発つ者と残る者
ヴグレが部屋を出ると、クワイツとイヨイが不安そうにこちらを見てきた。
「……凄い龍だったけど」
クワイツの指摘(?)に、ヴグレは彼を睨みつける。
「……壊さないようにね」
「ヴグレ……何を……」
その瞬間、ヴグレはイヨイの首を拳で押さえた。
「ッ……!?」
「……アメェ仕事してんじゃねぇぞ」
「ッ……!」
「俺がアイツを入れたのは、ジュアスへの切り札になりそうだったからだ」
本来の目的は、ジュアス及び五揮将の首を取ること。そして、このクソみたいな環境から解放されること。
「そのためには、アイツの力を引き出してやらないといけねぇ。チンタラしてる時間もねぇ」
「わ……って……!!」
「テメェがのんびりアイツと遊んでるから、いつまで経っても力が解放されねぇ」
「…………」
「俺の「殺意」ですぐ覚醒したぞ。遊ばせるためにテメェを付けた訳じゃねぇ」
同じ光龍。そして、歳の近い女性同士。最初は少しだけ気を遣ってやった。しかし、全くの成長が見られず、投資効率がクソほど悪かった。
結果論ではあるが、イヨイの能力の無さに呆れている。そして、「殺気」ですんなり力を解放する彼女にも。
ただ、殺気による解放は、無意識だと考えられる。先程の様子を見ていても、それは明らかだ。
普段のような遠慮がちな態度ではなく、凛としていた。それに加え、こちらを「敵」として見ていた。
多分、あれはアイツの光龍だ。宿主の身を守るための、強制的な意識の入れ替え。
(……だとすると、結局身にはなってねぇ、ってことか)
力の解放のトリガーは分かったが、意識が入れ替わっている以上、リエラの人格ではなく、記憶もない。
しかし、「身体が覚えている」という意味では、無駄って訳でもない。遅れを取り戻すためには、無理矢理が必要である。
他騎士団のチームがいつ戦闘を申し込んでくるか、分からないのだ。準備が整うのは早い方が良い。何なら、こちらから宣戦布告するくらいが丁度いい。
「ご……め……!!」
「ヴグレ、その辺に……時間もないだろ?」
「チィ……」
イヨイを解放するヴグレ。彼女はよろけ、咳込む。しかし、彼は気にしない。
「アイツに必要なのは、「師」ではなく、「死」だったようだ」
「ヴグレ……(何言ってんだ?コイツ……)」
言葉では、両方「し」なため、ピンと来ていないクワイツ。
「死に近付くほど、アイツの龍が暴れだす」
「……龍が宿主を守っているってこと?そんなバカな」
「現にそうだっただろうが。(今ので)2回目だ」
「そうだね。ま、とにかく、今は任務だ」
イヨイが落ち着いたのを見計らい、クワイツは話を切る。
そして、各々準備に取り掛かるのだった。
一方、その頃のリエラ。
全てが聞こえた訳ではないが、ヴグレとイヨイ間でトラブルが起こっているのは、ドアの向こう側からでも分かった。
(すみません……イヨイさん……)
優しくしてくれたのに、結果を出せず。仇で返してしまった。
とは言え、分からないことだらけ+感覚によることが多く、暗闇の中で探し物をするような感覚だから、仕方がないと言えばそうなのだが。
しかし、ヴグレにとって、それは関係ない。
(魔物と、戦う……生身で……?)
確かに、安全が保障されたヌルい教育と実戦では、実戦の方が経験値は稼げる。
しかし、土台が作れていない状態だ。死ぬリスクの方が高い。
(……彼は、それを狙っている)
正確には、戦死ではなく、死を感じること。それによる龍の解放を。100%内なる龍が助けてくれるとは限らないが、これで2回目で、確率は100%を維持している。可能性は非常に高い。
力ある教育者がいない以上、強引な手段を取らざるを得ない。彼らの事情的にも、のんびりできないのだ。
それに、殺しを止めたい。一刻も早く、彼らの首輪を外さなければ。
(お願いします。光龍……)
意識が入れ替わる度に感じる、内なる龍。
リエラはその漠然とした感覚を頼りに、龍魂のスキルアップを目指す。
彼らが帰還するまでに、多少なりとも結果が出ていないと、あの殺気を浴びることになる。
それは、精神的負荷が大きい。先に心が壊れてしまう。
かつての最強少女は、少しの龍力を扱うためにリスク高い野外に赴くのだった。




