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part10 knight

「よっ紗々。久しぶりだな」

「兄者ー。よくとーほーに来てくれたね」

久々に妹の紗々の顔を見る。彼女の顔つきはまだあどけなかったがそれでも少しは騎士らしい顔つきになっていた。

「お前が騎士になってから俺も心配していたんだぞ」

「でも家庭教師の仕事で住み込みで働いていたんじゃなかったの?」

「ああ休暇をもらったんだ」

表向き俺は勤め先のウェルズ家の息子二人の世話に手を焼いてリフレッシュのために故郷を訪れたと言うことにしていた。ウェルズ家のマリー夫人も了承してくれた。というか彼女が率先して面倒な手続きを済ませてくれた。

「界、お前仕事をサボって大丈夫なのか」

騎士修道会の長であるハインリヒは尊大な態度だった。

まあ今に始まったことじゃない。

「はいマリー夫人から許可は下りましたから」

「それにしてもずいぶんと気楽な仕事なんだな」

まるで責任ある騎士修道会の長の職と比べているようだった。

「屋敷の方はどうですか」

「ああこちらは大事に使わせてもらっている」

俺が騎士修道会に引き払った屋敷は確かに寂れた雰囲気はなかった。

だが屋敷が主を表すようにどこか厳めしい雰囲気が漂う。

「まあ私たちが君たちの交流を邪魔するつもりはない」

彼は一言残すと仕事の戻る。

「私はこれで」

「はーいハインリヒとのー」

紗々は手をぶんぶん振って跳ねる。

「お前ハインリヒと仲良しなんだな」

「えへへそれほどでもー」

誉められたのと勘違いしたのか彼女は頭に手をやって照れたポーズを取って見せる。

「紗々はアリサ姫の騎士ですからー」

「その肝心の姫様はどこにいるんだ?」

何気なく尋ねてみると紗々は難しそうな顔をした。

「うー。お父様の部屋だけどー」

「だけど?」

「そこに入れるのはハインリヒだけなんだよー」

厳しい警備がしかれていると言うのは本当のようだ。

「じゃあアリサ姫軟禁っていう記事は嘘じゃなかったのか」

「なんきんってー?」

「ここでする話じゃなかったな」

辺りの兵士たちが俺たちの会話に興味を持ったのか露骨に視線を向けられる。

「じゃあ俺の部屋で話をするか」

「うーん。実は兄者の部屋はハインリヒが使ってるんだよー」

かつて自分が大切に使っていた部屋が赤の他人のものになっているのは複雑だった。

だが手放したものが元の通りに戻ってくることはない。

「ごめんね兄者ー」

「紗々が謝ることじゃないだろ」

彼女の頭を撫でると紗々は一人うなずく。何か考え付いたようだ。

「兄者さえよければ紗々の部屋に来ない?」

「お前が引け目に覚えることじゃないよ。じゃあお邪魔しようかな」

そして彼女の部屋に足を運ぶことになる。

「お前の部屋は変わらないな」

可愛らしく装飾された家具はそのままになっていた。父の初の娘だったからいたく可愛がったのだ。

紗々が生まれる前は大騒ぎだった。

あれをそろえろこれをそろえろ父は口うるさく使用人たちに指示を出した。母と俺はそんな父に苦笑するばかりだった。

だが母は紗々を生んですぐに亡くなった。

それがひどく寂しかった。

明るかった母に支えられていた父は彼女の面影がある紗々を溺愛した。

「兄者ーなに考え事しているの?」

「いや昔のことを思い出してな」

「昔っていつー?」

「お前が生まれる前の話」

「それ紗々が知らないところー」

俺が知っていて自分が知らないのが悔しいのか紗々はうーと唸る。

「兄者は紗々より年上だから紗々の知らないこともいっぱい知ってるんだー」

まるで俺がずるいみたいな言いようだった。

「そうだよ俺は大人だからな」

「紗々も早く大人になるー」

小さな拳をぎゅっと握る姿は可愛らしかった。

「冗談だよ。別にお前も焦って大人になる必要はない」

「それってどういう意味ー?」

小首をかしげ俺に尋ねてくる紗々だった。

「うーんまあいずれわかるさ」

「いずれっていつー?」

「内緒」

俺が小さく笑うと彼女は不服そうに頬を膨らませた。

「兄者は会わなくなってからずるくなったー」

「そうか?」

仕事先のウェルズ家では長男のチャールズにいびられ弟のミルには手を焼かされ確かに人付き合いの仕方は変わったのかもしれない。彼らとも言葉をかわすことで理解できるようなったはずだ。

(チャールズの悪巧みには参ったけれど)

彼と母親のマリー夫人の好奇心により俺は東方に向かうことになった。

アロンソを紹介してもらって東方の魔族の事情や土地勘を得ることができた。

「ふふーんそんな兄者に紗々はおいしいシュトーレン屋さんを紹介してあげる」

彼女の部屋のテーブルには甘い粉砂糖がまぶしてあるお菓子がその存在を主張していた。

「シュトーレンってそれか」

「これは紗々の食べかけだから兄者には新しいのをおごってあげるよー」

自慢げに胸を張る紗々を見ていると笑みがこぼれる。

「俺はこれでいいよ」

「ええーせっかく紗々のけいざいりょくを見せてあげようと思ったのにー」

俺はナイフでシュトーレンを一口大に切ると自分の分と紗々の分を取り分けた。

「いただきます」

口にいれると豊かなバターの薫りと細かい果物やナッツの味がする。

確かに紗々が自慢にするのもわかる。

おいしい店のシュトーレンだった。

「うまいな」

「へへっ兄者もおそれいったかー」

得意気な紗々に苦笑しつつも俺はシュトーレンを食べつつ本来の目的を考える。

俺はハインリヒが裏で魔族と繋がっていることを確認してアロンソに報告する。

そしてそれを共同で記事にする計画だった。

「紗々ひとつ質問していいか」

「うんいいよー」

おそらくこの部屋には防諜機能はついていないだろう。

俺は防御魔法を使ってハインリヒたちが話を聞くことができないようにする。

「お前がこの屋敷に来てから何があった?」

「それはハインリヒから言っちゃダメだよーって言われてるの」

紗々は腕の前でバッテンを作る。

「頼む教えてくれ」

「いくら兄者でもそれは言えないなー」

どうやらハインリヒに口止めをされているらしい。

「じゃあ質問を変えよう」

「紗々にも答えられないことはあるんだよー」

紗々は困ったような顔で俺を見上げる。

「アリサ姫との面会はできているのか」

「それは毎日一緒におやつ食べているから」

軟禁されているとはいえ彼女がずっと一人でいるわけでもないようだ。

「でもアリサ姫の回りには護衛の人がいっぱいいて兄者は入れないよー」

一応部外者だからねと付け足される。

「それより紗々と一緒に魔族退治に出掛けようよー」

彼女は俺の袖を引っ張って気を引こうとする。

「ここはハインリヒの諜報部がいるから」

そう小声で告げられる。

「お前の成長を見せてもらおうか」

俺もそれには気づかないふりで彼女の申し出を了承する。

「紗々案内してくれるか」

「うん兄者なら大歓迎だよー」

ぴょんぴょん跳ねながら俺の腕を引く。

「それじゃ兄者、準備はいい?」

その一言で俺は戦場に向かうのだと覚悟を決めた。


「行くよー」

そこは荒れ果てた土地の隅にある掘っ立て小屋だった。昔は住人はいたのだろうが今は空き家だ。

紗々はまっすぐ駆け出しドアをぶち破る。

するとそこには魔族がいた。

「ぐがががっ」

俺たちに気づくなりすぐに攻撃を仕掛けてきた。

だが紗々の動きはそれより一段早い。

彼らの魔法が届く前に剣で急所を突き刺す。

「兄者、まほー使って」

涼しい顔で魔族の死体を片付けると俺は彼女に言われた通り清めの魔法を使う。

「天にまします我が主よ……我に力を与えたまえ」

すると血まみれになった地面がきれいに元通りになった。

「ふふっ兄者と久しぶりに共闘するねー」

紗々は血とそっくりな赤毛を揺らし笑みを浮かべる。

凄艶とまではいかないがなにか恐ろしいものを感じる。

これが俺の妹か。

アリサ姫の騎士になるとはこういうことを意味するのかと一人ごちる。

「兄者ぼんやりしている暇はないよー」

「おう。待たせて悪い」

こうして魔族のいそうな暗がりを探しつつ一体一体倒していく。

「そういえばお前報酬ってどうなってるんだ?」

「ほーしゅー?」

戦いが一段落したところで今まで抱いてきた疑問を口にする。

「ないよー」

だってアリサ姫の騎士だからね、と彼女は笑う。

「ないってそれは本当か?」

まさかハインリヒが紗々の功績を横取りしているとすれば。

「うん。ハインリヒに報告すると王様に伝えられるんだってー」

彼女はなにもわかっていない。それを利用して騎士としての役割すら邪魔するのだとしたら。

「許せないな」

その一言が俺の口からこぼれでる。

「兄者ーこわい顔するのナシー」

「悪い悪い」

騎士修道会の闇は深い。その最奥までたどり着くことはできるのだろうか。

アロンソには大きな情報を渡すことができそうだった。

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