E4-1,何処までも理不尽な現実
END4は、この世界でだからこそ起こり得たバッドエンドです。
END1~4は、特定のエンディングを読まなくてもお楽しみいただけるよう執筆しております。バッドエンドが苦手、またはお嫌いな方は、END4を読み飛ばしていただいて問題ありません。
その知らせを聞いた時、「どうして」とさえ言えませんでした。何も言葉にならず、何一つ受け入れられず、そして……何故こんなにも、世界はわたくし達を不幸にするのかと、恨まずにはいられませんでした。
留置局での生活を終え、伯爵家に戻ってきたわたくしは、様々な手続きを行いながら閣下からの知らせを待っていました。
ミルズはいつ戻ってくるのか。そして、ラウラの処遇はどうなるのか。
閣下は、「こちらで対処しよう」とおっしゃってくださいました。ですから、心待ちにしていたのです。
――それなのに。やはり、他者に期待など抱くべきではなかったのです。
「インツ・プラーシル、ローレ・プラーシルだけでなく、ラウラ・プラーシルならびにミルズ・プラーシルにも処刑の沙汰が下された……っ」
「…………は?」
「王族の耳に入らないよう、僕達で内々に対応するつもりだったんだ!それなのに……それなのにっ!」
わたくしは目の前が真っ黒になりました。
頭の中で閣下とクレイゼア様の声が反響しているような、酩酊して頭が揺れているような感覚でした。お二人に同行していたアウレアさんが、何かを言いながらわたくしを支えてくださいましたけれど……。
わたくしはもう、何も聞きたくありませんでした。
ぼんやりと聞いていた話を整理すると、塔の最上階に隔離していたシモナさんを処罰するため、誰とも接触させず、閣下とクレイゼア様、そしてアウレアさんの三人だけで対応していたそうです。
証拠の捏造や冤罪……担当官としてあるまじき行いですもの。警騎士資格の剥奪だけで済むはずがありません。反省の色が見えないことから、懲役刑を課す方向で進めていたのですって。
閣下は再犯防止のために、シモナさんが何を仕出かしたのか、担当官達に厳しく通達したそうです。無実だったわたくしの話も含め、このような過ちを二度と起こしてはならないと。
多くの担当官は理解を示してくれたようです。最初からわたくしの悪評や噂に疑問を抱いていた方々は勿論、最初は悪評や噂を信じていた方々も、自らの態度を省みていたと……そう聞いていました。
――それなのに、シモナさんの同僚の担当官が、無断で塔の最上階へ立ち入ったのです。
シモナさんの管理は、アウレアさんが担っていたそうです。けれど、アウレアさんにも仕事がありますから、常に監視していられるはずがありません。
塔の最上階は、決まった人以外の立ち入りが禁止されています。それなのにその担当官は、シモナさんにも事情があったはずだと、黙って鍵の保管場所から最上階の鍵を持ち出し、一人、シモナさんの元へ向かったのだとか。
留置局内の個室の鍵は、全て一ヶ所にまとめて保管されているそうです。閣下がその担当官を問い詰めたところ、自身の担当している被疑者の個室の鍵と、最上階の個室の鍵を一旦入れ替え、さも最上階の鍵はその場にあり続けているように見せかけたと……そう証言したと聞きました。
担当官がシモナさんの元を訪れたところ、彼女は己の過ちを省みることなく、
「私はラウラ・プラーシルに嵌められたのよ!証拠になるからって、レニエラが書いたっていう毒の入った手紙を渡されたの!あの女は悪女だって有名だったから、力になってあげなくちゃって思っただけなのに!」
と主張したそうです。そして担当官は、シモナさんの言葉を真に受け、密かに捜査資料に目を通しました。
そこで、ラウラとミルズの行いの一部だけを目にし――わたくしを捕らえに来た時、わたくしを乱暴に扱った警騎士に話したそうです。
シモナさんと同僚の担当官、そしてその警騎士の三人は同期なのですって。警騎士も、わたくしへの対応で警巡察局の局長から厳しい叱責と処分を受けていました。
事実を確かめようともせず、自分にとって都合のいい言葉だけを鵜呑みにし、保身と正当化ばかりを繰り返し、決まりも守らず反省もしない……。そんな彼らが、その後どんな行動を取るか……容易に想像が付くでしょう。
その警騎士は、警巡察局内で「シモナは、プラーシル家を乗っ取ろうとした者達に騙されたのだ」と主張したのです。
父や義母だけではなく、手紙を偽造し、わたくしのふりをしていたラウラや、前当主の子供のふりをしていたミルズも、伯爵位簒奪に関与していたと……。
密かに処理されるはずだった事件は、彼らの誤った正義感――いえ、もう正義とも呼べない保身や責任転嫁によって、中途半端な情報だけが広まってしまったのです。
『レニエラ・プラーシルは被害者で、家族四人に虐げられ、伯爵位を乗っ取られようとしていた』
と。四人を悪にし、警騎士である自分達も利用されたのだと――そう訴えたのです。
そんな衝撃的な醜聞が、広まらないはずがありません。すぐに貴族達の、そして王族の耳にまで届いてしまいました。
閣下は全ての捜査資料を王家に提出し、伯爵位簒奪は企てられていたものの未遂であること、そしてラウラやミルズには拒否権がなく、そのうえ水面下ではわたくしを救おうとしていたこと……全て説明してくださいました。
ですが、国家を揺るがす罪や王族に対する罪、また、この国が重んじている血筋にまつわる罪は全て、死罪とするのが掟。
何より、実際にミルズが継承権放棄を行っていない現状では、本当に放棄する意思があったとは、認めていただけなかったそうです。
「我が家だけでなく、クレイゼア侯爵家やマーレイン伯爵家、それにトゥルヴァン侯爵家も、二人の処刑を再考していただきたいと、陛下に謁見し、嘆願した。だが……っ」
「今回の件で露呈しなければ、簒奪が起きていたかもしれないと。毒を用意し、魔導具まで用いて伯爵位を奪おうとしていた。ここまで話が広まってしまった以上、国として法に則って裁くとの判断が下されたんだ。警騎士の信用を落とすわけにもいかないからって、これからの国家のために見せしめとして公開処刑にする、って……」
「信用……?国家のため……?」
――そんな、馬鹿な話がありますか?
ラウラの手紙に入っていた毒は、いざという時、ラウラが使うためにと大切に隠し持っていたものでした。
万が一、わたくしが成人しても計画が上手くいかず、父や義母が実権を握り続けたままだった場合、彼らが母を殺したのと同じ手段で、父や義母を毒殺するためにラウラが準備していたのです。
ラウラにとってそれは最後の手段であり、心の拠り所やお守りのようなものでした。わたくしはそれを知っていたから、毒を使わせる日が来ないようにと、必死で証拠を集めていたのです。
ですからあの手紙は、わたくしを悪に仕立てるためのものと見せかけて、わたくしならその不自然さを逆に利用して乗り切るだろうと見越してのものだったのです。
前にも触れたように、筆跡鑑定に必要な期間を確認し、閣下の目の前でわたくしの筆跡採取を行えば、必ず違和感に気付けるはずですから。
そこに加えて毒が同封されていれば、別の悪意があると担当官達にも伝わるだろうと思ったのでしょう。実際に父は毒を使ったことがあり、それを手配したのは義母ですもの。
正式な証拠として認められる条件を満たしていない手紙。用意出来るはずのない筆跡鑑定書。そして同封された毒。父と義母、そして自身を裁かせるため、ラウラは自作自演をしたのです。
きっと、シモナさんがわたくしの悪口を言っているところでも聞いて、彼女を利用しようと考えたのでしょう。
魔導具を用いたと言いますが、それは父や義母の策略で、ミルズはそれを押し付けられただけではありませんか。
生まれた時から簒奪の道を歩まされ、死にたくないと、怖いと震えていました。伯爵になど、なれなくていいと……。
ミルズは、共に彼らの所業を暴いてくれたというのに。ラウラは、わたくしを傷付ける嫌な役を背負いながら守ってくれていたのに。
――ミルズと計画を立てた時、当然ですが上手くいかない未来も考えていました。
伯爵位簒奪は大罪ですもの。警騎士やトゥルヴァン侯爵家に掛け合ったところで、全員処刑だと下される未来も想定していました。
ですから、みな等しく罪人として裁かれるのであれば受け入れられたでしょう。やはりこの世界はそんなものなのねと納得して、最期までの時間を静かに過ごせたはずです。こんな世界を捨てて、ミルズとラウラと共に逝けるのなら……と。
それなのに、わたくしだけが被害者?
二人が、簒奪に加担していた?
どうしてそんなことになるのですか?
どうして?
どうして、どうしてどうしてどうして!?
誰も、わたくしの声を聞いてくれなかったのに!
誰も、わたくし達を助けてくれなかったのに!!
ずっとわたくしを支え、助けてくれていたあの子達が、警騎士の信用のために、国家のために、処刑されるというのですか?
決まりを破り、身勝手な正義感で中途半端に事件を暴き、事実を歪めて吹聴した者達の保身と、国の威信を守るために?
そんな、馬鹿な話が……ありますか?
――そんな世界なら、もう。




