「理想の顔」
ほんの少しの時間を、この物語に預けてみてください。
あなたの心に何かが残れば嬉しいです。
矢田は容姿にコンプレックスがあった。
ある日、「一日で理想の顔になれる」という美容外科の広告を見つけた。
手術は驚くほど簡単だった。眠って、起きたら終わっていた。
鏡を見て、矢田は息を呑んだ。完璧だ。まさに理想の顔。
街を歩くと、みんなが振り返る。モテるようになった。仕事もうまくいった。
半年後、矢田はカフェで雑誌を読んでいた。
隣のテーブルに座った男性が、ふと顔を上げた。
矢田と目が合った。
男性の顔は、矢田と全く同じだった。
「あ…」男性も驚いている。
矢田は慌てて店を出た。だが、駅で、スーパーで、公園で、次々と「同じ顔」に出会った。
震えながらクリニックに戻ると、受付嬢が微笑んだ。
「ああ、気づかれましたか。当院の『理想の顔』は一種類だけなんです」
「なぜそんな…」
「だって、人間の理想って、みんな同じでしょう?」
矢田が鏡を見ると、そこには数え切れないほどの「自分」が映っていた。
クリニックの待合室は、全員が同じ顔だった。
お読みいただき、ありがとうございました。
この物語が、皆さまの時間に少しでも寄り添えていたら嬉しいです。
よろしければ、次の話も楽しみにしていただけると幸いです。




