンソはうなずく。
「確かにそこが証言と一致しないところなんだ」
だがそれだけじゃないと告げる。
「妹のサラさまをお前たちが囲っているときいてな。俺は一瞬で怪しいと気づいたよ」
その言葉にギクリとする。
「だいじょうぶだ。俺はお前には感謝しているからな。不利になるようなことにはならないさ」
男は酒を飲み干す。
そしてまだ昼間なのに二杯目をおかわりする。
「それだけじゃない。俺が仕入れた情報どうしても知りたいか?」
もったいつけたような言い方だ。俺は苦笑しながらはいとうなずく。
「最近サミー伯は借金に困っていたようでな。その返済ができずにいたからコネを作るためにパーティーをよく開いていたんだ。だがオットー家はそれをよく思っていないようでな」
確かにエマ夫人は社交的な人だと思っていたけど裏にそんなことがあったとは。
「オットー家とサミー伯の関係はズブズブだ。だから借金の返済のあてにしていた部分もあったがその要求は蹴られたらしい」
「アロンソはこの事件の裏にオットー家があると睨んでいるんですね」
「ああ。そして鍵となる二人の子供の行方が曖昧なのが気になっていてな」
お前なにか知らないかと暗に俺がなにかを知っている体で話が進む。
「さあ俺はパーティーにいましたが詳しいことは……」
「お前大分大人になったな」
まあお前が洗いざらい話してくれるとは端から思っていないさと笑う。
「俺がこれを話したのはお前がよくしてくれたからだからな。今回もよろしく頼むぜ」
そうして彼は酒場を出ていく。
「って支払い俺かよ」
アロンソには一杯喰わされてしまった。




