第75話:アンダーズとは
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アンダーズ。
それは皇家直属の騎士として名誉ある称号である。
他の騎士たちとは一線を画す、軍を取りまとめる皇国軍における将軍級の名誉と讃えて相違ない。
しかしその一方で、彼らは権力を持たない。
どれだけ称賛を受けようが、彼らは軍を持つどころか仕える兵士は一人もいない。
皇主が亡くなってから元老によって創設されたアンダーズは、実質扱いづらい騎士たちの溜まり場となっている。
そんな彼らへの扱いは露骨に悪く、皇家の騎士であるにもかかわらず、本来アンダーズより位の低い元老派閥の貴族達の使いっ走りに留まっている。
現に、今作戦においても大雑把な作戦を作戦会議と銘打った会議室にて適当に伝えられ辺境にまで遣わされている。
それを疎ましく思う者はそう少なくない。
ディクソンはルミに素っ気なくあしらわれたその足で、誰も居なくなった司令部の天幕へ入り込んでいた。
薄暗い司令部天幕のなかは、魔導火の青白い光が中央の頑丈な木卓を照らし出している。
その上に広げられたのは、羊皮紙に描かれたここら一帯の地形。
ディクソンはとある疑問の解消をすべく急ぎ目を走らせる。
おかしい。
ディクソンとて貴族の家柄である。
どの貴族がどの程度の影響力を有していて、どれほど戦力や資源に恵まれているかは理解している。
そんなディクソンは当然の事ながら、危険種などの脅威がどの地域に多く生息しているかも熟知している。
しかし、ディクソンが知る限りここら一帯の樹海に危険種がいるという話は聞いたことがない。
仮にこの樹海を抜けたとしても、ここより先は皇国人の生活圏内から大きく外れている。
そんな辺鄙な場所にわざわざ兵を派遣する意味などなかった。
それに加え、ディクソンが疑問を抱いたポイントはもう一つあった。
それは、あまりに革命軍討伐隊と危険種討伐隊のメンバーが不釣り合いであるということだった。
危険種討伐隊のメンバーは、三人。
いずれも実力者には違いないが、革命軍討伐隊のメンバー三十人と比べればあまりに人数比率は妙であった。
「さてと、ここからが推理の時間だな。危険種討伐隊の人数が明らかに少ないにもかかわらず、そっちを大々的に公表したっていうのは、皇女様の手柄を削ぐためか。確か、革命軍討伐隊の方は皇女様が組織したはずだからな。だが、革命軍討伐隊の方に人員が割かれている以上、本命はそっちとして見たほうがいいな。つまり俺たちは利用されたって訳か。それにしても、なぜあそこまで情報統制をする必要があった?世論操作なら危険種討伐隊と銘打った時点で既に完了している。なぜあんな土壇場まで秘密裏にした?危険種討伐を事前に公表する意味が――革命軍か!」
(革命軍は確か、危険種保護をしているって噂があった。あれは革命軍の初動を遅らせる狙いか。
だが、そもそもなんで革命軍は危険種を保護する必要がある?)
「おい!誰かいるのか!」
ディクソンは急ぎ声の方向とは真逆に天幕から出た。
その後、スタリッシュ格好をした女性が天幕に入り、散見される情報の数々を的確に見抜き一通り目を通す。
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クラウン達は、散開した位置に戻って来ていた。
「で、なんか情報掴めた?」
スイレンは浮かない顔で質問した。
おそらくは、彼女自身は何もつかめなかったなだろう。
「いいえ、僕の方は駄目でした」
クラウンが簡単に報告を終えると、続いてミロットへと二人の視線が動いた。
「目的地は何となく分かったよ」
自ら率先して最も危ない敵方の本丸まで出向き、悟られるず情報を盗み出す。
その腕前と度胸は、流石の一言である。
しかし、有力な情報を得たというのにミロットの表情はやや固い。
「皆も分かっていると思うけど、敵の人数が思ったより多い。それに、明らかに狙いは私達だと思う。今回の土地神討伐だけど、私らが出遅れた理由としてこちら側がここら一帯を支配している土地神の存在を知らなかった事が大きい。最悪、このメンバーで敵をすべて相手する事になると思う」
ミロットの眼差しは本気だった。
いつも戯けている彼女から伝わる熱の籠もった言葉に、クラウンは仰け反りそうになる。
クラウンは生唾を呑み込み、軽く息を吐く。
確かにその通りだ。
ここまで来て、他の革命軍の影も形も確認できない以上ここにいるメンバーだけで対峙することになるだろう。
幾ら土地神が強いと言っても彼らは自分達の命を最優先に行動する。
自らの死が数多の生物の死を招く事を理解しているからだ。
「最終確認をとる。死ぬ覚悟は?」
手に力が入らない。
自分より高みに立つものから忠告は、自分が確信している時よりも重く、何よりも怖かった。
「ここで死ねとは言わない。怖いならここで帰っても全然構わない。全滅して、情報を持ち帰れない事が一番まずいからね」
沈黙が流れた。
その時間は僅か時間にして三秒かそこらだっただろう。
だが、その僅かな時間がクラウンないには何十秒に感じられるほどであった。
そんなクラウン達の顔を見て悟ったのだろう。
「そう。二人とも帰っていいよ。私一人でやる」
「待ってください。それは――」
クラウンの声音はあまりに弱々しいものであった。
自分でも驚くほどに、恐怖に侵食されていたのだ。
「クラウン。ダメだ。おそらく、いや、間違いなく僕たちの実力では死ぬ。まだ、ミロット一人のほうが」
わかっている。
いや、わかっていたはずだ!
今作戦は今までとはわけが違う。
ターゲットを始末さえすれば撤退できる今までとは違い、敵として正面衝突が予想される。
それも、武を極めた者と正面衝突であることは。
今更命惜しさに逃げ帰るのか?
だが、無謀と勇敢は違う。
この言葉の意味を知っているからこそ、ミロットはここで選択肢を委ねたはずだ。
何をすれば、何をすれば僕は――
クラウンは答えの出ない迷路へ誘われたその時、頭痛が襲った。
電流が流れたかのような痛みとともに、とある光景が頭へと流れ込む。
間違いない未来視だ。
その光景は以前見た時より鮮明であった。
アンダーズと討伐隊に囲まれた土地神とおもしき巨獣が不意を突かれ、斬り伏せられるその時ミロットが盾になり致命傷を負ったミロットにルミがトドメを刺す光景。
ダメだ。
このままミロット一人で行かせれば、ミロットが死んでしまう。
「ダメです!」
クラウンは、未来視を拒絶するように声を上げた。
「ダメって、話聞いてなかったの?僕たちがいたら邪魔何だって――」
呆れ気味に答えるスイレンに、被せるようにクラウンは真っすぐに言い放つ。
「今、未来が見えました。もしミロットさんを一人で行かせれば、ミロットは死にます!」
「……。」
「で、でも!それは、確定ってわけじゃないし、だいたい僕たちが言っても――」
スイレンは文末が近づくにつれ、声音は徐々に小さくなっていた。
おそらく彼女のプライドがそうさせたのだろう。
己の非力を理解してなお、自分の言葉でそれ以上紡ぐことを拒絶したのだ。
「そうかも知れません!でも、僕達が行かなければ間違いなくミロットさん死にます!僕は、ミロットさんが死ぬのがわかっていて一人で行かせるような真似はしたくありません!」
毅然と宣言していた。
頭より先に、未来視を見たことで魂が決断した。
「わかったよ。僕も行くよ。それでいいだろう?」
スイレンはクラウンの目をしばし見つめたあと、薄く笑って答えた。
「わかった。じゃあ、みんなで行こうか!」
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