第44話:モラルと倫理観
腸が煮えくり返るほど怒りが湧き上がる。
自国が自国民の怠慢によって荒れるのなら多少なりとも許容しよう。
だが、目の前にいる移民によって侵され、踏みにじられ、崩壊するのは許容できるはずもない。
しかし、それ以上にクラウンを激怒させたのは、やはり王侯貴族たちであった。
自国が侵略され、侵されてなおなぜ動かない?
彼らには、人間としての尊厳はあるのだろうか?
「ヒューウ。」
口笛を鳴らす一団が目に止まった。
彼らは皇国人をみるなり値踏みするかのように視線を追う。
だが、クラウンがざっと見る限り女性はいなかった。
彼らは何を――クラウンが疑問に思った瞬間。
真っ昼間の大通りで正々堂々と皇国人を襲ったのだ。
「っ!?」
全身を黒いローブで覆い口元までしっかり隠した皇国人を囲うと、周囲の移民達も何やら興味津々に視線を向け、口笛を吹きながら盛大に盛り上がる。
「ヒューヒュー!女に100だ!」
「俺は男に200賭けるぜ!」
「何を……?」
何を言っているのかわからずクラウンは呆気にとられていた。
そんなクラウンとは対照的に、またか?とでも言いたげにフレーネは頭を抱えていた。
「フレーネさん、これは!?」
「見ておきなよ。これが今この国の現状だよ」
「出たな!他に賭けるやつはいねぇか!じゃあ、オープンだ!」
毎度恒例なのか、街の一角に設けられた台で仕切る男が声を張り上げると、囲んだ男たちが周囲の歓声と拍手にノリながら皇国人のフードと口元を覆った布を剥ぎ取った。
「さすがだぜニック!結果は女だぁ!男を選んだ奴らの取り分はないぜ!」
仕切り役がジャッジを下すと、周囲に歓声と落胆の空気が漂った。
まるで賭けでもしているかのような異様な空気感に包まれた後、何やら不穏な空気が瞬時に流れた。
感の悪いクラウンですら、あの女性が危ない。そう感じ取れるほど絶対的な悪意と下心が充満していた。
「何をしようとしているんですか!」
クラウンがすかさず女性の前に立ち、怒りを感じさせる声色で男達に言い放った。
クラウンの感は正しかった。
皇国人は男装や姿を偽らなければならないほど危険な生活を強いられていた。
移民はそんな皇国人を嘲笑うかのように姿を偽った皇国人を男か女かを賭け、当てたものは賭け金を全額寄付することでおこぼれを預かれるという非人道的なゲームを執り行っていたのだ。
「誰だ、お前」
「おっ!なかなかかわいい顔してるぞ!俺ならイケるわ!」
「ハッハッハ!守備範囲広いな!」
「貴方がたは、それでも本当に人間ですか!」
加害者特有のいじめを行う時に流れる完全アウェイな空気に、クラウンは心臓が跳ね上がるのを感じながら、怒りに促されて一喝し、周囲の空気を振り払った。
「――。」
一瞬、静寂に包まれた。
無の時間と呼んでいいほど、何も無い時間だった。
だが、それはほんの一瞬。
面を食らった移民達が一瞬怯んだだけで、時間の経過とともにニヤニヤとまたしても邪悪で陰湿な空気が漂う。
そして、その中の一人が待ってましたと言わんばかりに張り上げた。
「レイシストだ!」
誰かが張り上げた声に便乗し、周囲の移民達は一斉に立ち上がり盛大に声を張り上げ始めた。
「「「パリコ!パリコ!パリコ!!」」」
異国の言葉に何を言っているのか理解できなかったが、陰湿に漂った空気は敵意へと変化していた。
クラウンからすれば逆ギレであったが、モラルと倫理観が欠けている彼らからすればそれが日常であり正義であった。
「「「「パリコ!パリコ!!パリコ!!!パリコ!!!!」」」」
声は次第に大きく大合唱となり、声だけで圧倒される。
フォルラが纏う冷たく絶対的な恐怖とはまた違った、数の暴力による威圧的な恐怖がそこにはあった。
「っ!?」
手をこまねいているクラウン達の周囲を囲み、ゆっくりと近づく移民達。クラウンが剣を抜こうと柄に手をかけると――移民達の後ろから何かが投げつけられた。
「なんだコレ」
一人が反応すると、投石された何かから煙が噴射された。
その煙が周囲を包み込むと、クラウンは何者かに手を引かれ「行きますよ!」という声とともに姿を消した。
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