第59話:疲れた
瞼の裏に感じる、ぼんやりとした光。
クラウンはゆっくりと目を開けた。
視界に映るのは、見覚えのない天井――いや、正確には見覚えがないわけではなかったが、先ほどまでクラウン達がいた通路とは違っていた。
頭の奥が鈍く痺れている。何が起きたのか、思考が追いつくまでに数秒を要した。
「気がついたか」
声のする方へ顔を向けると、ノッチが片膝を立てその上に腕を乗せた体勢で壁に背を預けて座り込んでいた。
「ノッチさん……ここは?」
「崩落のどさくさに紛れて、中央棟まで運んできた。壁が丁度いい具合に瓦解してくれたおかげでな」
軽い口調でそう言ってのけるが、その額には玉のような汗が浮かんでいた。
「シノンは?」
「お前より先に起きて、今はこの先の通路を見てきてもらっているところだ。」
クラウンは身体を起こそうとして、鈍い痛みに顔をしかめた。脇腹に受けた一撃の名残だろう。
「ノッチさんは、大丈夫なんですか?」
「あ?俺か?見ての通りピンピンしてるさ」
そう言って笑ってみせるノッチだったが、壁に預けた身体は微かに右側へ傾いていた。左腕は、さっきから一度も動かしていない。
あれだけの瓦礫を受けて、無事で済むはずがない。分かっているはずなのに、クラウンは何かを言いかけて、やめた。
問い詰めたところで、素直に答える男でないことは、もう分かっていた。それに、もし今ここで弱音を吐かれたら――自分の方が、崩れてしまいそうな気がした。
「クラウンさん!起きていたんですね、よかったです。」
駆け足でこちらへ駆け寄って来たシノンが笑顔でそう言い放つ。
「それでどうだった?この先は」
「それが、ノッチさんがおっしゃっていた構造とは多少違っていて」
「そうか。なら、急いだ方が良さそうだな」
ノッチはそう言うと、傾いていたはずの身体を何事もなかったかのように起こし、立ち上がった。
顔をしかめることもなければ、左腕を庇う素振りも見せない。まるで、先程までの痛みなど最初から存在しなかったかのようだった。
「それでこれからどうしましょうか?」
「ストックルームは地下だ。まずは下に降りる階段でも探すか。」
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