教会 37
メマ村から帰って来て二日目、昨日はゆっくりと休んだので体調もかなりよくなった。
今日もいつものようにレンに起こされるが一日休んだせいで動きたくないので今日は休むと言ったがもうレンも慣れてしまったんだろう布団を剥がされてしまった。
俺の可愛いレンがこんな暴力的に・・・悲しいぞ
半分だけ目を開けながらレンに手を引かれて今日もダンジョンにもぐる。
今日の階層は16層からだ、流石にダンジョンの中に入っても寝ぼけてはいられないので頬を叩き気合を入れる。
久しぶりのダンジョンだ、屋敷やメマ村の依頼は目的の敵などがあったし何よりその場所に行くまでがしんどい。
その分ダンジョンはいい、いつもの場所に来てただ進めば金のなる木がうろついているんだから。
現れた敵がよっぽど多くなければレン1人で倒せるので基本的に俺は凄い暇だ、後ろで携帯でも触りたい気分だ。 ないけど
ひたすらレンの後姿を見ていたら17層への階段が見えてきた、結局久しぶりのダンジョンだと言うのに俺が倒した敵は3体ほどでレンは14体だ。
暇と言えば暇だが二人で相手をする必要がないし働かずに居れるなら働きたくないので黙っていることにする。
次の日もその次の日も俺達はダンジョンに籠ってDPと素材代を集めて一層ごと確実に進んでいった。
そして19層に来たのだった
流石にメマ村から帰って来て4日も経てば流石に俺も朝にもなれてレンに布団を取られることもなくなった。
「そう言えばこの朝食は変わらないのか?」
レンが運んできてくれたスープとパンをモシャモシャ食べながら聞く。
前のザガローナ街で出た食事も内容が少し違えどスープとパンだったぞ、宿にはスープとパンって言う掟でもあるのか?
「一応定番のセットですからね、最低限の食事と言う意味ですよお金持ちの人達は宿で食べずに外に食べにいくって聞きますよ」
「朝から外食!?ブルジュワだなぁ」
「ぶるじゅ・・・? あ、でも外食しなくても奴隷に作らせる人もいるそうですよ、そう言う設備があればですけどこの宿は奴隷部屋があるのでたぶんあるんじゃないかと」
「へぇ」
確かに奴隷に作らせれば材料費だけで済むし安上がりだろうな
聞きたい事も終わったので食事を再開しようとすると
「私が作りましょうか?」
まぁこの話の流れ的にそう言ってくるだろうと思った が、俺の頭の中には離乳食モドキが現れる。
「いや大丈夫、作らなくていいよ」
「そうですか・・・・」
ちょっとだけ期待していたのだろう少しだけ残念そうだ、朝は限界まで寝ておきたい俺には理解できない感情だな。
食事を終わらせた俺達はダンジョンの19層に行き攻略を開始して数時間程歩いていると
「ご主人様あれ見てください」
「ん?」
レンがいきなり立ち止まって少し先の床を指さす。
「おいおい・・・あれって・・・」
近づいてしっかりと確認する。
落ちていた物は切断された人の腕だった、肌が紫に変色しているが血はまだ完全に固まっていない。
そこまでの時間は経っていないだろう。
「もしかするとこの先に強い敵がいるかもしれません、どうしますか?」
「う、うーん・・・」
ここで一度戻るのもありなのだが、この腕が少し不自然なのだ。
腕の周りには腕から出た血だまりがあり、さらに遠くには飛び散った血がある。
ここまでは普通なのだがその血が奥に続いているのだ。
敵モンスターが腕の持ち主を持っていった可能性もあるが・・・もしただ負傷しただけなら?
普通は止血したり退避するだろうが・・・・何か嫌な予感もあるどうするか
「大丈夫です私が守りますよ」
俺が唸って悩んでいるとレンがぽんぽんとエージスと髪飾りを触りながら笑いかけてくる。
そうだな、わざわざ危険に身を投じる必要もないだろうただでさえレンを危険な目にあわせまくっているからな。
「いや、今回は引こう」
「分かりました さ、いきましょう」
俺達は落ちている手の少し奥の端に落ちている避妊薬と痛み止めが入っているケースに気付くことなく、ここまで来たように俺の前をレンが歩き先導してくれながらダンジョンから出て行ったのであった。
ダンジョンを出た俺達は今から20層に行くにしても帰りが遅くなるので今日は早退することにした。
しかしダンジョンを途中で切り上げたので日が落ちるまでそれなりに時間はあるので街の探索をしようと提案すると二つ返事で答えてくれた。
ラヌゼーイ街に来てから俺達は冒険者ギルドや宿、後は先日行ったレストランくらいでこの街のほとんどをしらない、高級な宿やレストランがあるなら前のザガローナ街とは違ったものが見れるのではないかと思い行ったことのない場所へ向かった。
「ご主人様見てください!」
立ち並ぶ建物の看板や店の窓から見える店内を見ているとレンを俺の手を引いて広場の方を指さす、何かいいものがあったのか?と指さす方を見ると人が休憩できるようなそれなり大きな公園の様になっている空間があった。
「なんだ?」
「あれですよ、あれ!噴水です!」
ん?ああ、言われてみれば真ん中に少し小さめの噴水があり、周りには噴水の淵に腰を掛けて休んでいる村人が見える。
「私初めて見ました噴水!行って見ていいですか?」
「いいけど・・・うぉ!」
許可を求めてきたので行っていいと言うと俺の腕を掴んだまま走り出した、俺も行くのか・・・・
後5歩程歩くと噴水の淵に着くと言う所でレンが掴んでいた俺の腕を離して「いってきます」とこちらに頭を下げて噴水に近づいて行った。
噴水に行くのに「行ってきます」なんて言われたことも見た事もないぞ
「ご主人様!涼しいですよ!」
「落ちるなよ」
「はーい!」
他の村人の様に淵に座って噴水に手を伸ばす、吹き出ている水に触れはしないが涼しいそうにしている。
そう言えば機械の無いこの世界の噴水ってどうなってるんだ?
しばらくレンの好きにさせた後一年分の幸せを満喫したような表情で戻って来たレンと噴水の広場を後にした。
次に向かったのはこの街に初めて来たときから見えている時計台の方向だ。
時計台に近づくにつれて周りの建物も立派なものが増えてきた。
異世界の建造物が珍しいので見て回るだけでそれなりに楽しいが、レンは逆に居心地が悪そうだ。
「どうしたレン」
「い、いえ・・・奴隷なのでこんな所に近づいていいんでしょうか・・・」
「別にいいんじゃない?ここにいる人だって奴隷持ってる人いるだろうし」
実際に建物の陰にはボロ布を来ている奴隷らしき人が見えるしな。
「そうでしょうけど・・・せめて端を通りましょう?」
「別に気にするなよ、それよりそろそろ時計塔の根本だぞ」
もう見えている角を曲がれば時計塔の根本だ。
特に何かがあるとか期待はしていないがこの街のシンボルでかなり巨大な建造物な、大きな建物とはついつい近くで見上げたくなってしまうのが男の心情だ。
角を曲がって塔の根本を見ると塔と同じく真っ白で大きな建物が建っていた。
入り口の前には数段の階段に大きな入り口、上にある窓はガラス細工で出来ていて綺麗だ。
「これって・・・」
「教会・・・みたいですね」
その建物には十字架などはないものの、これは何だ?と聞かれれば迷いなく教会だと言ってしまうほど俺の知っている教会と類似していた。
レンが教会と言っているのだからこの世界でも教会なのだろう。
しかしあの時計塔も教会から伸びているとしたら別に不思議ではない、何となく納得してしまう。
白くて大きい建物と言えば国の建造物か宗教関連だからな。
「この世界にも教会ってあるんだな、どんな宗教か知ってるか?」
「私はメマ村から出た事なかったので詳しくはありませんがオトバォ教って言う物があるらしいです」
「キリスト教じゃなくて?」
「きりすときょう・・・ですか?私は知りません」
建物がキリスト教に似てたから名前まで一緒かと思ったがそうではないらしい、試しに入ってみるか。
これで十字架におじいさんがくっついていたら笑えるけどな、いや笑えないか?
「あれは入れるのか?」
「宗教に興味あるんですか? 私も見たのは初めてなのでどういうものなのか・・・」
詳しくないって言ってたから分からないのも当然か・・・下手に入って「異教徒だ!」とか言われて縛り首とかは嫌だぞ・・・
ここから見えるかな?とじろじろと教会の入り口を見ていると
「どうかしましたかな?」
と後ろから声が掛けられた。
「うおぉ!? あ、いや俺達は怪しい者でもセールスマンでもなくてですね」
「はっはっは、でしたらオトバォ教に興味がおありなのですか」
声を掛けてきたのは白いローブを着た、いかにも聖職者と言う身なりをしたおじいさんだった。
優しそうに笑っているので大丈夫そうだ。
「あー、何というか・・・宗教を見たのは初めてでして・・・」
「なるほど、でしたらどうぞ中に入って見て行ってはいかがですかな? そちらのお嬢さん・・む?」
「?」
どうぞどうぞと教会の方に手を広げながらレンにも微笑みかけようと視線を動かすと細めていた目をうっすらと開いてレンを見る、いやレンの首をと言った方が正確だろう。
「え、ええっと あの? っ!?ガッ!」
「え ちょ!なにしてるんだ!?」
ゆっくりと落ち着いた歩みでレンに近づき、顎をわしづかみして無理矢理レンの首を上に向ける。
驚いた俺は咄嗟にレンの顎を掴んでいた腕を掴むと
「ああ、いえいえ。 首輪が無かったので奴隷と分からなかったので確認しただけですよ」
レンの首の刻印を確認すると掴んでいた腕を離して害はないですよと言わんばかりの表情で俺に微笑み返す。
他の奴隷がどうにかされているのを見るのは慣れてきたが、いざレンに手だしされると体が勝手に動く。
それにしてもこの聖職者のおっさん見た目では50代くらいだろう、それなりに歳も行ってるのに凄い力だレンが少し浮いてたぞ。
手を離されたレンはゲホゲホと少し咳き込んでいる、つかむ力もすごかったのだろう掴まれたところが若干赤くなっている。
「ああ、それで寄って行かれますかな?」
「いやいい、帰るぞレン」
尻もちをついているレンの腕を引いて立たせて教会を背にして歩き出す。
「またいつでも見学に来てくださいね、歓迎しますので」
「・・・」
なんの悪びれもなくにこやかに喋る聖職者に振り向くことなく教会を後にした。
教会から離れて先程の噴水がある広場まで戻って来た俺達。
レンは顎をさすりながらも「びっくりしましたね」とか言って笑っているが俺はどうも納得いかない。
大体奴隷がああいう扱いされるのは分かっているが、他人の奴隷に勝手に触るってどう言う了見だ。
「・・・・・んで痛くないのか、顎」
「大丈夫ですよ、赤くなってますけどヒリヒリする程度です」
「そう言えば首を見ないと奴隷って分からないんだな」
さっきの聖職者がわざわざ首を見て奴隷だと見分けていたのだから、首輪や刻印だけが奴隷の証明と言う事になるんじゃないか?それ以外普通の人間なんだし
「そうですね・・後は服装とかでも判断出来ますけど私は普通の女の子の恰好してますから分からなかったんだと思いますよ。 ただ凄い魔法使いなどの人達は一目で分かるらしいですけど」
「そうなのか?」
「はい、何でも首輪・・・私は体内にある魔法を見て判断出来るとか何とか」
そう言えば首輪の魔法が体内に移動しただけだとか言ってたもんな。
何事にも例外はあると言う事か。 しかしそんなレベルで奴隷かどうか分かる人間が居ても結局は少数だ。
「マフラーでも買いに行くか」
「え・・」
「マフラーだよ、首を隠したら誰にも分からないだろ?」
「ご主人様・・・・」
俺の天才的な提案にレンは涙目で俺の顔を見てくる、いつもの事だがレンに感謝されると言うのは悪い物ではない。
「お疲れなのですね・・・休みましょう・・明日はダンジョンに行かずに休日にしましょう」
噴水の淵に座っていたレンが立ち上がり俺の手を引く、何か可哀想なものを見る目でだ
「ちょ・・・なんで?見えないと分からないじゃん」
「うぅ・・・ご主人様が・・バカに・・・、さっきの教会の人が私を掴んで驚いたんですね。 さ、私は大丈夫なので宿へ」
「いやいやいやいや」
なんでそんな俺が泣かれながら心配されないといけないんだ、訳が分からん。
別におかしくなってないのに連れられて溜まるかと俺はレンに反抗して噴水の淵から立ち上がらない。
「待て待て、俺はおかしくなってない。 むしろそれで泣いてるお前がおかしいわ!説明しろよ!」
「・・・・分かりました、落ち着いて聞いてくださいね」
手を引くのをやめて俺の前にしゃがみ込む、なんか屈辱的なのだけれど・・・
俺の目の前にグーの手を持ってきてピンと人差し指を立てる。
「まず、こんなあったかい地域にマフラーなんて売ってません、誰も買わないですし何より熱いです」
「む・・言われてみれば」
この世界に来てから大体1か月程だろうか、確かにずっとあったかい。
もしかして四季がないのか? 四季があれば売れ残りとかで残ってそうだけど
「次にマフラーをつけたりして隠してもさっきみたいに無理矢理見られます、どうみても不自然じゃないですか」
「別にいいじゃないか、ただ変態って見られるだ・・・・何でもないごめん」
レンの睨みに言葉を止めて謝る、これは俺が悪かった・・・たぶん
「そして最後に、ただでさえ首輪がない状態で私の背は低めです、普通にしたりした向いているだけで分かりにくいですよ」
「チビだもんな。 いでででででででで」
「何ですか?」
うぅぅぅ・・・太ももをつねられてしまった、初めの頃のおしとやかさはどこにいったんだ暴力反対!
なんにせよどうやら俺のマフラーと言う名案ならぬ迷案は受理されなかった。




