part11 knight2
ハインリヒは杓子定規を絵にしたような男だった。
毎日決まった時間に起床し決まった時間に食事をする。
そして仕事時間もきっちり定められた時間内に収めていた。
「ううんどうやったらハインリヒのウラが取れるのか」
妹の紗々は仕事で魔族制圧に出掛けている。
彼女が帰ってくるのは食事の時間とアリサ姫との会食の時間のみだ。
あとは自由気ままに戦いを魔族に仕掛けている。
「アロンソには報告が遅くなると言うことを知らせておいたからな」
冒険車兼記者であるバーナード・アロンソは俺と共同で記事を書くことを約束してくれたがそれも事件のウラを取ってからだ。
まずはアリサ姫が匿われている部屋にいかなければ。
「でも俺部外者だから入れないんだっけ」
正面衝突は避けたい。ということで王国が支配する東方の地域に足を運ぶ。
「あの騎士修道会のハインリヒについて伺いたいことがあるんですけれど」
「ああハインリヒ殿についてか」
幸いこのあたりは俺が以前暮らしていたときにやって来たことがある。
顔馴染みもいたし聞き取りをするには十分だろう。
「彼はやり手だよ。紗々さまの魔族の制圧はものすごいスピードで進んでいるし」
彼が東方の実験を握るのはそう遅くはないだろうと住民は告げた。
「界さま、私が言うことではありませんがこの件には首を突っ込まない方がいい」
「どういうことですか」
「私も詳しくは知らないが夜な夜なハインリヒ殿が黒魔術を行っていると言う噂があります」
黒魔術は危険な魔術で王国では禁止されていた。
それには人の犠牲が伴い強大な魔力を生み出す。
彼の心にも闇があるのだろうか。
だとしたらその原因を突き止めてハインリヒを止めないといけない。
「界さま、ハインリヒ殿がこの地を治めることになっても我々住民はいいと思っているのです」
それは魔族に支配されつつある現状を憂いてのことだった。
「でも俺の父がこの地を治めていたときは平和だったじゃないですか」
「確かにそうですが」
「あの頃に戻りたいとは思わないんですか」
俺がそう言うと住民は言葉に詰まる。
「確かにあの頃は平和でした。魔族も領主さまが倒してくれましたし、この土地も活気づいていたように思えます」
ですがと彼は続ける。
「今はその流行り病で亡くなった領主さまの娘の紗々さまが我々のために戦ってくれています」
それだけでも十分なのですと彼は告げる。
「別にあなたに恨み言を言うつもりは滅相もございません。ただ現状を考えると国王陛下のお力は弱まりつつあります。アリサ姫も屋敷から一歩も出してもらえていないと言います」
国王の勢力に協力するよりはハインリヒの力を借りた方が安全だと言うことらしい。
「でもあなただって彼が危険だと言うことはわかっているはずでしょう」
だから首を突っ込むなと忠告してくれたはずだ。
「ですが界さまを巻き込むわけにはいきません」
何せ領主さまがなくなったときにご子息であられるあなたがたを守ることもできなかったのですからと告げる。
「この土地は私たちのものです。何があっても魔族から守り抜きます」
それが今は亡き領主さまのためにできる唯一のことですからと呟く。
「わかった。俺も細かいことは言わない。久しぶりに会えたんだ。再会の印に酒でも飲みにいこう」
「界さまのおっしゃることなら是非とも」
住民はうなずく。
「おーい今日は界さまの帰省祝いだ。紗々さまも誘って食事にいこう」
彼は妻に向かってそう言う。
「いいんじゃないかい。あんたも久しぶりに羽伸ばしていきな」
奥さんは気前のいい人で手作りのパンを渡してくれる。
「お前さんの行きつけはあそこだろ。これを持っていきなさい」
「ありがとうなハンナ」
「いいってことよアンドリュー」
かくして俺と住民は食事に出掛けることにした。
「わあ紗々外のご飯食べるの久しぶりー」
屋敷に戻って紗々に話をすると彼女は快諾した。
「屋敷のご飯はおいしいけどパンチにかけるんだよねー」
「喜んでいただけて幸いです」
先程話をしたアンドリューとその友人の男たちと紗々と俺が食事をする。
「まずはエールを頼むか」
「紗々も飲みたいー」
さすがに小さい子供はダメだが彼女も一応はアリサ姫の騎士だ。
「うーん酒はまずいからリンゴのジュースでも飲ませるか」
「みんなだけずるいー。紗々もお酒くらい飲めるもん」
そういわれると男たちは困った顔をしたが。
「気にしないでくれ。こいつはまだ子供だから」
「うー兄者になんだか言いくるめられている」
紗々は不満顔だったがリンゴジュースが出されると表情を変えた。
「ひゃーこれおいしいね」
「だろ?」
彼女は喜んで先程までの不平不満を忘れてしまったようだ。
「それにしてもみんな揃ってご飯ってなにか悪巧みでもするつもりー?」
「いえそんなつもりは」
「だよねー。伊達に紗々も騎士をやっている訳じゃないでしょ」
彼女は自慢げに胸を張る。
「今日は界さま帰省の歓迎会です」
「うー紗々がやってきたときはしてくれなかったよねー?」
それは子供相手に酒をのみにいくわけにはいかないからだ。
「声くらいかけてくれたっていいじゃんー」
「お前せっかく歓迎してくれてるんだ。楽しく飲もうぜ」
はーいと紗々は素直にうなずく。
「この鳩の丸焼きおいしいねー」
皮がパリパリに焼かれた鳩のローストは皆にも大好評だった。
「あとこの鹿のベリーソースあえもお肉の味がしっかりしていてほっぺたが落ちちゃいそうー」
紗々は店の料理を絶賛する。
「お前普段どんな食事をしているんだ?」
「普段はねーパンとスープだけだよー」
王族ってもっと豪華な食事をしていると思ったが案外質素だった。
「それだけでお腹いっぱいになるのか?」
紗々は見た目によらず大食漢だ。パンとスープだけで満足するとは思えない。
「だからこっそりおやつを食べてるんだー」
「それこっそりじゃないと思うぞ」
堂々とアリサ姫とお茶をしていると言っていたことを思い出す。
「アリサ姫とおやつ食べるときはねーハインリヒもそばにいて厳めしい顔でこっちを睨み付けるの」
「そうなのか」
まさか紗々自らそういう発言をしてくれるとは思わず俺はわずかな情報でも得ようと奮起する。
「ハインリヒはお茶しないのか?」
「えーしないよーあのぼくねんじんが」
屈託なく笑う紗々だったが俺は何かが引っ掛かった。
「ハインリヒは屋敷にいるときはアリサ姫に付きっきりだからねー。あとは東方の郊外の視察、魔族との戦いがメインだから」
それは俺が知っている情報の一部だった。
「それにハインリヒって夜中にこそこそ外に出払っているんだよねー」
屋敷の外にいるか気が緩んで秘密と言っていた内容まで口にする。
「噂だと外で遊んでいるらしいけどー」
夜中にすることってなんだろうねーと彼女は素直に疑問を口にする。
「紗々、それは詮索してはダメなことだぞ」
「はーい」
そういって彼女はリンゴジュースをイッキ飲みする。
「ぷはーやっぱりとーほーのジュースは美味しいねー。兄者は飲まないのー?」
「俺はエールがまだあるから」
村の住民から得た情報と紗々の発言からハインリヒは誰もいない夜を見計らって行動しているのは明白だった。
「界さまも楽しんでいらっしゃいますか」
「ああ上手い酒と料理で満足だよ」
アンドリュー筆頭の村の住民たちは思い思いの場所で酒を飲み交わしていた。
「今日のところは酒の力を借りて精一杯楽しもう!」
そうして食事は進み酒を飲むペースも上がってくる。
「うへーみんな酔っぱらってるよー」
紗々はハンナからもらった手土産のパンをかじりつつ周囲の大人を観察している。
「まったくこれだから大人はー」
ちょっと呆れたように言ったがそれもわざとだった。
「へへっ久しぶりにみんなと食べると美味しいね」
「ああそうだな」
俺も同感だった。普段は家庭教師先では下働きもやっていて食事は使用人たちと協力して作った料理を短い時間で食べるだけだったから。
「でさーハインリヒのことだけど」
「いいのか話して?」
「うーんここは酒の勢いで話しちゃったってことで」
そういってリンゴジュースを再び飲み干す。
「ここは屋敷の中じゃないから言っちゃうけどハインリヒは王家の崩壊を待ち望んでいるみたい」
「崩壊?」
「うん。国王陛下とは反りが合わなくて今回のとーほー遠征で成果をあげようとしているけど」
でもほとんどは紗々が出した結果なんだよね、と付け足す。
「紗々はアリサ姫が匿われている限り派手には動けないけど兄者なら別でしょー」
早く捜査の結果出してねと言われる。
どうやら紗々にも東方に来た理由はばれてしまったらしい。
「どうしてわかったんだ」
「それは秘密ー」
ふふっと笑いリンゴジュースを煽る。
「よしじゃあ作戦開始だ」
「作戦ってー?」
「これも内緒」
王国の騎士である紗々を巻き込むわけにはいかないので俺一人でハインリヒの秘密を探ることにする。
それに紗々の報酬を横取りしている疑惑があるからな。




