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お前のルートだけは絶対にぶち壊す!

お前のルートだけは絶対にぶち壊す!

作者:三好
 あ、これ、おとめげーだ。

 物心ついた時に気付いた、と言うより知った、と表現した方が良いだろうか。
 俗に言う[前世の記憶]の再生は、不思議なことに思いのほか衝撃的なものでは無かった。
 寧ろ納得したのだ。
 子供ながらに己が『周りと比べて子供らしくないようだ』とは薄々勘付いていたし、それは以前の生で培った性質を引き継いだのだろうと。
 生意気にも賢しい子供である綾乃は有る程度それを隠す知恵すら持っていたので、周囲から異常と見なされる程では無い。確かに聞き分けの良い『よくできた』子供ではあるだろうが。
 だが所詮、子供は子供。
 経験した訳ではない記憶を引き継いだだけで精神が成熟している訳でもなく、幼い身体に引っ張られて己を制御出来ていない。
 綾乃は自惚れていた。
 前世の記憶など付け焼き刃の知識……その事に綾乃が気付けたのは、事が起こった後である。


 九条綾乃。
 遡ればやんごとなき方々にまで繋がるという由緒正しき血筋の名家に産まれた、世界的大企業の社長令嬢で容姿端麗才気煥発のハイパーお嬢様。
 余りのスペックに、自分達で作った癖に制作スタッフから《ぼくのわたしのかんがえたさいきょうのおじょうさま》との称号を得ている。
 ただし、性格に難あり。
 メンヘラ気質でヤンデレ予備軍で思い込みの激しい勘違い常習者。力無き正義は無意味、力有る悪は世界の破滅。彼女は己が正義だと信じている。手に負えない。
 そして、悪役。
 基本はメインヒーローである神宮寺鷹臣の婚約者として登場するが、全てのルートでヒロインを妨害する為に現れ、更に条件を満たすと殆どの攻略対象に横恋慕する希代のライバルキャラ。手に負えない。
 彼女の結末は大体悲惨でスタッフの歪んだ愛が込められ過ぎている。
 最高難易度:骨太モードでの序盤からラスボス出てきちゃった感は異常。手に負えない。
 ノーマルでも灰になるプレイヤーが後を絶たない為、初心者はエンジェルモードでのプレイをオススメする。先達は勿論スタッフも制作ブログ内にて推奨している。手に負えない。
  ーーー恋愛シミュレーション『恋する乙女は諦めない〜ゼッタイ!無敵の恋愛戦争〜』Wiki 登場人物コラムより抜粋


 わたしである。

 もう一度言う、わたしである。
 なんともはや。
 神は死んだ。




「じんぐうじさま。お初に、お目にかかります。九条綾乃、ともうしますの。本日はすてきなパーティにおまねきいただき、まことにありがとうぞんじます」

 幼い少女の社交界デビューにしてはスパルタだ。彼女の両親は随分と離れた場所から見守っている。
 舌足らずながら丁寧に挨拶を述べ、立派に淑女の礼を取る姿は健気で愛らしいが、単純におしゃまさんと呼ぶには、拙いとはいえ所作が完璧過ぎる。幾ら名家の令嬢でも一桁の歳でここまで徹底しているのは驚異的だ。
 それでも何処か緊張を隠せぬ面持ちでにっこりと笑む小さな姫に、神宮寺現当主は精悍な顔つきを崩し頬を緩めた。

「よくおいで下さいました。私は神宮寺朔臣と申します。お会い出来てとても嬉しいです、綾乃さん。楽しんでいって下さい」

 たった一人で招待主への挨拶を成功させた綾乃の後ろに遅れて両親が現れ、続けて挨拶を始めた。
 一通り型通りのやり取りをこなし、これなら安心、大丈夫。そんな笑顔で、両親は綾乃をまた一人で送り出した。穏やかにスパルタ継続である。
 どうせ家の者は近くに着いているし特に逆らう気も無いのだが、やっとこ小学生に上がる程度の年頃にまぁ容赦の無い事だ。

 名家とは世知辛いのだなぁ。幼い令嬢も甘やかされているばかりではいられない、厳しい世界なのだ。綾乃はスパルタ教育のせいであんなチートな悪役になっちゃったのかな。
 ーーーなどと、綾乃はズレたことを考えながら頷いていたが、もっと周りを見渡せばよく分かるだろう。そんなことはない、九条がおかしいのだと。綾乃は中途半端に物分かりが良いので視野が狭かった。

 ただ、一応の理由はあった。
 九条と神宮寺双方の望み、婚姻関係を結ぶことになるかも知れない互いの子供を会わせること。

 直接引き合わせてはあからさま過ぎる。両家ともに目立つ分あまり露骨なことも出来ないので、双方の子女を誘導し、軽くでもいいので偶然の顔合わせを演出しよう、そういう手筈であった。
 その目論見は上手いこと進み、広い会場の中を何となくーーー勿論、お菓子や飲み物を勧められたり、挨拶されたりと行き先を操作した必然の旅路だがーーー進んでいた綾乃は行く手に天使を見た。


 あれは恐らく神宮寺鷹臣だ。
 ゲーム中よりずっと幼いが、確かに面影はある。


 幾ら自分に靡くことは無いと分かっていても、美の権化が眼前に現れて、虜にならぬ訳もない。うっかり目を奪われてしまったのは不可抗力だった。

 蜂蜜色の髪は艶やかで、琥珀よりずっと高価なものに見えるし、世の女が挙って羨むだろう肌は滑らかな絹、汚れを知らぬ白雪、整った眉は気の強そうな線を描き、一文字に引き結ばれた唇は紅も刺さずに薔薇の蕾のよう、長い睫毛が縁取る瞳は不遜な光を帯びるのに、とびきり甘いチョコレート。全体的に色素の薄い彼を包む濃紺の礼装がいっそう輝きを引き立てている。

 本当にこんなに、美しい人間がいるのか。本当に人なのか。人形じゃないのか。妖精か天使の類か。
 綾乃は夢見心地で何度も何度も思考する。こうなっては綾乃の小賢しい脳みそなど何の役にも立たない。出来ることなど何もない。
 どれほど長い間見惚れてしまっていたのか、それとも大した時間ではなかったのか。
 作り物じみた美貌から不意に目線を向けられても惚けていると、彼の頬が愛らしい桜色に染まっていた。不躾に見られてご立腹なのだろうか?
 彼の形の良い唇が開き、何がしかの音を奏で始めようとするのも、ただ見つめ続けることしか出来ぬまま。



「おまえ、性格わるそうな顔だな」



 こいつ、ぜったいなかす。

 初恋らしき甘く淡い幻想は儚く消え去り、きらきらと輝きを失いながら綾乃に終わりを告げた。
 残ったのは瞬く間に怨敵へと変わった天使の皮を被った悪魔と、そんな許すべからざる魔物に対して瞬時に育まれた敵対心のみである。

「そちらは、お顔だけはきれいですわね」

 単純な話、綾乃は自分の麗し悪役令嬢フェイスを非常に気にしていた。そしてそんな地雷を遠慮なくブチ破った憧れのエンジェルフェイスは憎き敵であった。最早容赦は不要なのである。
 ……生まれ落ちて数年、大事に大事にーースパルタ教育以外は。特に容姿は褒められ続け少しずつ開き直り始めていた筈でーー甘やかされて生きてきたので、綾乃は少し自制心が弱くなっていた。

「あなた、お母さまに かんしゃなさったほうがよろしくてよ」

 メインヒーローのフラグ、残らず叩き壊してくれる。ヒロインとの甘々幸せエンディングなど、貴様のような外道に見せてやるものか!
 即ち、綾乃が別方向の悪役令嬢になることを誓ったのだった。

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