第45話:愚劣なる肥大
「ケホケホ。」
導かれるように手を引かれたクラウンとローブで全身を包んだ女性。
視界が晴れ、ようやく手をとった人物——フレーネと目が合う。
「ありがとうございます。助けていただいて」
「いえ、けしかけたのは私ですから気にしないでください」
「それで、あの……。」
クラウンは言葉に詰まった。フレーネが助け出した女性の前でこんな事を聞いていいのか迷ったからである。
「どうなっているのか。ですか?」
「え?まぁ、はい……。」
「見ての通り、領主から見捨てられた街の成れの果てですよ。」
「そうではなくて、領主だって困るじゃないですか。あんな、状況では……」
怒りに駆られついつい口調が強くなるが、語気は次第に弱くなる。
「先ほどもいいお伝えしましたが、それが困らないんですよ。領主は。」
「なぜですか!安い労働力だからですか!奴隷としてそれなりに価値があるからですか!仮にそうだったとしても!移民に街自体を荒らされたらそれこそ劣化するだけじゃないですか!繁栄なんて夢のまた夢ですよ!」
「そのとおりです。彼ら移民はモラルが低く、知能に欠け、共生という名の侵攻をしてきています。彼らのいうところの神様とやらの倫理観がない影響でしょう。ですが、領主は困らないんです。少なくとも、現時点の領主は。」
「どういうことですか?」
「領主に限った事ではありませんが、王侯貴族が見ているのは未来の自国の姿ではなく自分が治める治世に問題があるか否かなのです。つまりは、移民がどれだけ自国民を苦しめようが、差別しようが彼らには関係なく、ただ安い労働力として存在し、移民を受け入れた人数に応じ国から補助金が渡されさえしてしまえばいいのです。」
「そんな……。国が容認しているってことですか?自国民を差別されること自体を?」
「はい。それに加え、彼らの繁殖力を利用したとある貴族の思惑が絡んでいるのです。ブリッジダウン家当主、ディアファン。」
「っ!?」
国自ら招いた貧困化にも関わらず、自国民を差別するというとんでもない暴挙に頭が痛くなるクラウンに、更に追い打ちをかけるように聞き覚えのある名前が告げられた。
それも、忘れたくても忘れられない。初任務にして、クラウンがしくじった相手の名であった。
「彼が経営する娼館で移民を不法就労させているという報告も来ています。おそらく、各領主に移民を受け入れさせ、その上で移民を捕らえ大量に売り捌かせているのでしょう。自分の事業の拡大のためにこの国を崩壊させる。利権に取り憑かれた貴族は、愚劣さまでも肥大化させますね」
この国を蝕む巨悪を目の前にしてなお取り逃がした落胆と、言葉にし難い自己嫌悪に、改めて自分がとてつもない男を取り逃がした事をクラウンは理解させられた。
可能であるならば、償いと自身への怒りを兼ねてクラウンが腰にぶら下げるその刃で自身の心臓を貫いてしまいたかった。
しかし、その衝動に駆られ自身を痛めつけても何も変わらない。
クラウンは自分自身への戒めとして、唇を血が出るほど噛み締め失態をそれ以上の成果をもって償うのだと誓った。
「フレーネさん。革命軍は何らかの対応は考えておられるのですか?」
「対応と呼べるかどうか定かではありませんが、それに近いことは計画されています。領主が亡くなった場合、通常はその一族が世襲で受け継ぐことが多いのですが、この街の領主には幸いなことに子供がいません。そのため、領主が死ねばここは王直轄領となります。荒廃した土地の直轄領はたいてい放置されますが、他の領主や貴族たちは王直轄となった土地に容易に手を出すことができません。その隙に革命軍が密かにこの街の管理を引き継ぎ、革命の準備を進める。とは決まっていますが、誰がどう管理するのか、領主をいつ暗殺するのか、そういった具体的な部分はまだ決まっていません。上も怖いのでしょう。それだけの責任を負うのが。」
「……。」
「ですが、我々にはヴェーラさんがいます。きっと彼女が何かしらの対策を講じるでしょう」
「ヴェーラさん信用されているんですね。」
「ええ。この部隊はヴェーラさんがお作りになられましたし、彼女ほど皇国を憎み愛している方もなかなかいませんから」
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