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憧れの『英雄』に殺されかけた僕は、革命軍に拾われたので、生まれ持った『未来視』で偽りの聖域を壊し尽くす  作者: 日影 聖真


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第73話:土地神討伐阻止


 クラウンは頭痛に襲われた。

 ヒルラルド領の復興の目処が立った事により、ヴェーラ、シノンとともにアジトへと帰還してすぐの事だった。


 ロビーにて激しい頭痛とともにとある光景が流れ込んでくる。


 それは漠然としていて何をしているのかよくわからなかったが、皇国兵が土地神と思われる生物を襲っていた。


 わずか数秒の光景で何か掴めるわけもない。


 ただ、あれは間違いなく未来の光景であった。


 ほぼ確実に起こるであろう未来の出来事。


 しかし、クラウンはその光景を報告しようか迷っていた。


 漠然としすぎていたという事もあるが、最大の理由は、未来視の光景の中にルミが映っていた事だ。


 もしルミがいるとなれば、今回の任務から外されるかもしれないという予感が報告を躊躇させた。


 その時だった。


 扉がバン!と勢いよく開いた。


 クラウンが視線をやると、ミロットが慌てた様子で告げる。


「クラウン、今すぐみんなを集めて!」


 ミロットに促されるまま急ぎクラウンが皆を集める。


「皇国が土地神の討伐隊を編成した。しかも、かなりの精鋭。おまけに、私ら革命軍討伐隊も一緒に編成されていると思う」


 面々は作業を中断させられたり、眠っていた者もいた。


 そんな各メンバーを半ば強引に連れてきただけあって多少不満そうな顔つきだったが、ミロットの口振りも相まって皆の表情は引き締まった。


 それはクラウンとて同じ事だ。


 改めて真っすぐに告げられると、いかに自分が下らない事で悩んでいたかを思い知らされる。


 土地神という存在価値に比肩するほどの悩みではないとクラウンは反省する。


「で、なんでこんなに情報が入るのが遅れたんだ?」


 ヴェーラは極めて冷静に問いを投げた。


「それが、かなり秘密裏に進められていた計画らしくて、本部の密偵が出遅れたのも無理ない」


「でも、おかしいですね。なぜそこまで厳密に計画を立てていたのに、このタイミングでわかったんですか?」


 フレーネは不意に湧いた問いを投げかけ、自然とミロットへまた視線が集中する。


「実は、出発直前に大々的に危険種討伐隊を宣言したらしい」


 罠だ。


 この場にいた全員の頭に浮かんだ言葉だ。


 革命軍討伐隊も一緒に派遣されたと聞いた時から薄々感づいていたが、今のミロットの発言で確信へと変わった。


 おそらくこれは、皇国が革命軍に猶予を与えないための作戦である。


 革命軍が来ないならそれで良し、中途半端な者を寄越すようなら捕獲、あるいは始末するのが彼らの計画なのだろう。


「間違いなく、罠だね」


 沈黙した空間に、スイレンが鋭く切り込んだ。


「どうするの?誰かここから派遣するの?それとも、どこかに任せる?」


 ロビー中央に置かれたテーブルに今作戦に参加しているであろうメンバーの資料が置かれている。


 アンダーズ ディアファン


 アンダーズ ストル


 アンダーズ ミラ


 皇女専属騎士 ルミ


 などなど。


 皇国に詳しくないクラウンですら名前を聞いた事があるメンバーが勢揃いし、生半可な勢力を送ってどうにかなるものではなかった。


「個人的にはまったく参加したくないイベントだが、さすがに今回は無視できねぇだろ。前回の土地神の時もとちっちまったし」


 ヴェーラの言葉にクラウンはチクリと胸が痛む。


「私は参加するよ。借りがあるし、なにより討伐じゃなくて護衛。土地神が逃げるまででいいんでしょ?簡単簡単」


 ミロットが明るく、毅然と宣言した。


 確かに革命軍内でも屈指の実力者である彼女が出るのが最適解である。


 しかし、皇国の狙いが、限られた時間内に革命軍の最高戦力を単身で向かわせることにあったのなら、我々はまんまと敵方の策に嵌った事になる。


 万が一にもここでミロットを失った日には、革命軍は大きな戦力を失う事にもなりかねない。


 それを理解しているかのように、ヴェーラはなにも言わず沈黙を貫いていた。


 ミロットに続き、力強くクラウンも声を上げる。


「僕も行きます!」


 声は思ったよりも大きく響いた。ロビーの視線が一斉にクラウンへ向く。握りしめた拳がわずかに震えているのが、自分でもわかった。


「言っとくけど、今までの任務とはだいぶ毛色が違うし、正直キミが行くだけ無駄だと思うけど」


 スイレンは淡々と告げた。


 事実であった。


 今までのこちらから好きな時間、好きな場所で暗殺を仕掛ける暗殺任務や、貴族護衛のようにある程度目星をつけて暗殺に特化してきた人間の戦闘とは違う。


 戦闘慣れした強者たちが明確に正義という大義をもって殺しに来る。


 クラウンとは経験値も能力も段違いの相手であった。


 反論しようと口を開きかけたが、言葉は出てこなかった。彼女の言う事は、悔しいほどに正しい。


「へぇー、クラウンの事心配してるんだぁ」


 ミロットがスイレンに近づき、煽る。


 その口元には、悪戯を思いついた子供のような笑みが浮かんでいた。


「はぁ?そんなんじゃないから!ただ、足手まといがいたら迷惑だから言ってるだけだし!」


 スイレンは顔をそむけ、早口でまくし立てた。髪の隙間からのぞく耳が、わずかに赤い。


「本当?」


 ミロットが横から覗き込むように顔を近づける。


「本当だから!」


 スイレンはぷいとそっぽを向いた。


 そのやり取りを遮るように、クラウンは一歩前へ出た。


「それでも!それでも僕は行きます!土地神様が死ねば大地が荒廃すると知っていて黙って待っている事はできません!それに、いつかは戦わなければならない相手です!いつまでもビビっていたら負けはなくても勝利もありませんから!」


 言い切ると、ロビーに静寂が落ちた。肩で息をしながら、クラウンは視線を逸らさなかった。


 ヴェーラは腕を組んだまま、じっとクラウンを見据えている。止めるでもなく、認めるでもない。ただその視線が、言葉の重さを量っているようだった。


 ミロットだけが、満足そうに小さく頷いた。


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