勧誘
日が落ちて辺りが暗くなったスパルテーのとある荒野で横になるオリオンがいた。
オリオンが目を覚ますと目の前には見知らぬ黒い肌の男の顔があった。
黒い肌の男は言う。
「いやぁ、おはよう。オリオン・ハナムレ―君」
オリオンは困惑しながらも自分の置かれている状況と何故眠っていたのかを慌てて思い出そうとしたが、思い当たる節がない。
考えているうちに頭が回転し始めて、自分が地面の上に寝そべっていることに気が付き、起き上がろうとした。
「調子はどうだい、オリオン君?」
起き上がると黒い肌の男の背後に更に五人の男女が立っていた。
「アナタたちはどなたですか?」
「俺はシシュ―ターというんだ。よろしく」
「・・・シシュ―ター・・・さん・・・?」
シシュ―ターは「そうだよ」と返事をしながらオリオンの様子を伺った。
(俺の名を聞いても表情を変えない。こちらの情報はまだ握っていないのか?)
オリオンは恐る恐る質問する。
「俺は何故、ここで寝ていたのでしょう?」
その問いにシシュ―ターは躊躇わず応える。
「それはねぇ、俺達が君を誘拐したからだよ」
そうシシュ―ターが笑顔で応えた瞬間オリオンは即座に立ち上って二歩程背後に下がり、警戒態勢に入る。
だが、すぐにシシュ―ターの背後にいた男女二人がオリオンの背後に回る。
(なんだ、この人たち、かなり早い⁉ 魔法使いか‼)
シシュ―ターはゆっくりと立ち上り「警戒するのは当然だよね。でも俺達は君を傷つけるために攫ったわけじゃないよ」と語り掛けた。
「なら何の用だ!」
「オリオン君と話がしたかったんだ」
「話?」
「そう。俺達の事を知ってもらって、共感してもらえたら、仲間になって欲しい」
オリオンは「仲間」という言葉に引っかかりを感じたが不可解な行動を考慮して「話したければ普通に話しかければいいじゃないですか。残念ですが、このようなやり方をするアナタたちを信用できません」と返した。
シシュ―ターは申し訳なさそうな表情で「君の言う通りだ。君と仲良くなりたいという気持ちが先走って俺達はやり方を間違えた。謝罪するよ」と言って仲間に自己紹介を求めた。
黒いコートで全身を覆う男が「ゲルドと申しますねぇ。ワタクシの好きなモノは暗闇ですねぇ。この月に照らされた薄暗い荒野ぁ! ああぁ! ワタクシは今、闇と一体化しているのですねぇ! ああぁ! ゾクゾクしますっねぇ」と言った。
ピンク色の髪をした女魔法使い・ベティは毛先を指でクルクルとしながらオリオンを横目で見た。
「ウチはベティ。アンタをここへ連れてきたのはウチと横にいるゴリマッチョよ」
ヴァラスは手を叩きながらリズムに乗って膝を動かす。
「♪知的な筋肉で~全てを薙ぎ倒す~♪ それは誰だ‼ 誰だ‼ ♪だれ~だ♪ それは俺だぁ♪‼ ヴァラスだぁ~~~~♪♪♪」
ベティは「うるさっ」と悪態をつく。
フードを被った小さな女は「アリアネ」とだけ言った。
最後に金髪で目の細い男は「ボクはマルコスと申します。オリオン君のお友達も寂しがっているでしょう。早めに話を進めましょう」と言った。
オリオンのその言葉に「アネッテに何かしたのか‼」と激昂する。
だがシシュ―ターは落ち着いた声で「安心してくれ。何もしていないよ。俺らが用があるのはオリオン君だけだ。君とお話し出来ればそれでいい。人質とか卑怯な手は使っていない」と言った。
嘘をついている様には思えなかったが、それでもオリオンの心は「早く真相を確かめたい」と焦燥感に駆られていた。
それを察したシシュ―ターは「早速、本題に入ろう」と言って話を始めた。
「オリオン君。君は戦争を止めたいんだよね?」
今更ながら何故自分の名前と目的を知っているのか疑問が生まれたオリオンだったが、気付かれずに自分をここまで誘拐してきた魔法使いたちである。今それを深く考える場合ではないと思い、オリオンはシシュ―ターの話を聞くことにした。
「それがどうした?」
「戦争を止めるための方法はあるのかい?」
「・・・・・・まだ確実なことはない。だけど、考えはある」
「そうか・・・・・・。ねぇ、オリオン君。この世は暴力でできていると思わないかい?」
「思わない‼」
「即答だね。・・・・・・オビアスは今、お互いの領土を自分達が正当な所有者だと主張し、殺し合いをしている。これはこの世界が暴力でできているから起きているんだ」
「アンタがそう思いたいだけだろ」
「そうかな。君も考えてみてほしい。周りで起きる出来事は皆、人の暴力性に支配されているとわかるはずだよ。
自分が欲しいモノがあれば、暴力をチラつかせ、それでも駄目なら躊躇わずに振るう。自分の言うことを聞かない者には正義の名のもとに暴力を振るう。暴力‼ 暴力‼ 暴力‼ それがこの世界の正体だ‼ いくら平和を願っても誰かの暴力性がそれをさせない‼ ならばいっそのこと、この国の全てを一気にぶっ壊してしまえば少しはマシになる‼ そう俺は考えている」
そう言った瞬間、シシュ―ターが首からぶら下げている骨のペンダントが揺れた。
「俺達が望むのは、この世界への復讐だ。まず、手始めに俺の復讐劇から始める。オリオン、君も戦争を恨んでいるのだろう。俺達と一緒に戦争ごとぶっ壊そう」
気付くとシシュ―ターを含めたアポドシウス六人にオリオンは囲まれていた。
オリオンは警戒しながらもシシュ―ターを睨む。
「俺は復讐がしたいんじゃない‼ 村の皆に安全な家で暮らして欲しい。食べるものに困らないで欲しい。戦争に怯えずに生きて欲しい。そんな人として当然の生活を送って欲しいだけなんだ‼ それを国ごとぶっ壊すだなんて言うアンタらを俺は放っておくわけにはいかない‼」
オリオンの威嚇にシシュ―ターは冷静な表情で応える。
「そうか。なら君は・・・」
そこまで言うと、アポドシウスのメンバーはあることに気付く。
少し離れた場所からこちらへ、光る球体が近づいて来ていたのだ。
ヴァラスは言う。
「リーダー。あれはなんだ?」
シシュ―ターは目を見開いてその球体を見る。
「・・・残念。本当はここで決めておきたかったけれど。皆、引こう」
ベティは言う。
「え? なんで? オリオンはどうするの? てか、あれなに?」
「あれには触れてはいけないよ。相手にしようものなら祟られてしまう。これまで積み上げた準備も作戦も全部、無に帰す。それにあれは、オリオンに向かって来ている」
シシュ―ターの「行こう」と言う声にアポドシウスのメンバーは、オリオンを置いて去って行こうとする。
シシュ―ターは最後にオリオンへ「国々が魔法をどう扱おうとしているかよく見ておくといい」と言い残して去って行った。




