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18,凍てついた瞳による尋問


 扉を開くと、ここに連れてこられた時のような、嫌な空気を感じ取りました。ちらりと視線を向けると、担当官達はわたくしから目を離すまいと注視しています。


 正面へ目を向けると、無表情ながらも唇を引き結んでいるアウレアさんが立っていました。


「こんな時間ですが、取調室までご同行願います」

「分かりましたわ」


 手枷に鎖を繋がれ、しずしずと案内に従います。そうして取調室に入る手前で、わたくしはニタリと笑う担当官の顔を目にし――なるほどと察しました。


「では、こちらで……」

「アウレアさん」


 取調室の扉が開かれ、中に閣下とクレイゼア様の姿が見えました。いつもなら何も言わず、素直に取調室に入るのですけれど……。


 その前に、わたくしはアウレアさんに声をかけました。


「……なんでしょう?」

「ひとつ、お願いがございますの」


 わたくしはアウレアさんにだけ耳打ちしました。すると、アウレアさんは目を見開き、わたくしの顔をまじまじと見つめました。


「どうして……というお顔ですわね。それは秘密ですわ。でももしそれが、作り物でしたらどうでしょう?」

「……っ!?」

「留置局で、万が一があってはいけませんでしょう?」


 わたくしが少し首を傾げてみせると、アウレアさんは「分かりました」と頷きました。そちらはこの方に任せれば大丈夫でしょう。


「……アウレアと何を話していたの?」


 取調室に入室した途端、クレイゼア様から低い声で問いかけられました。いつもの胡散臭……いえ、柔らかな雰囲気とは打って変わって、声から明確な怒りを感じます。


「少しお願いをさせていただいただけですわ」

「お願い……?」

「えぇ。けれどそれは、後々種明かしが出来ること。今は、わたくしに聞きたいことがあって、こうしてわざわざお呼びになったのでしょう?閣下」


 今度はわたくしが閣下に質問します。


 ここ数日、勘違いしそうになっていましたけれど、この方はここの局長。わたくしの話を聞いてくださっていたのは、あくまで証拠がなかったから。


 ご本人がおっしゃっていましたものね。証拠があれば、尋問でも拷問でもなさる……と。それがつい昼間のことでしたのに。


 まさかこんなにもすぐ、凍てついた瞳を向けられることになるなんて。これが、留置局局長としての本来の姿なのでしょうか。


「そこに座れ」

「その前に、わたくしからお話ししても?手紙の入手経路は、シモナ・レグリー担当官ですわね?」

「……!」「なっ!?」


 二人が驚いたあと、クレイゼア様はずんずんとこちらに向かってきました。がしりと肩を掴まれ、痛みで顔が歪みます。


 クレイゼア様が机に放り投げたバインダーの一番上には、予想通り手紙が挟まっていました。


「どうしてそれを知っている!?」

「おい、やめろ」

「ルド、止めるな!今の聞いただろう!?もしかしたら、局に内通者がいるかもしれない。じゃないと、この情報を知り得るはずがない!アウレアが利用されていたらどうするんだっ!」

「だからといって、聴取をする前から無体を働くな。尋問や拷問が必要だと判断すれば、令嬢だろうと容赦なく行う」


 わたくしを差し置いて、二人は問答を繰り広げています。けれど、それよりも……。


「あの……お二人もご存知でしょう?どうしてその情報を知り得たのか」

「「は?」」

「お二人は、子猫と桃の話をお聞きになりませんでしたの?」

「「子猫と、桃」」


 ぴったりと揃った返事をされて、わたくし、少し哀れんだ目を向けてしまいました。あれでは気付けませんでしたか……。


「……あまりにも中身のない会話でしたものね。ですが、あぁでもしませんと、彼とわたくしはまともに話も出来ませんのよ」

「どういうことだ?」

「それはまだ明かせませんわ。それに、もう少しだけお待ちになってくださいな」


 わたくしは、毒気を抜かれた二人の前に腰かけました。奇妙なものでも見るような顔で、閣下も正面に座ります。


 暫くすると取調室がノックされ、扉が開かれました。


「閣下、お呼びと伺いました!」


 そう言って入ってきたのは――シモナさん。後ろからアウレアさんも入ってきます。


「どういうことだ?俺は呼んでいないぞ」

「え?ですが、マーレイン担当官が……」


 そこで何かに気付いたシモナさんは、振り返ってアウレアさんを指差しました。


「そういうこと!あなたがこの女に肩入れしているのね!?わざわざ閣下と補佐官のお二人が、こんな悪名高い女の対応をなさるなんて、おかしいと思ったのよ!補佐官の婚約者だからって職権を乱用して、この女のことをいいように報告したんでしょう!」


 なるほど、クレイゼア様はアウレアさんの婚約者だったのですね。先程焦っていらしたのも納得です。


「私は見たままをお伝えしたまでです」

「嘘よ!そうでないなら、どうして私がこの女の担当から外されて、雑務ばかりさせられているの!?それに、どうしてこの女への対応が厳しくなるどころか緩和されているのよ!」


 シモナさんはキンキンと耳障りな声でアウレアさんに喚き散らします。わたくし、こういう声はどうにも苦手なのですよね……。


 こんな時、味方につけるべきは――


「クレイゼア様。煩くて話が進みませんから、この方の口を塞いでいただけませんか?」

「……まぁ、そうだねぇ」

「えっ!?ちょっ……んぐっ!?」


 クレイゼア様は鮮やかな手さばきでシモナさんに膝をつかせ、そのまま口元を布で覆い、手足を縛り上げました。


 その布や紐はどこから……?と目をやると、腰に巻いていた帯状の飾りのようでした。なんと、そのような使い道があるのですね。


「僕の婚約者を侮辱されたっていうのもあるけど、確かに話が進まなさそうだからね」

「冷静さを失っている担当官の指導は、我々上司の務めだからな」


 閣下は頭が痛そうに眉間を揉んでいます。お疲れ様でございます。


「アウレアにお願いしていたのは、このこと?」

「そうですわ。すぐ種明かし出来ましたでしょう?」


 シモナさんは床でじたばたと暴れていますが、かなりしっかり結ばれていて解けないようです。流石、本職の方ですわね。


「どうしてレグリー担当官をここへ連れてきた?」

「閣下に確認していただくため、必要だと思ったからですわ。だって、わたくしはその手紙を書いておりませんもの。それにきっと、毒でも同封されていたのではないでしょうか?」

「「「「!?」」」」


 わたくしが肩を竦めると、その場にいた方々が息を呑みました。


「あくまで予想ですけれどね。話の流れはこうでしょうか?シモナさんに『前々からレニエラ・プラーシルは犯行を考えていたようです。その証拠を秘密裏に入手しました』とでも言われて、そちらの手紙を差し出されたのではないですか?」

「……君は、見ていたのか?」

「まさか。前にも言いましたけれど、わたくし、預言者ではありませんし、千里眼も持ち合わせておりませんわよ」


 わたくしは手紙を一瞥してから、床に這いつくばるシモナさんを見下ろしました。


「あなたは何も話さないでくださる?あなたに全てを種明かしされるだなんて興醒めですもの。わたくしは、きちんとした手順で閣下に知っていただきたいのに……。邪魔をなさらないで」


 キッと睨み付けると、シモナさんはそれ以上に憎々しげに目を歪めました。……あなた、ご自分が何をしたか分かっていらっしゃらないの?


「では、この手紙について説明してくれ」


 閣下から促され、わたくしは念のために再度伝えておくことにしました。


「あの、先程言った通り、そちらの出所は分かりますけれど、手紙の詳細は分かりませんわよ?」

「かまわん。君の知っていることを聞かせてくれたらいい」

 

 あぁ、よかった。全てを知っているように思われては困りますもの。こればかりはトールのおかげですから。こうなるだろうと思って、危険を冒してまで知らせに来てくれたのでしょう。


 ……それにしても、子猫もこんなことを仕出かすなんて。そうまでして死に向かいたいのでしょうか。


 わたくしはぎゅっとワンピースのスカートを握りしめ、顔を上げました。


「では、ご清聴くださいませ。子猫と桃と、そちらの手紙の真相について」





お読みくださり、ありがとうございます。


謎の令息トールとの面会により、疑いの目を向けられたレニエラ。

しかし、留置局局長らしい顔を見せるルドヴィークに対し、冷静に先手を打つ。


彼女の口から語られる、トールとの会話に秘められた真相とは?


来週もお楽しみに!


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