第53:尻拭い
肉を切り裂き骨を断つ、血潮を浴び、鉄の匂いが鼻を突く。
かつて自分が憧れ、そして心の底から憎み、嫌悪した女が故郷で繰り広げた惨劇と同じ行為を今度は自分が行っている。
しかし、感情は動かない。
怒りすら越え、死への恐怖は完全に感じられなかった。
クラウンがこの場に集まった半数以上を葬ったところで、スイレン、ノッチ、シノンがこの場に辿り着き、クラウンの第二の戦場を目撃した。
戦場は地獄絵図だった。
逃げ惑う移民たちを容赦なく今もなお斬り伏せ続けるこの一帯は、移民たちの臓物と血が混ざり合い、見るに堪えない壮絶なものであった。
「クラウンさん……!」
シノンの声が震えた。
だが、クラウンの手は止まらない。
瞳に映るのは、次に首を刎ねるべき対象だけだ。
ノッチはただ、その光景を無言で見つめていた。
「――クラウン、止まりなよ」
スイレンがクラウンの背後に回り込み、剣を握る腕を強引に掴んだ。
それでも尚、クラウンはもう片方の手で次の獲物へと切っ先を向けようとする。
「――随分と派手にやったもんだな」
その一声で、クラウンの動きがぴたりと止まった。
群衆をかき分けて現れたのは、あどけなさの残る顔立ちのヴェーラだった。
その眼差しは、地獄と化した村を一瞥しても揺らぐことはない。
「ヴェーラ……」
スイレンが小さく呟く。
ヴェーラはクラウンの前まで歩み寄ると、血に濡れたクラウンの顔をまじまじと見た。
「本部には、ヒドラルド領の掃討は完了したと報告しといてやる。理由は――そうだな、反乱分子の鎮圧ってことにしといてやろう」
「……なぜ、庇うんですか」
クラウンの問いに、ヴェーラは面倒くさそうに村の惨状を見渡した。
「庇ってるわけじゃねぇよ。利用してるだけだ」
「利用……?」
「この領は主を失って統治機構ごと崩壊した。おまけに目障りだった移民の反乱分子も一掃されたときてる。……願ってもない手土産じゃねぇか」
ヴェーラの口の端が、微かに歪んだ。
「これを丸ごと本部に献上してやる。ヒドラルドの平定を私らアッシュ・ドッグズの手柄として持ち帰りゃ、本部への貸しになる」
「……貸し、ですか」
「そうだ。本部が押し付けてくる面倒な依頼も、少しは融通が利くようになるだろうよ。それに――お前が独断でやらかしたこの件も、成果として塗り潰しちまえば、上に目をつけられずに済む」
ヴェーラはそう言うと、クラウンの肩を軽く小突いた。
「生き残った領民には、いずれ然るべき説明をしてやる。お前が手を汚した意味は、無駄にはさせねぇよ」
その言葉が慰めなのか、それとも単なる打算なのか、クラウンには判断がつかなかった。
ただ、ヴェーラの瞳の奥に一瞬だけ覗いた昏い光だけは、はっきりと見えた気がした。
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