「声のプレゼント」
ほんの少しの時間を、この物語に預けてみてください。
あなたの心に何かが残れば嬉しいです。
矢田は母の遺品整理で、古いカセットテープを見つけた。
ラベルには「愛する息子へ」とだけ書かれている。
再生すると、母の声が流れた。「十歳の誕生日おめでとう。ママはね、いつかあなたが大人になった時…」
テープは四十本あった。すべて幼い矢田への誕生日メッセージだった。
母は矢田が十歳の時に亡くなっている。つまり、母は自分の死を予期して、未来の息子へ声を遺していたのだ。
矢田は毎年、誕生日にテープを聴いた。二十歳、三十歳、四十歳。母の声だけが、彼の成長を見守った。
そして今年、矢田は五十歳になった。
最後のテープを再生する。「五十歳のあなたへ。ママの声を聴くのも、これで最後ね」
母の声が少し震えた。「もう、ママがいなくても大丈夫よね。これからは…」
ここでテープが終わった。
矢田は何度も巻き戻した。だが、母の最後の言葉は永遠に聞こえなかった。
テープが切れていた。そこだけ、丁寧に切り取られていた。
別れは、いつも未完のままなのだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
この物語が、皆さまの時間に少しでも寄り添えていたら嬉しいです。
よろしければ、次の話も楽しみにしていただけると幸いです。




