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22,思惑と本音(side:???)


 私は、やってきたファルスキー公爵令息――この場では警騎士貴人留置塔管理局の局長としていらしている、この方の言葉に内心溜息を吐きました。


 どうやら局長様は、まだあの方の犯行だと考えて証拠を探しに来たようです。


 トールを用いても意図が伝わらなかったか、それとも間に合わなかったか。あの方なら上手く利用してくださるはずですが……相手が聞く耳を持たない場合は意味を成しませんからね。



 彼らの向かった先は、二階の一室。当主や配偶者、その子供の暮らす階。執務室や貴賓室も二階にあります。


 彼らを見送ったあと、使用人達が「留置局の担当官ですって!」「素敵……」と囁き合っているのを尻目に、私は私室に戻って考えを巡らせました。


 このままでは、彼らはあの方の部屋に辿り着かないでしょう。


 あの方が殺人犯とされてしまっては、私の今後は決まったも同然。私は一生彼らの操り人形となり、この家の忌まわしき歴史と共に骨を埋めなければなりません。


 ――ごめんなさい。あなたの人生を、めちゃくちゃにしてしまって……。本当にごめんなさい……っ!


 そう謝っていたあの方の姿を、私はずっと忘れられません。


 このままいけば、あの方は勝手に私の手に転がり込んでくるのでしょう。ですが、そんなことは決して望みません。


 あの方が再び籠の鳥にされてしまえば、今度こそ心が壊れてしまうかもしれないのですから。


 ……さて、どうしましょうか。


 下手に彼らと接触するわけにはいきませんが、様子を見に行く分にはかまわないでしょう。


 そう思い立ち、彼らの調査しているであろう部屋へ向かうべく歩き始め……ふと声が聞こえて足を止めました。


「ちょっと、ファルスキー様は取り合ってくれなかったの?」

「そうなの!なんなのよ、あの態度!私がせっかく案内してあげたのに。まさか……あの担当官、手紙のことを自分の手柄にして、情報提供したのは私だって伝えなかったんじゃないでしょうね!?」

「あなたが言っていた、レニエラのことを悪く言っていたっていう女性担当官のこと?使えないわねぇ」


 どうやら母子で話しているようです。この会話を誰かが聞いてくれていれば、彼女達が猫を被っていることも、何かを知っていることも伝わるのですが……。


 周りを見回しても、誰もいません。現実はそう甘くないですよね。


 しかし、案内をして追い出された……と。ふむ。


 どうやら局長様は、あの方の罪を暴こうとしてはいるものの、ラウラ・プラーシルの態度に流されるような方ではないようですね。


 それなら、まだ勝算はあるかもしれません。


 頭の片隅にその情報を残し、再び部屋を目指して進んでいくと、目的の部屋の扉が開いて一人の担当官が出てきました。橙色の癖っ毛がふわふわと揺れています。


「あっ、少し宜しいでしょうか?私、局長の補佐官を務めております、トマーシュ・クレイゼアです。事件のあった日のことや、被疑者レニエラ・プラーシルについてもう一度伺いたいのですが」


 目が合った途端、声をかけられました。局長様と比べると、とても気さくそうな方に見えます。


 人好きする笑み――なのでしょうけれど、何やら探られているように感じますね。


 ……これはもしや、他の人間も疑っているのでしょうか?


 もしそうであれば僥倖です。もしかすると、これもあの方の作戦なのかもしれません。あぁ……それは容易に想像がつきますね。


 しかし、安易に信じるわけにはいきませんし、話を聞きたいと言うのなら、まずは私以外の者達から聞いた方がいいでしょう。


「ご丁寧にありがとうございます。ですが、私よりも先に話を聞くべき相手がいると思いますよ」

「……と言いますと?」

「一階の使用人達です。あの方の犯行を目撃したと言っているのも、日々あの方の世話を行っていたのも、使用人達ですから」


 柔和に返答すると、補佐官様は目を丸くしたあと、獲物を狙う鳥のように目を細めました。


「あなたは何も知らない、と?」

「いえいえ。ですが、最も情報を持っている人達から話を聞いた方が、大枠を捉えられていいのではないかと思ったまでですよ」

「……なるほど?」


 にこやかに会話を繰り広げながら、互いに、表情、声色、話の内容から何かを拾い上げようと、神経を張り巡らせます。


 すると補佐官様は、一応理由に納得したのか肩を竦めて笑いました。


「では、先に使用人達から話を聞くことにしましょう。あとでお話を伺っても?」

「勿論です。捜査への協力は惜しみません」


 思惑はあれど、嘘は一つも言っていません。何より最後の言葉は揺るぎない本心ですからね。深く頷くと、補佐官様は片眉を上げて立ち去っていきました。


 向こうからやって来てくれたおかげで、わざわざ部屋まで行く必要がなくなりました。


 局長様でなくとも、補佐官様が話を聞きに行ってくださるなら、きっとこの家の奇妙さには気付いてもらえるはずです。


「それなら私も戻っておきましょうか」


 もし呼ばれた時にいなければ、訝しがられるかもしれませんから。これまで従順に過ごしてきたので、問い質されることはないはずですが、今気を緩めるわけにはいきません。



 部屋に戻り、いつものように任された書類に目を通します。問題がないことを確かめると、私は慎重に署名を入れました。


 ――インツ・プラーシル、と。





お読みくださり、ありがとうございます。


ついにプラーシル家の捜査に踏み込んだルドヴィーク。

一方、彼より先に???と遭遇したトマーシュは、使用人達に話を聞くために動き出す。


その???が最後に残した署名は一体……?


ルドヴィークは部屋から何を暴き、トマーシュは何を聞き出すのか。

来週もお楽しみに!


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