27,馬脚を現し始めた家族(side:閣下)
「痕跡……とは、何ですか?」
「警騎士独自の捜査方法に基づいて調べたものだ。主にドレッサー周辺と、ドレスやアクセサリーの一部からはレニエラ・プラーシルの痕跡が見付かった。だが、それ以外のベッドやソファ、壁や床も含め、彼女があの部屋で生活していた痕跡は確認出来なかった。何が言いたいか分かるか?」
「……」
義姉は笑顔を固めたまま、沈黙を貫く。“痕跡”が何か分からないながらも、何かを言い当てられていることだけは察しているのだろう。
魔力を可視化出来る魔導具の存在は、厳重に秘匿されている。それを知られれば、別の者に犯行をさせればいいと考える輩が後を絶たないだろうからな。
王族とその側近、近衛騎士や警騎士の一部のみが知り、別の魔導具を用いて、情報を開示しないように誓約させられるのだ。
「我々の見解としては、あそこがレニエラ・プラーシルの部屋ではないと睨んでいる。だから聞いたんだ。『案内した部屋は、レニエラ・プラーシルの部屋で間違いないのだろうな?』とな」
「レニエラの生活なんて知りません!そんなふうに聞かれたって困ります!」
反射的に声を荒げた義姉は、ハッとして俯く。直情的な様子を見て、留置局でのレニエラ嬢の立ち居振舞いを思い返す。
やはり悪女という噂は、彼らのでっち上げではないか?彼女の方が、余程貴族令嬢らしいだろう。
俺は義姉に向けて目を細める。
「だが、君は言い切っていただろう。『私は間違いなく、レニエラの部屋にお連れしましたよ』と。よく知りもしないで、何故自信満々に案内したんだ?」
「そ、そんなの、私が知っているレニエラの部屋を案内しただけです!レニエラが他の部屋を使っていたかなんて……」
義姉は一瞬顔を歪めたものの、横に座っている弟に「ねぇ、知っている?」とわざとらしく問いかけた。知らぬ存ぜぬで通す気なのだろう。
「しらを切っても無駄だ。先程、トマーシュが言っていただろう。『協力してもらいますよ』とな。――採取を始めるぞ」
俺が立ち上がったと同時に、控えていた担当官達も動き始めた。
「まぁっ!何をするつもり!?」
「爪の先と毛髪を数本取らせてもらう」
淡々と告げると、インツ殿が声を荒げた。
「何故私がそんなことをせねばならんのだ!?」
「やだやだ!来ないで!」
インツ殿や夫人、義姉が騒ぎ立て、ソファから立ち上がり壁際へ逃げていく。そういえば弟は、さっきからずっと人形のように動かないな。
「そこの三人は我々の捜査に協力が出来ないと?捜査への協力拒否と見なしてもかまわないのだな?」
「ぐっ……!」
呻き声を上げたインツ殿の額から汗が垂れた。
決して理不尽な協力要請ではない。事件解決のため、爪の先や毛髪数本程度の提供を拒否するとなると、国の秩序を担う我らへの協力拒否を意味する。
今後何か事件が起きた時、プラーシル家への対応が慎重になろうとも、彼らに文句を言う資格がなくなるのだ。
「レニエラ・プラーシルの痕跡を見る限り、今や彼女が被疑者であるのかも疑わしい。同時に、被害者のアマン・オルドラークの痕跡も調べたが、それを見る限り二人の接点はあまりなさそうだったからな」
「「「……っ!?」」」
捜査にあたり、当然ながら被害者の魔力色や数値も調べてある。レニエラ嬢の痕跡を辿ると同時に、被害者の痕跡も辿っていた。
偽の部屋や屋根裏部屋には被害者の痕跡はなく、そもそも二階への出入りもなさそうだった。婚約者である義姉の部屋さえも。
被害者の痕跡が色濃く現れたのは、とある来客室のみ。しかしその部屋や周辺だけは、逆にレニエラ嬢の痕跡が一切なかったのだ。
「事件のあった当日、君は彼女に向かってこう言ったそうだな?『何度声をかけても相手にされないからって!』と。……おかしなことだ。痕跡を辿ってみたが、二人が至近距離で接していたようには見えなかった」
「な、何を根拠に言っているんですか!?」
ついに化けの皮が剥がれ始めたようだ。義姉は令嬢らしからぬ形相で俺を睨んでいる。
「根拠はあるが、手の内を明かすわけにはいかない。だが、“王族にも認められている捜査方法に基づいている”とだけは言っておこう」
「お、王族!?そんな……っ!」
「そもそも、協力を拒否したんだ。何かしら疚しいことがあるのだろう?そう思われても仕方のない行動や態度だと思うが?」
そうして俺が義姉と話している隙を見て、インツ殿が一目散に扉へ向かって走り出した。家族を見捨てて、自分だけ助かろうというのか。
だが、俺達以上に捕物に長けた警巡察局の警士達だ。簡単にインツ殿を捻り上げ、膝をつかせた。
「ぐあっ!?」
「大人しくしろ。自分が押さえていますので、今のうちに爪と毛髪の採取を」
「流石だな。この様子では、逃亡や証拠を図るかもしれん。拘束を許す」
警士の言葉に、一人の担当官が素早く動き出し、インツ殿の両腕に手枷を嵌めた。一瞬の出来事に夫人は腰を抜かし、義姉は唇を噛み締めている。
丁度そのタイミングで、上階へ上がっていったトマーシュと担当官が戻ってきた。
そして、トマーシュの顔から笑みが消えていた。……こいつ、笑っていても怖いが、無表情でも怖いな。
「採取の最中ですか?それなら私も協力しますよ」
「……今のお前に、プラーシル家の者を任せられるか。そこの執事や使用人から採取しろ」
「チッ」
いや、聞こえているが?一応俺はお前の上官にあたるんだぞ?
……まぁ、あの部屋を見たなら無理はないが。今のトマーシュの前で夫人や令嬢が暴れでもしたら、本気で締め落としそうだからな。そんなことをされたら話が進まんではないか。
案の定、悲鳴を上げて扉へ駆け出した使用人を捕まえ、手刀で意識を刈り取っていた。言わんこっちゃない。
「君は抵抗しないんだな」
「……これだけ人がいて、逃げられるなんて思いませんよ」
弟は静かに手を差し出しながらそう言った。さっさと爪を採取しろということだろうか。これだけ抵抗する気配がなければ、トマーシュと一緒に戻ってきた担当官に任せて問題ないだろう。
「ふむ。こちらは戻ってきたお前に任せる」
「はっ」
「俺は……」
未だ腰を抜かしている夫人と、その側で震えている義姉に視線を向ける。そちらへゆっくりと歩き始めた。
「言っただろう。『我ら警騎士には真実を詳らかにする責務がある』と。君の案内した部屋が一体何なのか。そして、あの屋根裏部屋が何なのか」
「なっ!?」
「全て、吐いてもらうぞ」
俺が睨み付けると、義姉もその場にへたり込み――力が抜けたように笑った。その表情に目を見張ったところで、再び通信が入った。
『レニエラ・プラーシルの護送が完了しました』
「分かった。マーレイン担当官も連れ、屋敷の入口に来てくれ。一人向かわせる」
『承知しました』
通信を切り、俺は振り返ってトマーシュへ指示を出す。
「……ということだ。二人をこの部屋へ連れてきてくれ」
「すぐ向かいます」
アウレアが来ると聞いて、機嫌が直ったらしい。トマーシュは優雅に一礼して退室していく。……現金なやつだな。
それを見送ったあと、
「夫人と義姉も、目を離せば逃げる可能性が高そうだな。手枷での拘束を許可する」
と、手の空いた担当官達に指示を出し、冷ややかに二人を見下ろした。
間もなくここに、レニエラ嬢が来る。真の罪人が誰だったのか――決着を付けよう。
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昨日投稿した新作短編:
【 あの……、私は聖女じゃなくて魔法少女ですよ? ~勝手に召喚しておいて追放?魔王様の方がよほど良心的なので、悪は成敗しちゃいます!~ 】
あらすじ:
突然異世界に召喚されてしまった、高校三年生の私――黄金井 千星。人の国の王子は、魔王を倒すために聖女を召喚したかったみたい。でも……
「あの……、私は聖女じゃなくて魔法少女ですよ?」
そう伝えたら、その場の空気が一変したの。
魔法少女について問い質されて、変身してみせろと言われたから従ったのに、
「なんだそのハレンチ極まりない格好は!お前のような女が聖女のはずがない!」
と罵倒された挙句、王城から追放されちゃったの!
自分が聖女だなんて一言も言ってないし、私だって、このスカート丈は流石に短いと思ってるよ!
……私、こんな知らない世界でどうやって生きていけばいいの?
せめて、元いた世界に戻してよ!いくら魔法少女でも、次元の渡り方なんて知らないってばぁ〜っ!!
こちらもご覧いただけますと幸いです( .ˬ.)"




