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輪廻の辿る最後  作者: 弥坂 忍
9/9

最終話 悪くないわ


あれからおよそ1年程経った。

私はなんら変わりなくイギリスでの生活を満喫していた。

言葉が通じなかったり、文化が違うこともあって多少の不便は感じるものの、

特にこれといった不満は無い。

しかし、時たま日本の食事や家族が恋しくなるものだ。

つい先ほど母親に連絡を入れたところなのだが、特に変わったことは無いそうだ。

日本と言えば、少し気がかりなことが一つあったのを思い出した。

それは美智子からの連絡だった。彼女と最後に会った日にした頼み事の件、忘れているわけではないだろう。あの美智子が忘れたりする訳がない。

どうしたものかと考えてみるが、考えていたって答えが出る訳でもないので思い立ったが吉日ということで、早速彼女に探りを入れてみることにした。

3回程呼び出しコールが鳴ってから

「もしもーし」と相変わらず元気そうな声が聞こえた。

「久しぶり、美智子」

「久しぶりだね、明梨~」

「元気そうでなにより」

「まぁね、それより、探りに電話よこしたんでしょ?」

「まぁ、えぇ」なんだ、バレていたのか。流石美智子。ともなれば話は早い。

少し間を置いてから、

「それがね、おかしいのよ」

「何が」

「あんたが姿を消してからもう1年も経つっていうのに、彼、私とスーパーとかで会っても明梨の話なんか一切話題に出てこないのよ」

「傷ついたわ」

「忘れちゃったのかな?そんな訳ないか。連絡は?」

「あったらこんな電話してないわよ」

「そうよね…。なんなら今度もし会った時、私から聞いてみようか?」

「そうね、ありがとう」

「お気になさらず~、それじゃあ今ドライブ中だから、悪いけど切るわね」

「邪魔してすまなかったわね、それじゃあまた」

ピッという音を立てて通話は切れた。

しかし、話題が出てこないというのは予想外だ。

私が居なくなってせいせいしたというのか?それとも私が居なくなったところで彼には関係ないということだろうか。いずれにしよ出てくるのは悲しい想像だ。

こんなことを言われてはますます気になるじゃないか、と自分から掛けた友人を少し恨み、悪態をついた。


それから一週間後の事だった。

冷蔵庫の食料が底をついていたので、買い出しにデパートに来ていたところ、ハンドバッグの中からブブブという振動音と着信音が響いた。持っていた買い物かごを床に置くとバッグの中を漁って、それを取り出した。


「もしもし」

「明梨、ビッグニュースよ」

「なによ」

「昨日ね、駅前の喫茶店で友達とお茶してたら彼が現れたのよ」

「それで?」

「一人で来てたみたいだから、友人に失礼して、彼に探りに行ったのよ。少し話してから、明梨のこと聞かないんですか?って聞いたら、何て言ったと思う?」

「さぁ?」

「「明梨?誰だよ」だってさ!冗談にもなってないわよ」

「えっ?」

「明梨の事説明したら、「俺はそんなヤツ知らないぜ、人違いじゃないのか?」ですって!」

「…」

「そうしたらね、彼が上着のポケットから携帯取り出して、明梨の連絡先見せてきて「もしかして、こいつのことか?」なんて言うから腹立っちゃってさー…って明梨?聞いてる?」

「…ごめん、後で掛けなおすわ」

「え?明梨?」

勢いで通話を切ってしまった。

覚えてない?彼が、私のことを?知らないですって…?

心当たりが無いでもない。でも、そんなまさか。

日本を出る際に、空港で会ったときは私の事を覚えていただろう。では、何故?

眉間に皺を寄せながら唸っていると、ハッとして顔を上げる。

そうだ、確か以前一緒に出掛けた際に彼が自販機で買った水のペットボトルに、こっそりそれを忍ばしておいたんだ。

友人に何も聞いてこなかったところから察するに、おそらく私が発った日か、次の日あたりにそれを飲んでしまったというのか?

それに、仮にそうだとしても何故私を忘れる?それってまさか、いやまさか。

しかし、他に見当はつかない。頭を打って記憶喪失なら彼が美智子のことを覚えている筈がない。記憶障害か?そんなこと聞いたことも例もない。

となると一つしかない。


「私のことを、愛してくれたの?」


問いかけたって返事をしてくれる人は誰もいない。

虚しく部屋の中に響き渡った自分の声は、とても掠れた小さな声だった。

今からでも遅くは無い、日本に戻ろうか。もう一度彼との出会いをやりなおす?今ならそれは可能だ。しかし、そんな勇気は何処にも湧いて来なかった。

また拒まれてしまえば…、と考えてしまうと戻ることなんか出来ない。

どうしようもできずにうろうろしていると、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえた。

「ただいま~」

声で、佑香が帰宅したのだろうと分かった。

「いやね、電気くらい付けなさいよ」

彼女が部屋の電気を付けて私の方を振り返ると、


「…何て顔してるの」


















「そんな膨大な量のお弁当、誰が食べるのよ」

「私とあんたに決まってるでしょ」

「そんなに食べれないわよ」

「私は食べれる」と、てへっとペコちゃんのように軽く舌を出して笑った。

少し可愛いのがまた腹立たしい。

友人と見上げた青空は広く澄み渡っていた。日本まで続く青空が。


あれから半年が経とうとしていたが、結局私は日本へと戻ることは無かった。

また会えたところで、彼が私を好きになる保証も思い出してくれる可能性も無に等しいのだ。それに、彼にとって私という存在は居ない方がいいのかもしれない。

彼には彼の道があり、私にはまた私の道がある。

ここが潮時だと思い、私は身を引いた。彼が今どうしているかなんて友人に探るのも「いかにも引きずってます」感が凄いので、そんな野暮なことは口に出していない。

おそらく死ぬまで暮らすであろうこの国は今ではすっかり体に馴染んでいた。ここへ留まれという神様からの警告なのかもしれないなどと勝手に解釈をし、今に至る。

とても二人では食べきれない大きな弁当を佑香が持ち、晴天のピクニックといったところだ。まぁでも、これも一種の運命というやつだろう。

友人と暮らし、毎日美味しいものを食べて、一緒に出掛けたりして。

そう考えてみると、こんな毎日も


              


「悪くないわ」







                             end.


ご愛読、有難うございました。

結局最後は半ば丸投げしてしまいましたが、このエンド以外は思い浮かばず…。

ハッピーエンドととるか、バッドエンドととるかは読者様にお任せします。

長いようで短い間でしたが、そうも有難うございました。

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