解放の鍵
リエラの龍魂が花開かないまま、数日が経過した。
不本意とは言え、ヴグレたちの拠点にお邪魔している身。流石に焦ってきた。
自分がそう感じているからか、特にヴグレは苛ついているようにも見える。
よって、益々信じられなくなる。本当に、自分がキラーベアの群れを一瞬で制圧したのか。
(……分からない。本当に、私が?)
ただ、あの瞬間、確かに「内なる何か」を感じたのも事実。
その「何か」が自分に宿る龍魂ードラゴン・ソウルーであり、光龍なのだろう。
それなのに、あの日以降、その力を引き出せる気がしない。
イヨイとの特訓で、戦闘訓練も追加された。よって、剣の扱いには慣れが出てきた。
手になじむ感覚も、今では分かる。期間は不明だが、相棒として、一緒に戦ってきた剣。
しかし、こと龍力に関しては、全くだ。「内なる何か」自体は、ふとした瞬間に感じることはある。しかし、それを「意識し、引き出す」となれば、話は別。
イヨイも教育は初めてのようで、探り探りである。それもあってか、寄り道を繰り返している気さえする。もっと効率のいい方法がありそうだが……
そんな中、ヴグレは拠点で集合をかけた。
「リエラを除く全員で、任務がある」
「ボクたち三人で?」
「……ってことは」
「あぁ」
何かを察したイヨイ。ヴグレは肯定し、写真を机の上に放った。
任務には参加しなくていいリエラ。だが、目に入る。
(この人は……?)
裕福そうな初老の男。有名な人なのだろうか。
有名人に疎いリエラはピンと来ない。
「こいつを、消す」
「!!」
ば、と顔を上げるリエラ。案の定、ヴグレと目が合う。
しかし、彼は淡々と続ける。
「こいつは、この町に住んでいる。そして、深夜に最も警備が手薄になる」
「……方法は?」
「いつも通り。自由だ。ただし、遺体は「外」で処理する」
「オーケー」
人一人の命を奪うのに、淡々と話が進んでいく。
クワイツもイヨイもそれを受け入れている。ただ一人、リエラだけが完全に取り残されている。
「……往復含めて一週間が目安だ。それ以上は「制裁」があると思え」
ヴグレが放った、制裁の言葉。
(制裁?)
クワイツもイヨイも、特に反応しない。
ということは、これも「いつも通り」の話なのか。
「期間自体は無理じゃない……けど」
「あぁ。何が起こるか分からない。最速で潜入し、ターゲットの動向を探る」
こうして、目の前で人が殺される話が決まってしまった。否、決定自体は、任務が下された時点で決まっている。
方法、日時、場所。勘単に、サクッと。
ヴグレは一度だけリエラを見て、二人に指示を出す。
「準備が出来次第出発する。急げ」
「あぁ」
「はーい」
慌ただしく部屋を出て行く二人。リエラはヴグレと二人きりになる。
「……これが、俺たちの仕事だ。拒否権はねぇ」
「…………」
「魔物の処理だけで済むと思ったか。前の話は、脅しじゃねぇ」
「…………」
「ゆくゆくはお前にも出てもらうぞ」
「……あの」
「話せ」
「この人は、何をしたんですか?」
殺される理由。それが許される(?)理由。それが、知りたい。
「知るか」
「え?」
「俺たちのターゲットになるようなヤツは、大抵ジュアスにとって邪魔なだけだ。そいつが正義だろうが、関係ない」
「そんな……」
「こんなクソみたいな仕事でも、やんねぇと俺たちの命がなくなる。ジュアスに飼われている限りは、な」
「…………」
「見たくねぇなら、俺たちが解放されるよう、力を扱えるようになりやがれ。そうすりゃ、未来の命は救われるだろうよ」
「…………」
煮え切らないリエラの態度に、ヴグレは苛立つ。
立ち上がり、机を叩く。
「いつまでも甘えてっと、地獄に落とすぜ」
その瞬間、闇龍の力が部屋いっぱいに充満した。
「!!」
「お前は秘密戦力だが、そうなれねぇなら損切りだ」
そう。自分は、生かされている。ヴグレの心ひとつで、命運は大きく動く。
それでも、リエラは納得できない。南方騎士団長が、簡単に人を消す判断を下すのか。
国に仇名す巨悪なのかもしれない。が、そうではないから、裏の組織であるヴグレたちを使う。
今の騎士団は、そんな組織なのか。
リエラの決まらない覚悟、態度に業を煮やし、彼は続ける。
「……今、損切ってもいいんだぜ」
「!!」
全身の毛が逆立つほどの殺気。イスが吹き飛ぶ勢いで、反射的に立つリエラ。ガチの殺気だ。本気で、殺しに来ている。
そして、いつの間にか抜いていた剣で、リエラに斬りかかった。完全に、首を狙って。
「ッ……!!」
丸腰のリエラ。咄嗟に腕が出るが、骨ごといかれそうな力。
龍力相手には、龍力を。その大原則が頭に浮かぶ。
その瞬間。
ヴグレの剣と、リエラの腕がぶつかった。
爆音を立て、部屋が軋む。
彼女の腕も首も飛ばず、代わりに腕が光り輝いていた。
「ほう……」
ヴグレの口角が、少しだけ上がる。
リエラは、光龍のオーラで、剣を止めたのだから。手は抜いていない。心のどこかで「惜しい」という気持ちはあったと思うが、龍力レベルにまで影響は出さなかった。
それなのに、止めた。
「…………」
ただ、表情はどこか虚ろ。抜けている表情ではあるが、先ほどまでの気弱な雰囲気ではない。
(入れ替わった。いや、キラーベア戦ほどじゃねぇ……)
ヴグレは龍力を解除する。すると、リエラの光も消え失せた。
その瞬間、気弱な彼女の表情に戻り、勢いよくイスに座った。
「はぁ、はぁ……」
「…………」
「はぁ、はぁ……今、何が……?」
剣とぶつかった腕を押さえ、手を見つめるリエラ。
(何か、掴んだか……?いや……)
ここで追及しても、何も明瞭な回答は得られないだろう。
今は、感覚の段階。それが当たり前に説明でき、同じ結果になるレベルにならなければ、自由自在とは言えない。
が、良い収穫だ。
「俺たちがいない間、魔物と戦え。文字通り、死ぬほどな」
「え……?」
「これは俺からの命令だ。俺たちに殺しを一つでもさせたくねぇなら、死ぬ気でやれ。ヌルい教育なんかよりも、即効性がありそうだ」
そう言って、ヴグレは部屋を出て行った。
残されたリエラは、ただただ茫然としている。
ただ、先程の内から湧き上がる力、それが流動している感覚だけは、腕付近に残っていた。
……懐かしさと共に。




