第43話:入れてはいけない者たち
覚めやらぬ意識の中、クラウンは光に促されるように目を覚ました。
身体を起こし、完全に意識が覚醒しきっていない状況の中周囲をぐるりと見渡す。
そこはとある部屋の一室。
調度品はほとんどなく、クラウンが寝かされていたベッドに灯り、タンスが一つある程度だった。
身体を軽く動かすと節々が痛み、疲労感に襲われた。
身体中に巻かれた包帯が痛々しく残っていたが、見た目ほど重傷ではないようだった。
自分の状態を確認し終えると、ちょうど意識がハッキリと覚醒し、自分のこれまでの顛末を思い出す。
「みんなは!」
急いで立ち上がると、節々から痛みが走りその場で無様にも倒れ込む。
そのドタっ!という音に反応してだろうか。
こちらへ向かってくる足音がすると、ゆっくりと扉が開いた。
「クラウンさん。ゆっくり寝ててください」
扉が開きご対面した女性はツンとした顔立ちに覇気のない表情をしていた。
偶然にもクラウンは彼女に見覚えがあった。
彼女の名前はフレーネ。
革命軍のメンバーだった。
「フレーネさん!何でこんなところに?皆さんは?」
「さぁ?皆さんというのが誰の事を指しているのかわかりませんが、泉に打ち上がっていたのはクラウンさんだけでしたよ。」
「そうですか……。」
浮かない顔を浮かべたクラウンを気遣ってなのかそうではないのか、フレーネは静かに口を開いた。
「クラウンさんの任務に携わっていない私にはクラウンさん達が受けた任務内容まで共有されていないのでわかりかねますが、そう簡単に死ぬような人達ではないでしょう」
「そうですよね!」
「はい」
単純な人でも感じたのか、フレーネは内心クスりと笑った。
そのまま踵を返し、どこかへ行こうとするフレーネに。
「フレーネさんはどこに行かれるのですか?」
「クラウンさんも起きたことですし、食事でも買いに行こうかと」
「なら僕も行きます」
「ですがまだ――」
「大丈夫です」
「……そうですか。ならば行きましょうか」
――
閑散としていた。
街は荒れ果て、ほとんど廃墟と化していた。
しかし意外にも街は広く、かつて豊かだった面影がちらほらと見受けられた。
「……?」
フレーネの後ろを歩くクラウンは首を傾げた。
街外れの更に端に位置するここですら、豊かだった面影がそう遠い昔には見えないにも関わらず、あまりに人口が少なすぎたからだ。
「そういえば、フレーネさんはなぜこの街に?見たところあまり人もいないようですし」
「私はこの街の調査と救護に来ました」
「救護ですか?」
「はい。見て分かると思いますが、この街は領主から見捨てられた街です。元々はお酒の銘醸地として栄えていましたが、皇国が土地神を殺したことでエーテルが行き届かなくなり、土地が痩せ細ってしまいました。それに加え、アクイ博士の研究所から流れ出た汚水が泉を汚したことで土地はさらに枯れ、残った住民も移民に追い出される形になりました。私はその実態の調査と、移民による被害者達の救護で派遣されました」
ヴェーラから皇国の現状を知るように言いつけられ、既に二つの任務に派遣された。
しかし、クラウンには未だに皇国が何を目指し、どこへ向かおうとしているのか理解できなかった。
今回にしてもそうだった。
土地神を殺し、泉を汚染させ、結果――土地が痩せ細り、国民を貧困化させた。
知れば知るほど、クラウンが子供ながらに思い描いていた理想郷は崩壊した。
しかし、クラウンの中で最も印象的だったのが移民の存在であった。
今までちょくちょく耳にしていたものの、具体的にどのような被害があるのかクラウンは理解していなかった。
「スゥーはぁー」
これから伝えられるであろうショックに備えるべく深呼吸をした。
今まで散々見て見ぬふりをしてきたその存在に、クラウンは覚悟を持ってミロットやヴェーラが口にしていた革命軍の旗揚げの理由を尋ねる。
「……なぜ皇国は移民を受け入れたんですか?」
「移民は皇国の人間とは違って倫理観とモラルが欠けている一方で、繁殖能力が高い傾向にあります。それが西方ではゴブリンと移民が同一視される理由なのですが。それが貴族の方々には好都合らしく、移民の方々を労働力として安く買い叩いたり、一部の貴族に奴隷として売りさばくなど利用価値があるそうです。皇国がエネルギー確保のために空いた穴を、自国民の努力と労力で補うのではなく移民の繁殖力と移民自体を売りさばくことで保とうとしているのが今のこの国の現状です。」
「……。」
言葉にならなかった。
なんて返していいのかわからないのは勿論であったが、新しく受け入れた移民すら商品としてしか見ていない状況にクラウンは困惑していた。
「なら、移民の方々も被害者なのでしょうか?」
「……それはどうでしょう。彼らは望んでこの国に来ました。それを被害者として扱うのは違うと思います。それに――」
クラウン達が街の中心街に着くと、クラウンは思わず自分の目を疑った。
中心街を覆い尽くしていたのは皇国人ではなく、移民であり、彼らは我が物顔で街を占拠し、踊っては暴れ、皇国人を虐げていたのだ。
「彼らがこの国の害になっていることは確かです。」
「何ですかこれは!?」
「移民を受け入れるということは、自国民を犠牲にするのと同義です。そして、彼らは多様性の名の下に皇国の文化を破壊し、ゆっくり確実に侵略をしているのです。それを理解しておきながら、貴族は放置し私腹を肥やす事に邁進しているのです。」
「何で!」
「どうやら移民がどれだけ自国にとって害たらしめているのか知らなかったようですね。」
「だって、そんなこと新聞には!」
「真実を伝えるべく存在していたメディアも既に形骸化いたしました。だからこそ、我々革命軍が立ち上がったのです」
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