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ショートショート集  作者: 桜餅 詩音


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8/11

「声のプレゼント」

ほんの少しの時間を、この物語に預けてみてください。

あなたの心に何かが残れば嬉しいです。

矢田は母の遺品整理で、古いカセットテープを見つけた。

ラベルには「愛する息子へ」とだけ書かれている。

再生すると、母の声が流れた。「十歳の誕生日おめでとう。ママはね、いつかあなたが大人になった時…」

テープは四十本あった。すべて幼い矢田への誕生日メッセージだった。

母は矢田が十歳の時に亡くなっている。つまり、母は自分の死を予期して、未来の息子へ声を遺していたのだ。

矢田は毎年、誕生日にテープを聴いた。二十歳、三十歳、四十歳。母の声だけが、彼の成長を見守った。

そして今年、矢田は五十歳になった。

最後のテープを再生する。「五十歳のあなたへ。ママの声を聴くのも、これで最後ね」

母の声が少し震えた。「もう、ママがいなくても大丈夫よね。これからは…」

ここでテープが終わった。

矢田は何度も巻き戻した。だが、母の最後の言葉は永遠に聞こえなかった。

テープが切れていた。そこだけ、丁寧に切り取られていた。

別れは、いつも未完のままなのだ。

お読みいただき、ありがとうございました。

この物語が、皆さまの時間に少しでも寄り添えていたら嬉しいです。

よろしければ、次の話も楽しみにしていただけると幸いです。

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