第72話:アンダーズ
ヒルラルド領へ戻ったクラウン達は、ヴェーラへ報告書を渡す。
ヴェーラは棒付きキャンディーを咥えたまま、片手で紙面をめくっていく。
「へぇ、モルドールの爺のところに討伐隊を派遣ね。それで問題ねぇから帰ってきたと」
視線だけが紙面からクラウンへと移る。
その視線は、クラウンの心中を見通しているかのようにクラウンを捉える。
クラウンはヴェーラに促されるまま何かを言おうと口を開きかけたが、口を結び一旦呑み込んだ。
次の瞬間ようやく決心したように一度息を吸い、声を絞り出す。
「……その討伐隊の中に、僕の幼馴染がいました」
ヴェーラはキャンディーを口の中で一瞬噛み砕いたようにガリッと音を立て、何も言わずクラウンへと視線を向け続けていた。
「でも、どうしてルミが」
「さぁな。その件は別の奴に調べさせるとして、それで、お前はその幼馴染と対峙した時斬れるのか?」
「それは――」
言葉が喉の奥でつかえた。
クラウンが視線を落とすと、ヴェーラは報告書を懐へしまい、キャンディーの棒をくるりと回す。
「わかっていると思うが、私らは正義の守護者でも理想家でもねぇ。敵対するなら、時には身内や子供だって斬り伏せなきゃいけないこともある」
「わかってます……」
絞り出すような声だった。
握りしめた拳の中で、掌にじわりと汗が滲んでいた。
「ま、意思まではこっちじゃどうしようもねぇからな。好きにしな。ただ、使えねぇと思ったら本部送りだからな」
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皇城の会議室にて、革命軍討伐隊と危険種討伐隊の合同会議に参加すべく既に三人の騎士が集められていた。
長テーブルがそれぞれ連結され、丁度コの字型に配置されていた。
入り口側は討伐隊の面々が座ると聞かされている故、全員が入り口側の壁を正面に捉えて席についていた。
「ハァ~ア。何でナンバーズや将軍じゃなくて、俺たちが危険種を殺しに行かなきゃいけないのかねぇ」
入り口を入ってすぐ右側にある壁を正面とした、一番右手前側に座る男がテーブルにうつ伏せになりながら悪態をついた。
男の名前はディクソン・アンダーソン
皇家の騎士の中で、ナンバーズに次ぐアンダーズに選出された実力者である。
しかし、アンダーズはナンバーズとは違い多少曰く付きであった。
彼らは実力こそあるものの、皇国騎士団に弾き出された変わり者としての一面もあるからである。
ディクソンはカチカチと鳴る針時計へ視線をやり、既に会議室にて四十分以上待たされている現状に痺れを切らしていた。
「確定じゃないからでしょ?」
ディクソンの位置から微妙に距離をとり、着席する女が投げやりに応えた。
彼女の名前はミラ・レイバース。
黒髪短髪のボーイッシュな彼女は、極度の男嫌いとしても有名であった。
フォルラ隊のメンバーであり、その中の幹部しか入れないフォルラックスのメンバーでもある。
「はぁ、ただでさえ合同ってだけで揉めるのに、革命軍討伐隊には皇女様専属の騎士様までついているって話だしなぁ。何だかんだで気を遣いそうだ」
「そんなに気を遣うのが嫌なら、アンタも皇女様専属になればいいじゃん」
「なるわけないだろう。旧皇主派ってだけでみんな肩身が狭い思いしてるのに、専属になったらいよいよだろうよ」
ディクソンは辺境伯の嫡男である。
地方出身のミラより皇宮内のいざこざには理解があった。
その彼からすれば、火種となりかねない事からはなるべく関わりたくなかった。
「にしても、たかだか危険種一匹のためにアンダーズを三人も派遣するなんてな……。上も何考えてんだか。何匹か危険種と戦ったことはあるが、ナンバーズや俺達が出向くほどの敵には見えなかったがな。ストルは何か聞いてないのか?」
「僕はなにも……」
ミラのさらに奥に佇む水色の髪をした男は、ディクソンからの問いかけにビクリと反応したかと思えば目を泳がせボソボソと返答し、続けた。
「でも、フォルラさんも危険種この前倒したみたいだから、僕たちが倒せばフォルラさんから褒められるかも……」
文末が近づくにつれて声音が小さくなる。
そんな彼にいち早く反応したのがミラであった。
「ストル!お前まだフォルラックスに入るつもりじゃねぇだろうな!フォルラックスは、女しか入れねぇの!男のお前がどんなに熱望してもな!」
「そんなんじゃ……」
席を立ち、男嫌いの彼女が自らストルへ詰める様はフォルラへの敬意を感じる。
しかし、ディクソンが騎士になってから以降ちょくちょくミラが言うとおりフォルラ隊は女子しか入れないとは噂程度には聞いたことはあったが、彼女からそのような言葉を聞いた者はいないという。
よくある部下の暴走か?とディクソンは少し呆れ、フォローを入れる。
「相変わらずフォルラ隊の連中はフォルラさん大好きだな。俺も美人だから好きだけど」
ストルへ向けられた視線は熱を帯びたままディクソンへ移った。
あっ!
そう感じた時には時既に遅く、間合いにズカズカ入られ人差し指を向けられながら彼女は口を開く。
「アンタ、次フォルラ姉さん口説いたら、金玉引き抜くからな!」
以前のトラウマがフラッシュバックする。
あれはディクソンがアンダーズに選出されて間もない頃、噂でしか聞いたことのない英傑達に僅かながら近づいたという自尊心が肥大化し、ノリでたまたま見かけたフォルラを口説いた事があった。
その時知った。
女とは恐ろしいもので、顔と器量がいいというだけで寄ってくる女は、自分の家柄しか見ていない女達だけだということを。
今でもたまに夢に見る。
フォルラに連れられ、新兵達の前で大手を振って名乗りを上げた僅か数分後にボロ雑巾の様にボコボコにされ、最後にはフォルラックスの面々に……。
ディクソンは悍ましい記憶に震え、そこから先の記憶をたどるのを放棄した。
「わかってる。わかってるって。もうあんな事しないって、あとが怖いからな」
「まったく、これだから男は。ま、それはさておき、なんで危険種を倒すのに革命軍討伐隊が出張ってくるんだろうな?革命軍と危険種って何か関係あるのかな?」
ディクソンは肩をすくめた。
「さぁな。それもお偉いさんしか知らないってことだろうな」
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