第63話:小休憩
アクイ研究所からアジトへ向かう道中、一行は小休憩を取ることにした。
山の麓にポツンと立った、今にも朽ち果てそうな小さな小屋。かつては猟師の休憩所か何かだったのだろう、埃を被った内装からは長い間人の出入りがなかったことが窺えた。
その片隅に座り込んだカミラとシノンは、勢いよく頭を下げた。
「ホントに、すみませんでした!」
「あの、ホントにいいですから」
あまりの勢いに、クラウンは思わずそう返す。
「いやぁ~、改めて振り返ると本当に申し訳なくて。本部と合同なんて格好つけて言ったものの、本部組のうち二人が内通者だったわけで。残った私も結局捕まっちゃって、ホント、足しか引っ張ってないっすね。この借りは必ず」
カミラは苦笑いを浮かべながら、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「それより、これからどうするんですかカミラさん達は」
「そうっすね。私は報告とか本部にしなきゃなので戻りますけど……。」
カミラは途中で言葉を切りシノンへ視線を向ける。
「僕も戻ります。おそらく処刑されることになると思いますけど、それだけのことをしたので。自分の運命を受け入れます」
知っていた。
短い付き合いながらも、シノンという人間がどういう選択をとる人間であるのかを。
以前ヴェーラが言っていたことが真実であるならば、シノンに言い渡される処分は処刑しかない。
脅されていたとはいえ、クラウンが聞いた限り革命軍が受けた被害は甚大といえた。
一歩間違えればアッシュ・ドッグズの面々も命を落としてもおかしくなかった。
しかし、ここでシノンを手討ちにするのが革命軍のひいてはこの国のためになるのだろうか?
クラウンは一瞬こそ口籠らせたが、漏れ出た言葉に反応した面々がこちらへ顔を向けた事で覚悟を決めて口を開いた。
「あのっ!シノンをアッシュ・ドッグズへ入れるというのはどうでしょう!」
静寂というにはあまりに空虚な時間が流れた。
わかっていた。
自分があまりに非常識な事を言っていることは。
だが、ここでシノンを切り捨てる事がクラウンにはどうしてもできなかった。
「それはできない」
各面々がそれぞれ答えづらそうに口を噤ませる中、真っ直ぐにこちらを捉えてミロットが毅然と言い放つ。
言葉を返そうとするクラウンであったが言葉が出ない。
迷い、口籠らせ、恐る恐る提案したクラウンの主張と、組織全体を俯瞰したクレバーな組織人の言葉が同等のはずがなくそれ以上口を開くことを躊躇わせる。
「クラウン、私たちは組織の人間だ。個々の我が強くて私らは独立こそしたけど、それぞれの面子と立場があって私らはここに立っている。だから、一個人の感情でどうすることもできない。」
口調は驚くほど優しかった。
他人の痛みを知る者の、大人の気遣いを感じさせる。
おそらく彼女自身、どう伝えるべきか言葉遣いから口調まで相当吟味したのだろう。
だが、そこまでしてなお彼女が言い放った直接的な言い回しに彼女の覚悟を感じさせた。
「それでも――そう。もしそれでも、救いたいモノがあるのなら、君自身で具体案の立案と上を説得させるだけの見返りを提示しないとね。例えば、今回の功績と引き換えに、カミラを口説き落として、シノンを殉職扱いで処理してもらうとかね。そうすれば本部はシノンを裁けず、うちは人手不足も多少補える」
突き放すようでいて、道を完全に閉ざしはしない。
ミロットの言葉の端々には、そんな絶妙な匙加減の優しさが滲んでいた。
組織の理屈を盾にしながらも、その実クラウンの想いを汲み取り、進むべき道筋まで示してみせる。
頭ごなしに否定するのではなく、覚悟を試すようなその言い方に、クラウンは思わず息を呑んだ。
「ミロットは本当にクラウンに甘いよね?」
唇を突き出すように言い放ったスイレンの声色から、僅かに嫉妬心を感じた。
「本当に……いいんですか」
搾り出すようにそう尋ねるクラウンに、ミロットは薄く笑った。
「さあ、どうだろうね。できるかどうかは、後は少年次第だよ」
「はい!」
クラウンはカミラへ向き直ると、口火を切ったのはカミラの方であった。
「私は別に構わないっすよ。借りは返すって言ったじゃないですか」
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