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人間界の龍

突如現れた巨大なオブジェ。

上にばかり注意が行っていたが、地面に紋様が書かれている。


「これは……?」


何となく、龍の紋章だと分かる。魔物が使う魔法陣ではない。

しかし、属性が特定できない。全属性の紋章は一通り見たし、その発展形も知っている。

それなのに、この紋章はそのどれにも当てはまらない。ただ、龍の紋章っぽさは分かる。


これは、考えるよりも感じる領域。

龍力者なら通じ合える、感覚優位のそれだ。


目の前の光景に呆気に取られていたが、我に帰るレイラ。


(マリナたちも、これを……?)


見た可能性は高い。

ただし、それだけなら、行方不明なのが説明できないのだが。


「と、とにかく、連絡を……」


この発見を、騎士団に伝える。そのために、通信珠を取り出したレイラだが、発信ができない。

正確には、通信していないときは何も光を発しない珠なのに、発行している。しかも、普段とは明らかに違う様相で。


普段であれば、自分と相手の龍力に反応して、属性に合った光がぼんやりと点灯。その後、消灯し、それらを繰り返す。

しかし、今は珠内に稲妻が駆けるように、線が走っている。それも、ランダムに。また、全体が光るタイミングもある。自分とは無関係な龍力色に。


(乱れている……?こんなの、初めて見ました……)


ただ事ではない状況に、レイラは唾を飲み、オブジェを見上げる。


「……なにか、ある……」


通信ができない状態になったのなら、音信不通も納得できる。

レイズたちは、恐らく全員このオブジェに辿り着いた。そして、何かが起こった。


ここまで予測がついたのなら、ある選択肢も浮かぶ。


(一旦退くべき……?)


このままでは、十中八九自分も同じ目に遭うだろう。それが分かっているのなら、無理に今深追いする必要はない。

一旦戻って、クラッツに報告して、大勢を整えてから……


そう頭では理解しつつも、身体が動かない。外的要因ではなく、内的なもの。

退くべきと考える一方で、退いてどうなる?とも思う。


(またとないチャンスなのでは……)


そう思う自分もいる。


なぜなら、このオブジェ、常に存在しているのだろうか?ということ。

龍力により存在が認知できないようになっているのなら、同じ道順で来たとして、再度発見できるかは分からない。

「ゆらぎ」を見せられ、この空間を隠されたら、二度目はない。


あとは、今自分は一人だが、二人以上でも同じ条件なのか?が気になる。

完全に準備した時に限って不発、なのは「あるある」だ。当然、その間の時間は戻らない。


このオブジェを見ているのは、自分だけ。

疑われることはないだろうが、上層部を動かせるだけの根拠がない。また、行方が分からなくなることがほぼ確定しているこの地へ、誰をサポーターとして指名すべきか。必要時間は計り知れない。


「ッ~~~~~~!」


とは言え、慎重さが勝った。レイラが少しだけ後退った瞬間。頭上を大きな影が支配した。


「!!」


飛行系の魔物か。

レイラは剣を抜き、強襲に備える。が、それは魔物ではなかった。


「え……?」


巨大な翼。首から尾までの細長い胴。牙と鬣が素晴らしい頭。

これは、ある種族と酷似している。そして、自分はその種族を知っている。


「ドラ、ゴン……?」


今を生きるドラゴン。龍界として人間界の外に出て行ったはずのドラゴンが、なぜここに?


色々考えたくなるが、何も頭が回らない。

そのドラゴンは、空を複数旋回し、オブジェの頂点に降り立った。

瞬間、大気に押されるような風圧がレイラを襲う。


「ッ……!!」


必至に腕で顔を庇い、耐えるレイラ。一瞬だったのに、エネルギーをかなり持っていかれた。


「はぁ……はぁ……」


肩で呼吸をしながら、ドラゴンを見上げるレイラ。


……間違いない。龍界で見たドラゴンとよく似ている。

このオブジェ、ドラゴンの巨体を支えられるほど頑丈でも強固でもなさそうに見えるのだが、ミリも動かず、そこに存在している。

オブジェとドラゴン。一気に神聖さが増した。


「…………」


そのドラゴンは、レイラを試すように見る。

敵意は感じない。圧こそ凄まじいが、取って食われるような恐怖はない。


「……神の領域に達し者よ」

「!!」


重低音が響く。

龍力を使っていない。当然、神龍サフィアルギエンの力も深層に眠ったまま。

それなのに、目の前のドラゴンは、レイラの力、その奥底まで見抜いた。


「……レイラと申します」

「レイラ」


ドラゴンが少し動くだけで、大気が震える。


「……ここは、『時』を司る場」

「時……」


紋章に目を落とす。

言われてみれば、紋章の隅に時計の文字盤のようなモノが見えなくもない。イメージ先行かもしれないが。


「……そう遠くない未来、大きな戦いが起きる」

「!!」

「全生物の命が散るだろう」

「な……!?」


国の危機は去った。そう思っていたが、そうではないらしい。

耀前、ドラゴンが嘘を言っているようには見えない。その理由もない。


「『純の力』を持つ者よ。使命を与える」

「使命……」

「『先』で、決着をつけよ。原因は、お前たち人間にある」

「!!」


戦いは人間が原因だと。そして、勝手に使命を与えられるレイラ。

恐らく、レイズたちも……「彼」が見せたかったのは、これ……?


「その、『先』……とは……!!」

「果たされてば、帰してやろう」


ドラゴンはこちらの問いには答えず、淡々と続ける。

使命を与えるのなら、キッチリコミュニケーションを取ってほしい所だ。


「通行料は、お前の……記憶だ」

「!!」


突然、地面の紋章から光の柱が出現する。

その中にいるのは、レイラとドラゴン。


「『未来』を、変えろ」


レイラの目が大きく見開かれる。その瞬間、当たりを光が支配した。

ふわ、と浮いた感覚を覚えた直後、レイラは気を失った。

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