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part26 monster

かくしてサミー伯邸の事件は終結した。

魔物を引き寄せていたリサもといサラさまは俺たちのもとにある。


手に浮かぶ紋章を護符で覆い隠すと彼女は安堵したようだった。


「それにしても父と兄は何をたくらんでいたのでしょうね」


ぽつりと呟く姿はどこか疲れたようでもあった。

「俺にも分かりかねます」

でもただひとつ確信していることは。

「あなたが無事で本当によかった」

チャールズが彼女の手を強く握り一言告げる。

「まあまあお二人さんなかむつまじくてよろしいこと」

チャールズの母マリー夫人はそれをみてからかう。

「むっ……母上はしたないですよ」

「まあ我が息子ながら厳しいわね」

ふふっと笑うところは彼女らしかった。

強く言われても柳のごとく流す。

「それよりサラさまのことだけれど」

「サラさま……?」

チャールズはリサの正体を知らないので不思議そうな顔をする。

「私、リサと名乗っていたけれど本当はオットー家の末娘のサラと申しますの」

「えっそうなんですか?」

チャールズは戸惑っているのか目を白黒させている。

「隠していて申し訳ありませんでした」

すまなそうに頭を下げるサラさまだった。

「いえ本当にサラさまだったのなら僕はそばにいられて光栄です」

深くは詮索しないのが彼の優しさだった。

たぶん心のそこから彼女を思いやって言っているのだろう。

チャールズはサラさまの手を引いて安全そうな場所に移動しようとする。

「ようやく事態が収まったとはいえここにいるのは危険です」

いつなんどき敵が戻ってくるとも限らないと彼は考えているのだろう。

本当のことを言えばサラさまの力で呼び寄せられた魔物たちは彼女の意思によりその場を去ったのだが。

「そうね。ここはひとまずサラさまも我が屋敷に連れ帰るのはどうかしら。ふふっ刺激的な展開になるわね」

「母上の発言にはいささか問題を感じますが僕は彼女を連れ帰るのは賛成です。たしか彼女を連れてきたオットー家の長男もどこかにいなくなってしまっているし。保護者がいない女性を一人放っておくのは心配です」

チャールズはサラさまの手をぎゅっと握ると優しく微笑みかける。

「大丈夫ですよ。僕たちと一緒にいれば怖いことは起きませんよ」

その言葉にサラさまの眦に涙が浮かぶ。

本当にほっとしたのだろう。

おそらく彼女はずっと不安と戦っていたのだ。

こうして安心させてくれる人間と出会えたことで今まで堪えてきたものが崩れ落ちてしまいそうになっているのだろう。

「ありがとう……チャールズさま」

「そんな悲しい顔しないでください」

彼はふふっと笑う。そして優しい手つきで頭を撫でる。

「君は年上のはずなのにどこか放っておけない。まるで新しい妹ができたみたいだ」

よしよしと子供をあやすようにチャールズは彼女の体を抱き寄せる。

「ちょっと……チャールズさま……」

サラさまは頬を朱に染めてわずかにうつむく。

「こんなところで……恥ずかしいです」

それでも彼女は抱き寄せられたまま抵抗ひとつしない。

羞恥に顔を赤くしつつも本当は嬉しいのだろう。

「まあ我が息子ながら罪な男ね」

クスリとマリー夫人は笑う。自分の子供が恋愛しているのを自覚していないところがおかしいらしい。

酸いも甘いも噛み分けた彼女にとっては甘酸っぱい恋愛など遠い昔に感じているのだろう。

こうして自分の子供が成長していく姿を目にしてなにか思うところもあるはずだ。

自由奔放にいきる女性ではあるが自分の子供にはできる限り目をかけているのだ。

それをチャールズが気づくのはもっと先の話だろう。

今はただ幸せそうな二人を眺めるだけだ。


「事件の後処理が終わりました」

疲弊しきったサミー伯のエマ夫人がこちらに声をかけてくる。

「みなさん大丈夫でしたか」

「はい。私は兄とはぐれてしまったのでウェルズ家のみなさんと一緒に帰ることにします」

サラさまは気丈にそう答え一人うなずく。

「そうですか。お兄様とは会えずじまいですか……」

心配そうな顔つきでこちらを見るエマ夫人だったが。

「彼女のことは僕たちに任せてください」

チャールズがそういうとエマ夫人は安心したように微笑んだ。

「そうですね。ウェルズ家の方にお任せできるなら安心です」

疲れているだろうにこうして気を配ることができるエマ夫人には頭が下がる。

「今日はみなさんお帰りになってしまったので後日改めて連絡させていただきます」

エマ夫人は改まった口調で話し始める。

「この事件が起きた原因はまだはっきりとはわかりません。今後同じようなことが起きないように事情聴取させていただきます」

その際王国の騎士団がやってくるかもしれないと付け足される。

騎士団といえば東方を治めているハインリヒたちのことかもしれない。

すると多くの人の思惑が混じりあい難しい展開になりそうだ。

「承知いたしました。エマ夫人も今日はお疲れでしょう。早めにお休みください」

「お気遣い感謝いたします。ではみなさんお気を付けて」

そうして彼女は深々と頭を下げた。そして頭をあげると俺たちに向かって手を振る。

「今日はお疲れさまでした」

俺たちは停めてあった馬車に乗ると運転手が馬に鞭を打つ。

「明日からは事情聴取か……」

「疚しいことはなにもないのだから大丈夫なはずです」

事情を知らないチャールズは不安そうだったが俺にそう語りかける。

「そうだな。疚しいことはないしな」

サラさまの魔を寄せる力を利用しようとしたのはオットー家の当主とその長男である。

そして当主は今回の事件に直接関与していない。

だから問題となるのは長男の行動だが。

「サラさまつかぬことをうかがいますがお兄様のいる場所に心当たりはありますか?」

「……お兄様のことですか」

兄のことを訪ねられて血の気が引くサラさまだったが。

「気分を害してしまったのなら申し訳ありません」

俺が謝ると彼女は首を横に振る。

「いいえ」

この分だとこれ以上の話を聞くのは難しいか。

そう思った瞬間だった。

「おそらく兄はリリィさまの邸宅にいるのでしょう」

彼女はぽつりと呟いた。

「別れ際にそう言っていましたから」

確かに俺もリリィがオットー家の長男に抱き抱えられている姿を目にしていた。

「そうだ中庭で俺も二人を見かけたんだよ」

「だとしたらより確実でしょう」

自分の兄が先に逃げていたことについては本人も不思議に思っていないのだろう。

なんとなく冷たい関係だと思ってしまう。

「まあ詳しい話は明日するとして。今日は疲れただろう」

「……」

兄のことを思い出したら気分が沈んでしまったのだろう。

暗い顔をしている。

おそらく自分が事件の元凶であるという思いが彼女に暗い影を落としたのだと推察される。

「界先生、女性に対する気遣いがなっていません」

「おおっチャールズ」

チャールズに痛いところを指摘されてしまった。彼は事件については知らないが彼女に寄り添うことで気持ちを察しているのだろう。

「界先生の話はあとですることにしてサラさまのお部屋はどういたしますか?」

「空いている部屋というのも味気ないわね」

マリー夫人は口を挟む。

「せっかくならチャールズとサラさま二人で同じ部屋はいかが?」

「それはデリカシーがなさすぎます」

母親が面白そうに茶化すところに反発するチャールズ。同時にサラさまは恥ずかしそうにうつむく。

「未婚の男女が同じ部屋で夜を明かすなんて……」

「私が許すわ」

「許す許さないの問題ではありませんっ」

顔を真っ赤にして怒るチャールズだった。

「どうしてこんなに堅物に育ってしまったのかしら」

つまらなそうな口調でマリー夫人は肩を竦める。

「いやここは普通の感覚としていきなり同室はまずいでしょう」

こうしてマリー夫人の爆弾発言で緊張感はなくなったが。

別の問題が生じそうな気がしてきた。

かくして俺たちはウェルズ邸に戻るのであった。


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