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憧れの『英雄』に殺されかけた僕は、革命軍に拾われたので、生まれ持った『未来視』で偽りの聖域を壊し尽くす  作者: 日影 聖真


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第47話:領主の覚悟


 木々に囲まれた城館まで、クラウン達は驚くほどあっさりと侵入に成功していた。

 かつての栄光を示すように城館らしく広く立派なものであったが、内装はひどく簡素なものであった。

 シンプルと言えば聞こえはいいが、その実外装と比べてしまえば貧相であった。

 まるでお金がない貧乏貴族が見栄を張るだけ張った張りぼてのお城のようである。


 現にクラウン達が正面突破を図ったというのに敵はおろか、メイドの一人も出会ってすらいない。

 罠であろうか?そう勘ぐってしまうほどである。

 フレーネは周囲を見渡し、花瓶が置かれたテーブルを嫌味な姑が如く手ですっとなぞる。

 しかし、彼女の手には埃はおろかゴミすら付着しなかった。

 

「貴様たち何をしている!」


 兵士とようやく鉢合わせすると、クラウン、フレーネ、スイレン、ローブの女は戦闘態勢に入る。


―――



けがれた移民が!我が祖国を踏み荒らしよって!」  


 美しく磨かれたガラスの向こうを睨みつけ、白髪に真っ白の髭を蓄えた老齢の男は血反吐でも吐き出すかのように吐き捨てた。

 彼こそがこの地、ヒドラルド領を預かるバッシュバルト家の当主、ミザギである。

 彼が治めるヒドラルド領は、建国以来、国内でも有数の銘醸地めいじょうちとして名を馳せていた。だが、それもほんの数年前までのことだ。


 国が進めた性急な移民政策により、無理やり受け入れさせられた移民たちに繊細な葡萄畑の管理などできるはずもなく、彼らは次第に地元民の畑を荒らしては奪う、一種の盗賊団へと成り果てていった。

 そんな歪んだ生活が三十年も続き、数年前、ついにヒドラルド領は完全に崩壊した。


 領主であるミザギは、これまで領民から徴収していた税をすべて彼らへ返納し、他国や他領へ移り住むことを提案した。その結果、ほとんどの者が住み慣れたこの地をあとにした。

 政府の推進した移民政策に従った。ただそれだけの理由で、地位も、名誉も、すべてを失った。

 今の彼の周りに残っているのは、給金すらろくに支払えていないというのに、なおも居残り続ける偏屈な「変わり者」だけだった。


「領主様!侵入者です!どうかお逃げを!」


 悲痛な大声を上げながら、一人の兵士が勢いよく扉を開け放った。


「そうか」


 ミザギの返答は、驚くほど静かだった。


「今すぐ迎撃し、すべて始末いたしますか!? それとも、地下通路からお引き取りに――」


 領主はしばらく沈黙した。

 窓の外から視線を外し、ゆっくりと、しかしこれ以上ないほど力強く口を開く。


「お前たち――」


 久しぶりに耳にする主の重々しい声に、兵士の身体に緊張が走る。


「この国を離れろ。わし一人で相手をする」


「は?」


 兵士は間の抜けた声を上げ、数秒の間、領主の言葉を理解できずに硬直した。

 この期に及んで何を言っているのか、と。

 給金が出なくなってもこの城館に残ったのは、彼らが「変わり者」だからではない。この実直で不器用な領主、ミザギという男に大恩があり、最期まで命を預けると誓ったからだ。


「何を、仰るのですか!敵はすでにそこまで迫っているのですよ!?我らバッシュバルトの兵が、主一人を残して敵前逃亡など――」


「逃亡ではない。命令だ」


 ミザギは振り返り、鋭い眼光で兵士を射抜いた。その佇まいは、領地を失い、財を失ってもなお、一国の貴族としての威厳をいささかも失っていない。


「わしはこの土地と、バッシュバルトの名と共にここで果てる。だがお前たちにはまだ先がある。こんな、国に見捨てられた老いぼれの道連れになる必要はない。……今までよく仕えてくれた。もう十分だ。行きなさい」


「――っ」


 兵士の顔が悔しさに歪み、拳が血がにじむほど強く握りしめられる。

 その時、廊下の奥から爆発音と、激しい金属音が響いてきた。クラウンたちが兵士を蹴散らし、この部屋へと確実に近づいている音だ。

 残された時間は、もう数分もない。








お読み頂き、ありがとうございます。



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