「理想的な家族」
ほんの少しの時間を、この物語に預けてみてください。
あなたの心に何かが残れば嬉しいです。
矢田は独身だった。だが最近、妻と子供がいる記憶が頭に浮かぶ。
おかしい。結婚した覚えはない。
ある日、帰宅すると玄関に見知らぬ女性が立っていた。「おかえりなさい、あなた」
矢田は混乱した。「誰ですか?」
女性は悲しそうに微笑んだ。「また忘れたの?私、あなたの妻よ」
リビングには小学生の娘がいる。「パパ、おかえり!」
写真立てには、確かに三人の家族写真が並んでいる。
医師に相談すると、「解離性障害かもしれません」と言われた。
数日後、矢田は受け入れることにした。彼女たちは優しく、理想的な家族だった。
だが、ふと気づいた。妻も娘も、一度も家の外に出ない。
試しに外出を誘うと、二人は首を横に振った。「私たち、外には出られないの」
「どういうことだ?」
娘が小さな声で言った。「だって、パパの記憶の中にしかいないもん」
矢田が振り返ると、二人の体が透けていた。
「寂しかったんでしょ?だから私たち、生まれたの」
矢田の手から、精神科の診断書が落ちた。
"重度の孤独妄想症"
お読みいただき、ありがとうございました。
この物語が、皆さまの時間に少しでも寄り添えていたら嬉しいです。
よろしければ、次の話も楽しみにしていただけると幸いです。




