威力偵察
ヴグレたちは、一週間を待たずして帰ってきた。
アジトのドアが開いたのは、夜。全ての用事を終え、記録を取っている時だった。
「……おかえりなさい」
任務の内容を知っている以上、明るい出迎えは不可能だった。
ただの形式上のもの。しかし、彼らはこれで収入を得ている。それと、平均以下の自由を。
「…………」
彼らの雰囲気を見る限り、目標は達成したようだ。しかし、表情は暗い。特に、クワイツとイヨイ。
ヴグレはもう慣れているのか、麻痺しているのか、行く前と変わらないように見えた。
「…………」
彼らは誰も何も言わず、荷物を片付けていく。雰囲気は、重く、暗い。
リエラは、息苦しさを感じている。
……人を消した後は、毎回「こう」なのだろうか。いくら任務で拒否権がなく、罪にも問われないとはいえ、殺人は殺人。慣れるものではないと思う。
と、一番に荷物が片付いたヴグレが口を開いた。
「おい」
「はい」
「力は出せるようになったんだろうな」
「「…………」」
そこで、クワイツもイヨイも動きを止め、視線だけをリエラに走らせた。
この一週間、言われたように「危険」や「死」に近付いた。
魔物との戦闘は、非常に厳しいものだったが、繰り返すうちに、戦いの場に身を置く懐かしさを覚えていた。
それでも、生身は生身。一瞬一瞬の判断が命取りになる。感覚を研ぎ澄まし、敵の動きを観察。龍力が引き出せない以上、この剣も剣以上の力は出すことができない。肉質も、手に残る感触も覚え込む。
攻撃を食らえば痛いし、相手と攻撃手段によっては死ぬほど痛い。血も出る。
だが、止めない。ここで退き返せば、あの殺気を食らうことになるし、最悪捨てられる。命奪われ、ボロ雑巾のように。それは、嫌だ。
そうして、戦闘を重ねていた。今となっては、どの戦闘かも覚えていない。
ふとした瞬間に、自我を保ったまま、龍力を発動できたのだ。短い間で、龍力レベルも低かったが、間違いなく自分の意思だった。
「……お望みのレベルには到達していませんが」
「ふん、やっとスタートラインか」
やっと。しかし、大きな一歩だ。
闇雲に鍛錬していただけで、結果が出ていなかった状況から一変した。
内なる龍。相棒との再会。
(再会……?)
リエラは疑問に思う。
なぜ、「再会した」と認識しているのだろうか。
内なる龍の力を引き出せただけで、その龍と会ったわけでもない。それなのに、「久しぶりに会えた」という感覚になっている。
(…………)
失われた記憶に関連している……きっと。否、絶対。
「片付けながら聞け」
「あぁ」
「近いうちに、他のヤツらと戦うことになる」
「また、か……」
ここで言う「他のヤツら」とは、他の騎士団、その飼い犬連中のこと。
クワイツの「またか」の呟きから察するに、初めてではない。実際、何回か戦わされたことある、と言っていたしな。
「それまでに体調を整えておけ。どの程度キメにくるか分からねぇ」
「分かった」
「それと、リエラ。お前も来い。だが、戦うな。陰で見物してろ」
「!」
「この戦いは、お互いの威力偵察の意味合いが強い。お互いの力量を見ながら、上がどう他の騎士団を落とすかを考えるものだ」
「では、ジュアスさ……ジュアスも、見に来られると?」
「あいつは来ないよ。映像珠ービデオスフィアーで見物さ。それと、龍力レベルで」
通信珠ーリンクスフィアーの映像付きバージョン。
音声だけでなく、映像も送受信可能。
映像と、戦闘時の龍力レベルで、お互いの力を見ているのか。
そして、戦力差を見極めていく。勝てそうなら、強気に出ることが可能。負けていたら、守りや強化に時間を割く必要がある。
表の仕事を見ながら、お互いを攻め落とそうとしている。
「他のヤツらとも、どうせ戦う。そっちは命に拘らねぇが、戦って負けるようじゃ話にならねぇ。問題なくぶっ飛ばせるだけの力が必要だ」
「……どんくらい差があるが、見といた方が良いよ」
「……そのようですね」
「日程は上が詰める。決まったら知らせる」
他騎士団の、同じような境遇の闇メンバー。
リエラにとっては、全てが重い戦いになる。しかし、自分の善でこの世の中を生きられないことは分かっている。
だから、剣を取る。龍力レベルを上げる。今日を生きるために。




