謀略
修行を始めて数日が経ち、オリオン、アネッテ、リックの三人は街のカフェに来ていた。
テラス席でアーモンドミルクを飲みながらリラックスをして、修行前に英気を養っていたのだ。
アネッテは言う。
「私ってガブリエル達三人と比べて魔法の熟練度遅れていたんだね。」
オリオンは「俺なんかまだ引力操作しかできないぜ。マナの区別つかないもん」と返した。
落ち込む二人にリックは呆れたように言う。
「何言ってんだお前ら。十二歳であれだけの膨大の引力と火力があれば十分すぎるだろ」
アネッテは「でも、エルザ先生の炎は凄まじかったよ。私あんなの出せる気しないよう」と返す。
「その教師が誰だか知らんが、それはエルザって奴が凄いだけだ。比べる相手が悪い。そもそもアネッテの出力は高いぞ」
「ホントォ?」
「本当だ! お前らはアレが出来ないコレが出来ないって考えるよりも、その尖った才能を生かして特化型の魔法使いになればいい! アネッテは炎に特化した魔法使いに、オリオンは引力操作に特化した魔法使いに。それにお前らはまだ十二歳だ。これからまだまだ出力は上がる‼」
リックのその励ましに二人は立ち直り「さすが‼ 元教育長‼」と言った。
◇◇◇
カフェで休む三人を少し離れた場所から監視する二人の魔法使いがいた。
ピンク色の髪をなびかせる女性魔法使い・ベティと筋骨隆々の男・ヴァラスである。
二人はアポドシウスの構成員であり、シシュ―ターの命令でここへやってきていた。
ベティは言う。
「アラジの言うとおり西へ来ていたわね」
ヴァラスは鼻歌を歌いながら応える。
「♪あいつの情報は役に立つがリーダーはいつまで手を組むつもりだろうか♪」
「明らかにウチらを踏み台にしようとしてるよねぇ~」
ヴァラスは歌うように「まあ~~♪利用しているの、はぁ~~~♪こちらも一緒ぉ~~~~♪‼」と返した。
「ゴリマッチョのくせに繊細な歌声披露すんなし!」
「俺の筋肉は繊細な感性の上に成り立っている。そんじょそこらの筋肉とは・・・違うぜぇ~~~~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるさいなぁ! そのバカデカい声であの男にバレて、ウチらのオリオンを捕まえる任務が失敗したらどうすんのよ‼」
ヴァラスはオリオンの向かいに座るリックを見る。
「♪別に負けるは無いが、作戦前にアレとやり合うのは避けないといけないなぁ。リーダーに怒られそうだな♪」
「リーダーってか、ゲルドでしょ。アイツしんちょーすぎるんよ」
「♪今は軍を警戒してあの男が常にオリオンについているが、この街に慣れてくりゃあ、オリオンも単独で行動することが増えるだろう。そのタイミングを見計らって仕掛けるぞ。いいな♪」
「そうね。ウチも丁度そう思っていたところよ。てか、アンタ、マッチョのくせに頭いいわね」
「何を言ってんだ。筋肉をつける行為は知的な行為だよ」
◇◇◇
アーモンドミルクをお代わりして三人は会話を続ける。
リックは真剣な眼差しでオリオンとアネッテに言う。
「いいかお前ら。この世界で魔法使いとして生きていくなら気をつけなければいけない奴らがいる。それは『怪報』と『災害級魔法使い』そして『審魔六帝』だ」
「怪報なら戦ったことあるよ」
「はっ⁉ マジ⁉」
「うん。マジ。ミノタウロスの怪報を倒した」
「はぁ~。お前らガキのくせに結構な死線潜り抜けて来てるんだなぁ」
「まぁね。でも怪報以外は聞いたことないなぁ」
「『災害級』ってのは一人で都市を壊滅できるくらい力のある悪い魔法使いのことだ。判明しているだけでも世界に六人はいる。んで、大抵の災害級は怪報でもある」
「俺らが倒した怪報は災害級じゃなかったってことだね」
「怪報の中でも末端だろうな。それでも凄いけど。十二歳で怪報を倒す奴なんていねぇ。お前らの師匠は、色々とめちゃくちゃだ」
その言葉にオリオンとアネッテは何故か嬉しくなり、顔を合わせて照れた。
リックは言う。
「怪報も災害級も出会ったら戦わず逃げろってこった。そういう仕事は軍や士師に任せるんだ」
「審魔六帝は?」
リックは何かを考えているのか、少し黙る。
オリオンは言う。
「どうしたの、リック?」
「・・・・・・わからん」
「え?」
「何に気をつければいいかわからない。だから、気をつけろ」
「はい・・・?」
「怪しい集団だってのはわかる。実際『魔法安全機構』は『警戒すべき組織』として審魔六帝の名前をリストに載せている。だが、実態を掴んでいる者はいない。構成員を誰一人として知らない。詳細が何もわからない。ただ、警戒はしなければいけないってのが世界の魔法使いの共通認識だ。不気味な組織だよ」
「へぇ~変なの~。因みに、怪報、第三勢力、審魔六帝が一度に攻めてきたらオビアスはどうなる?」
「オビアスの戦力が一致団結して五分五分ってとこだな。東と西、どちらかが奴らと手を組んだらまた勢力図も変わるだろう。それにまぁこれはありえねぇが、万が一、怪報が一体でも怪物を引き連れてきたらオビアスは終わりだ」
その言葉に二人が神妙な様子でいるとリックは「そろそろ時間だ」と言って立ち上がる。
リックは言う。
「これから俺は会いにいかなきゃなんねぇ人がいる。女王に会うために必要な人だ。お前らはいつもの場所に行って修行の続きをしていてくれ。用が済んだら合流する」
◇◇◇
いつもの街外れの草原にオリオンとアネッテは来ていた。
アネッテは鞘から剣を抜き出した。
剣には花の形をした炎の印が刻まれている。
オリオンはそれを見て「おっ! つけたんだ!」と言った。
「うん。リックが紹介してくれた鍛冶屋で焼き印を押してもらったんだ。オリオンは?」
オリオンは両の手を開いて手のひらに描いてある印を見せた。
「魔力壁と同じように羽ペンとインクで描いたんだ」
「いいじゃん! じゃあ、技の回路化の修行始めよう!」
そう言ってアネッテが剣を振りかぶり、累燃火を発動して回路に魔力を通す練習を始めた。
魔力壁の回路化には成功したが、それ以外の技もそれぞれ回路化しなければならない。
一つできたからといって、他の魔法も自動的にできるわけではないのだ。
だが、一つできれば、感覚を掴むため、一回目よりも回路化しやすくなる。
アネッテは炎魔法に特化した魔法使いとはどんなモノなのか考えながら、技を磨き続けた。
そうして修行開始からどれくらいの時間が経っただろうか、集中してひたすらに素振りを行っていたアネッテが休憩を取ろうとオリオンの方へ向きなおった時であった。
草原からオリオンの姿がなくなっていたのだ。




